第17話真実の口編⑤

ある日ホールを見ていたら、台の間に吊してある、リーチを説明する表がなかった。

それを見つけた主任が叫びたおす。

「ここの台のリーチ表どこに行ったんや!」

あわてて、探してみると、台と台のすき間に落ちていた。


「こういうのが、台の裏に落ちて、研磨機に流れて、研磨機のモーターが詰まるのや!」

なるほど。こういう些細な物が台の裏から研磨機へと混入するのか。


さらに別のスタッフが、

「あのう、手に持ってるダスターをどこかになくしてしまったんですけど。」

あわてて主任が叫ぶ!

「なにー!探せー!!」

みんなで台を開けてくまなく探す。まさか台の裏に混入する事は考えにくいのだが、そんなダスター一つでもなくなれば、大騒ぎして探した。

たいがい、どこかの椅子の上に置きっぱなしになっているのだ。

その時も、椅子と椅子のすき間に落ちていた。

些細な備品もなくなれば、研磨機トラブルに直結する。実際研磨機トラブルになれば、地獄なのだから、主任が神経質になるのもわかる。


ある日の朝礼。

店長がみんなの前でこんな事を言った。


「先日、うちのチェーン店で、研磨機トラブルの時に、手を突っ込んだその店の主任が、指をなくしたらしい。」

「・・・指?」

店長の「指をなくした」

の意味が最初はよくわからなかった。

しばらく考えて・・・・

・・・・ようやくわかった。


研磨機のモーターに、手の指を巻き込まれて、

指を切断されたのだ!

指をなくしたとは、そういう事だ。

主任も班長もお互いに顔を見合わせて、顔を青くした。

自分たちも同じ目にあうかもしれない。

これまでも、何度も研磨機に指を突っ込んできたからだ。


「ええか!絶対に、お前ら!


・・・・指をなくすな!!」


それが店長の言葉だった。

そんな事言ったって、どうするんだ?

いざという時の研磨機トラブルの時?

指をなくす危険性があるのに、それでも実際研磨機が止まったら、誰かが手を突っ込まなければならないのだ!


それからしばらくして、僕は店長から呼ばれた。

「班長の○○が転勤になるんや。」

「・・・はい?」

「これからは、班長のかわりに、お前が主任を助けてやってくれ。」

「・・・・はい。」

「色んなトラブル対応のやり方、主任から教わるようにな。」


色んなトラブル。

それにはもちろん、研磨機トラブルも含まれている。


僕は巻き込まれていく。少しずつ。

悪魔のモンスター、研磨機へと、少しずつ、少しずつ。

巻き込まれていくのだ・・・・


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る