第44話囚われた芸人編⑤

カラオケバーは夜21時から朝5時までの営業。


0時の終電で帰りたかったが、ライターまで作ってもらってるのに、早退したい。とは言えず、ずるずる朝5時まで入った。

もちろんお客さんはカラオケバーに歌いに来ていたし、女性スタッフとお喋りを楽しみにしてる人が多く、知名度のない芸人の僕なんて全く興味を示さなかった。

さらに僕はお酒が飲めないので、なかなかお客さんの相手はできなかった。

僕は肩身が狭く、店の奥で洗い物ばかりしていた。

赤いジャケットを着ながら・・・


そんな感じで月に2回も入れば精一杯。そんな僕に店長が、

「誰か知り合いの芸人おらんの?盛り上げれる人、連れてきてーや!」

他の芸人を連れて来いと言う。

店長すらも、僕に興味を示さなくなった。


そんな感じの状況を電話で商店会長に報告する。


「やっぱりな。予想どおりや。」


「はあ?」


「きちんとギャラの一万円はもらってるんやろ?あくまで奴はスポンサーや。金だけもらっとき!」


「いやもう、限界ですよ!」


「そのうち飽きて、もう来るな!って言われるまで行き!」


「そんな!」


「奴とはそんなに深い付き合いちゃうねん。」


この商店会長?なんなんだ?


「あんたの本読んだで。ええ本や。」


「ありがとうございます。」


「でもキムタクの本の方が売れる!キムタクの本ならみんな中身スカスカでも、他人が書いてても、みんな買いよる!読みよる!それが現実や!」


「・・・」


「名前が売れないと、しゃーないねん。知らん人間の本?誰が買う?誰が読みよるよ?あんたが魂刻んで書いた文章も、みんな本の表紙すらめくらんで!どこの誰かわからん、売れてない芸人やからな!」


「うう・・・」


「だからアホなカラオケバーの店長からは、スポンサーで出資だけしてもらっとき。それより、わしの地元の⚫県に本売りにきいな!」


「いいんですか?」


「⚫県は、わしの知り合いがようさんおる!車に乗せて連れてったるからな!楽しみにしとき!」


しかし、ここで色んな疑問が沸いてくる。

商店会長、カラオケバーの店長に、僕をなぜ紹介したのだろう?

商店会長、⚫県在住なのに、なんで大阪の◯◯商店会の会長なのだろう?

そして、会長はなぜカラオケバーに姿を見せなかったのだろう?


そして、この人こそ、

なぜ僕にここまでしてくれるのだろう?

本を読んだのも、僕と知り合ってからなのに?


色んなパズルのピースが頭の中で散らばる。


その答えは、商店会長の住む⚫県に行けば、わかるのだろうか・・・

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