第28話砂漠の水編②

うちの店に新人の女の子が入ってきた。

その初日の日の朝礼。


「今日から入社します。○○です。お願いします。」


歳は二十歳くらい。若くて普通に街を歩いているような女の子だ。

しかし見渡す限り、男だらけのこの店。

かなり萎縮して自己紹介していた。


朝礼が終わるとすぐ班長が女の子に駆け寄る。

「さあ!一緒に仕事覚えていこか。」

「・・・・はい。」

「緊張してんの?大丈夫!大丈夫やからな。」

僕が初日の時はこんな言葉かけてもらった事もなかった。

そのまま班長が直接女の子の指導に入る。


他の男性スタッフたちは、

「班長、いいなー。」

みたいな顔をしている。なんじゃこら?


班長が女の子と一緒にコースに入って指導する事になったが、まさに手取り足取りという状態。

「ドル箱はこう!こう持って下ろすねん。」

「・・・こうですか?」

「違う!違う!腰をもっと引いて!」

まるでゴルフのスィングを指導するように、後ろから腰に手を回す。

そこまでボディタッチする必要あるんかいな!

「こら!お前ら!何見とんねん!自分のコースに戻らんか!」

覗きに来ていた男性スタッフ達を、班長は一括する。


俺が初日の時は、指導なんて10分で終わったやんけ!

なんで、その女の子だけみっちり手取り足取りやねん!

その後、女の子と班長はどこへ行くのも一緒。

休憩も一緒。食事も一緒。コースではみっちり二人きり。

そして業務終了。


「明日も俺がずーっと付いて指導するからな!」

「・・・・・はい。」

「大丈夫!急がなくていいから、仕事覚えるまで、ずーっと付いてあげるからな!」

まさに職権乱用である。

そんなにみっちり新人指導している班長を見たことがない。

俺なんて10分だったし、同じ日に入社した男性新人スタッフは、別の社員に指導させて、自分はほったらかしにしてたじゃないか!


そして、班長が僕らに言う。

「よし!今日は○○ちゃんが入社した、歓迎会をしよう!」

はあー?

まさに、はあー?

である。

入社した、歓迎会?

そんなもの、俺してもらった事ないし!

それから入社した、男性新人スタッフだって誰一人歓迎会なんてなかったじゃないか!

アホか?


それでもまわりのスタッフ達も、その女の子との接点や話す機会を全て班長に奪われてしまって、女の子と喋りたい人間がたくさんいた。

「俺、行きます!」

「俺も!」

みんな行きますと手を上げた。

「あ、俺も行きます!」

僕も手を上げた。


僕も女の子と、少しは喋ってみたかったからな。

僕も男だ。新人女性スタッフにやはり興味があった。


彼女こそ、まさに、砂漠の中の水であったのだ・・・・

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