第18話真実の口編⑥

頼りにしていた班長の転勤。

僕は、次期班長として主任に色んなトラブルを教わる事になった。

トラブルといっても、遊技機トラブルも多いし、人的トラブルもたまにある。

そしてホールの人手不足もあり、研磨機トラブルまで教わる時間がなかなかなかった。


そして僕も、店長から聞いた

「他店の主任が研磨機に手を入れて、指をなくした」

話を聞いてからは、そんなものに関わりたくもないと思っていた。


ある日、主任に聞いてみた。

「主任は研磨機トラブルをどうやってマスターしたんですか?取り扱い説明書みたいなのがあるんですか?」

「そんなもんあるかいな!この店に十年以上おったら、先代の主任から代々なおし方を受け継いできたんや。」

「全部受け継いできたんですか?」

「わしがこの店に来たときから、研磨機に説明書なんてない。みんな自力で業者に頼らんとなおしてきたんや。今では業者よりなおせる自信あるで!」


そして核心の話を聞いてみた。

「でも、研磨機で指をなくした主任がおるって・・・」

「それはな、きちんと電源のブレーカーを落としてから手を入れへんかったからやろ。止まってるように見えて、また急に動き出す危険性もあるねん。」

「なるほど。」

「あと、手を突っ込むだけで危険な部分もあるにはある。」


そう言うと主任は事務所のホワイトボードに、わかりやすく研磨機の断面図みたいな物をマジックで書き始めた。

「まず、下から流れてきた玉をかき集めて、それを玉を磨きながら、上部へとスパイラルで持ち上げるんや、ここの部分やな・・・」

下手くそな絵だったが、だいたいわかった。


あの真ん中の柱には、巨大なドリルみたいな物が埋まっているのだ。

それをまた強力なモーターで回転させている。玉を研磨しながら島の上部に持ち上げる仕組みだ。

「ここの部分は先端が鋭いから、手を入れる時は気をつけないとな。」

「そもそも、手を突っ込んで何をしてるんですか?」

「何かモーターに負荷がかかって、研磨機が止まる事が多いねん。何か異物がドリルに巻きついてる可能性が高い。」

「異物とは?」

「色んな物や。リーチ表、札、ネジ、釘などやな。」

「へーえ。」


色んな話を聞きながらでも、絶対に研磨機の中に手など突っ込みたくはない。そう思った。

そもそもこんな主任というスペシャリストがいるのだから。

僕が手を突っ込む事などないだろう。

そう思っていた。

主任が、ホワイトボードに書いた走り書きのような研磨機の断面図。

「まあ、何かあったときは、これを見て気をつけて手を入れるんやな。」

「はい。その絵、消さんと残しておいて下さいね。」

「わかった。」

パタンと、主任はホワイトボードをひっくり返し裏を向けた。

そのホワイトボードが、後々とんでもない事になろうとは、この時予測できなかったが。


「そうそう!何かあった時のために、研磨機の業者の電話番号も教えておくわ。」

「はい。」

「業者呼んだら、それだけで出張料が発生するからな。最悪の最悪の時にだけ、電話するように」

「・・・・はい。」

色んな事を教わったが、全て含めて30分くらいの会話だった。

その最後に主任はこう締めくくった。


「大丈夫なんか?これから一人で?」

「はい?」

「・・・わしも今月で退職するんやで。」

「はああああ!!??」


主任が辞める?今月で?

何も聞いていない!!

どうするつもりなんだ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る