第15話真実の口編③

パチンコ屋のトラブルで多いのは、遊技機トラブルである。

台から玉が出てこない。

ハンドル持っても玉が飛ばない。

それらは、少しの手間で治る事が多い。

その次に、たまーに起こるのが人的トラブルである。

お客さんがお金をなくした、携帯をどこかに忘れてきた。etc.

お店が忙しいときに、そんなトラブルが起きると、かなりの従業員の負担である。

しかし研磨機のトラブルが起きたとき、従業員にかかる負担は、それらの比ではない。

もちろん研磨機トラブルの発生率は低い。

そんなしょっちゅうは起こらない。

それでも忘れた頃に起きる。

年に2、3回くらいは、どえらい研磨機トラブルが起こるものだ。


その店は主任が十年以上勤務していた。研磨機トラブルも何度も経験していて、誰より研磨機の事を熟知していた。

だからいつも研磨機トラブルになると、率先して脚立の上に登り、研磨機に手を突っ込む。

その次に、その店の班長。いつも主任の相棒となり、サポート役にまわる。

万が一の研磨機トラブルでも、この二人の活躍により、救われていたのだ。


僕なんか研磨機止まると、あーあ!

と思って、溢れてくる玉を見ながらこの二人の活躍を見ていたのだ。

玉が出てこなくて怒りたおしてるお客さんに

「少々お待ち下さい」

と言うのが精一杯だ。


なんせ、脚立に乗って研磨機に登るのが、一人で精一杯だし、実際主任が何をしてどのようにして研磨機なおしているのかなんて、対面に脚立を立ててそれに登ってのぞいてみないとわからないのだから。

本当にこの二人によって何度研磨機トラブルを乗り越えてきたことか。


ある日、主任が休みの日の事である。

めちゃくちゃ忙しいピーク時に研磨機が止まってしまった。

「研磨機止まりました!島から玉が溢れてます!班長!」

僕は、あわてて班長に助けを求めた。


「くそう!主任がいない日に、何でよりによって!」


すぐに脚立を立てて班長が研磨機によじ登る。

しかし、一向に研磨機は動かない。

島からは玉が溢れてくるし、台からは玉が出てこない。お客さん達の怒りもピークに達した。


「あかん!もう、業者に連絡する!」

班長は八方手を尽くしたが、もう限定のようで、脚立から飛び降り、携帯で業者に電話した。

そこから、救急隊員ならものの10分で駆けつけてくるだろうが、研磨機の業者はそうはいかない。


「くそう!業者がここまで来るまでに一時間かかるらしいぞ!」

班長はまた研磨機によじ登る。

「原田バケツや!バケツ!」

いつもは班長がしているはずの、バケツ係を僕がするしかない。

お客さんは玉が出てこなくて、怒り倒して台をぶん殴ってる人もいる。

僕は、島から溢れ出した玉をバケツにすくいあげ、脚立の上の班長に渡す。

以前にもやった人力研磨機である。

しかし、今日のは違う!

治る見込みのない研磨機、業者が来るまでの死の一時間!

まさに人力研磨機のロングバージョンである!

もう一人従業員を呼んできて、そいつにもバケツ係を任命する。

僕ともう一人でバケツリレーを行い、班長に島上から玉を流してもらう。


「まだ!玉出てけえへんぞ!」

お客さんも暴れる寸前。

「お兄ちゃん!早く箱下ろしてーなー!」

もちろん、通常時の箱の上げ下ろし業務もしなければならない。

主任がいないと、こうも悲惨なのか!

そして一時間後、業者が到着する。


作業服の二人の業者が島上によじ登る。

その間も僕らみんなで、バケツリレーによる人力研磨機。

そしてトラブル発生から、二時間経過。


ザーザー。ザーザー。

業者たちのプロの技により、研磨機は息を吹き返した。

しかし、時すでに遅く、お客さんは怒って何人か帰ってしまった人もいた。

僕らは散乱した玉を拾い集め、残ったお客さん達にひたすら頭を下げた。


「この店!どないなっとんねん!」

お客さん達に死ぬほど怒鳴られる。


こんだけクタクタになって、さらに怒鳴られるなんて。


研磨機トラブルは最悪の最悪だ。

二時間も止まれば、お店の息の根を止める勢いだ。

そしてまた何事もなかったのように動きだす。

ザーザー。ザーザー。


まさに、モンスターだ・・・

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