第14話真実の口編②

あの頃僕は、とあるお店の一般社員だった。

朝からパチンコのコースを巡回し、お客さんのドル箱の上げ下げをしていたのだが。

ん?

いつもより?

何かが違う?

そう、静かなのだ。

パチンコ屋特有の、


サー、もしくはザーザー。


という音がしていない。

当時は経験が浅く、いつもより静かだなー。ぐらいにしか思っていなかった。

そして数分後、お客さんに呼ばれて行ってみると、

なんだ、これは?

パチンコの盤面の下から玉が溢れてきているではないか!

お客さんの打った玉が、飲み込まれずに、盤面の下に積もっている。

あわてて台を開けてみる。

なんと!

島の中が玉だらけ。台の裏にまで玉が積もっているのだ。こりゃ、お客さんが打てば打つほど玉が溢れてくる!


あわてて、当時のその店の主任を呼んだ。

「なんで、すぐに呼ばへんのや!」

主任は状況を見るなり、島の真ん中にそびえる柱を指差した。


「研磨機が止まってるやないか!!」


顔を真っ赤にして、そのままその柱に向かってダッシュして行った。

研磨機が?止まってる?

その店の班長も駆けつけてきた。大きな脚立を持ってきた。

その脚立に主任は飛び乗り、最上段まで登って

島の真ん中の柱のてっぺんに何やら手を突っ込みだした。


僕は、なんの事かわからず、班長に、

「あのう、台の裏に玉が積もってるんですけど・・・・」

班長も激怒した。

「研磨機が止まってるんやから、当たり前やないか!」

僕は仕組みがよくわからなかったが、その島の真ん中の柱が研磨機というものらしい。

それが止まるとお客さんの打った玉が、台の裏から溢れてくる。というのは、わかった。


しばらくして、違うお客さんに呼ばれる。

「お兄ちゃん!大当たりしてるのに、台から玉が、出てけえへんわ!」

僕はまた台を開けてみる。

島の上から、玉が下りてきてない!台の中の玉が、空っぽだ!

また班長に聞いてみる。

「あのう、上、玉が、空っぽなんですけど。」

また班長は激怒する。

「研磨機が止まってるからやんけ!!」


この時に僕は、パチンコの循環システムをなんとなく理解した。

研磨機が動いてるから、お客さんの打った玉が裏から溢れない。

研磨機が動いてるから、台の上から玉が補給される。

つまり、お客さんの打った玉を、持ち上げて上から補給しているのが研磨機だと。


脚立に登った主任が手を突っ込みながら叫び倒す。

「班長、まだ時間かかりそうや!バケツ!バケツ!」

班長が玉で溢れ返った島の中に身体を突っ込み、バケツで溜まった玉をすくう。

それを脚立に乗っている主任に渡す。

主任は柱のてっぺんから、そのバケツをひっくり返し、玉を上から流す。

するとどうだろう!

玉が空っぽだった島の上からかすかに玉が流れてくるではないか!

「班長もっとや!もっとバケツ!」

「はい!原田、お前も手伝え!」


この人達が何をしているのかわかった。

台の裏に溜まった玉をバケツで汲み上げ、島の上から玉を流す。

止まった研磨機の代わりをしているのだ。

即席の人力研磨機をしているのだ。


僕もバケツに玉をすくいあげ、脚立の主任に渡す。

ザーザー、ザーザー。

その後も主任は研磨機の柱に手を突っ込み続けて、バケツの玉も流して、一人で汗だくになっていた。

しばらくして・・・・


ザーザー!ザーザー!ザーザー!

はっきりと機械の音が聞こえてきた。

「動いた!研磨機動いた!」

主任が脚立の上から、叫ぶ!

見ると柱の中央のランプが点灯している。

主任が研磨機のトラブルを治したようだ。


台の裏からはみるみる、打ち込んだ玉が消えてゆき、

島の上から大量の玉が転がってきて、各パチンコ台に補給されていった。

ものの15分くらいであろうか。


研磨機のトラブル発生から、復帰まで15分の間、主任と班長は悲惨なくらいのバケツリレーを繰り返し、研磨機に手を突っ込み、やっと復帰させた。


それでもお客さんの怒鳴り声。

「どないなっとんねん!どんなけ玉出てけえへんねん!」

15分間パチンコ台から玉が出てこなくて、待ち続けたお客さん達。

みんなお金が掛かっているのだから必死である。

汗だくになった、主任と班長はまたそのお客さん達一人一人に頭を下げ、謝罪して対応していった。


その時に感じた。


研磨機のトラブル起こったら、最悪やん!

地獄やん!

たった15分でこんなになるなんて!


それが僕が初めて経験した、研磨機のトラブルだった。

まさに研磨機はパチンコ屋の心臓である。


止まったら最後、最悪の状況しか生み出さない・・・・

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