第13話真実の口編①

オードリー・ヘップバーン主演の名作映画

「ローマの休日」の1シーン。

ローマの名所、真実の口を目の前にして、アン王女と新聞記者のやりとりがある。

「この真実の口は、嘘つきが手を入れると、手を食いちぎられるんだよ。君も手を入れてごらん。」

アン王女が恐る恐る真実の口に手を入れるが、何も起きない。

次に新聞記者が手を入れると、

「うわぁ~っ!!手が!手が!」

と、騒ぐが、実は王女を驚かせるための芝居で手は食べられていない。

そんな心温まる和やかな名作映画のワンシーン。


僕みたいなパチンコ店員も、真実の口に手を入れてみたことがある。

場所はローマではない。

パチンコ屋である。

そして、心温まるシーンなどではなかった・・・・


ここでパチンコ屋の設備を少し説明しておかなければならない。

パチンコ台に玉を打ち込むと、玉がパチンコ台の中へと消えていく。

パチンコ台が大当たりすると、パチンコ台から玉が出てくる。

そのパチンコ玉は同じである。

つまり、台の裏で玉が循環しているのだ。


正確に言うと、パチンコ台に打ち込まれた玉は、台の裏の坂を下り、その列(島)の中央に集まる。

そこに研磨機(店により還元機とも言う)という大きなモーターがあり、そこで玉を研磨して、スパイラルで持ち上げて島の上から、今度はお客さんの頭の上を通り、パチンコ台へと補給されていくのだ。

つまり人間の血液に例えると、台に打ち込んだ玉は、静脈。

それを持ち上げる研磨機は、心臓。

そしてパチンコ台へ帰っていく玉は動脈。

ということだ。


結構簡単な仕組みだが、

人間の場合、心臓が止まるとどうなる?

死ぬ。

もしくは、死に値する状況になるだろう。

では、パチンコ屋で心臓にあたる、研磨機が止まるとどうなる?


今回の敵は人間ではない。

パチンコ屋の中央に、でーんとそびえ立つ、研磨機というモンスターである。


そう、僕が手をいれたのは、ローマの名所の真実の口ではない。

研磨機という、・・・・真実の口である。


(今回は多少、残酷な描写があります。)

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