第5話一本レース編④
ある日、うちの店に新人アルバイトが入ってきた。18歳の若くてスポーツマンタイプの男だった。
「原田、新人くん教えてあげて!」
社員の人に言われて僕が新人くんの指導をする事になった。
「よろしくお願いします。」
とても素直で純粋そうな子だった。
「パチンコはね、ここに玉が入るとデジタルが回って、大当たりすると・・・」
「知ってます!自分でもよくパチンコ打ちに行くんで!」
「なんだそうか!じゃあどんどん先教えていくで。」
その新人はとても飲み込みが早く、ドル箱の上げ下げやランプ対応も迅速に覚えていった。
「すごいやん!もう一週間で、半分のコース一人で見れるんや!」
僕も彼の覚えの早さに目を丸くした。
「はい!パチンコ屋の仕事、結構面白いです!もっと色々覚えたいです!」
とても素直で前向きな新人だった。
1ヶ月くらいたって、社員さんが言う。
「新人くん、もう一本見させようか?」
「いや、それはちょっとまだ・・・」
僕は反対した。せっかく続いて頑張っているのに、キツい一本のコースみたらダウンして辞めてしまうような気がした。
しかしアルバイトの人数もいないので、新人くんに一本のコースの見方を教える事になった。
「今日は一本のコースひとりで見てもらうで!覚悟しいや!」
「頑張ります!」
僕は新人くんに付いて、一本のコースを見るノウハウを全て伝授した。
ドル箱の上げ下げをしている時に左右を確認し、次に行くべき台を把握する事、呼び出しランプが見にくい場所のときは、天井の鏡に映るランプを見れば、死角にいてもランプがわかる事。
紙コップをガチガチに固めて、スキを見てお客さんの灰皿の吸い殻をとる事。
僕がずっとやってきた一本コースを見るノウハウを全て彼に叩き込んだ。
もちろん、初日は呼び出しランプがつきまくり、彼も汗だくで仕事していた。
しかし、もう2日目には要領を覚えて、ランプ対応しながコース清掃もできるようになった。
「すごいやん!覚えるの早いな!」
「はい。なんとか一本いけそうです。」
指導している僕も嬉しいかった。
そんな新人くんは、社員さんや先輩アルバイトの人たちも気に入って、毎晩仕事終わりにみんなで飲みに行くようになった。
僕はお酒が飲めないので、飲みには全く行かなかった。
新人くんはすぐに社員さんや先輩アルバイトたちに可愛いがられ、ボーリングに行ったり、カラオケに行ったりプライベートでも遊びに行くようになった。
少しずつ、少しずつ、新人くんの僕への態度がおかしくなる。
「おはよう!」
と僕が挨拶すると、
「ちーっす。」
だんだんなあなあになってきた。
僕が彼のコースの隣で仕事していると、彼のコースのトップランプが付いている。
行ってみると、コースの端のお客さんが呼んでいたので僕がドル箱を下ろしてあげた。
すると新人くんがすっ飛んできて、僕の置いたドル箱を自分で置き直す。
「原田さんのドル箱の置き方、汚いねん。端から見たらガタガタやし。」
僕もイラッとした。
「それやったら、自分でドル箱下ろせや。」
「もうちょっとで、僕が駆けつけて間に合うとこやったのに、あんたが勝手に先に下ろしたんやん!」
「はあ?」
「とにかく、僕には僕の置き方があるんで、勝手に僕のコースに入らんとってもらえます?」
こいつ。
パチンコ店員によくあるプライド。
自分のコースは自分で見ている聖域。
他のスタッフには入られたくない。
自分の箱の置き方と違う。
自分の札の刺し方と違う。
そんなのに腹が立つ。イライラする。
そして他のスタッフは自分のコースに入ってくるな!と思う。
若くて粋のいいアルバイトは、まずそういうプライドを持ってしまう。
僕は彼より年上だったので、そんなつまらんプライドはさほどなかった。
コースの端から端まで一人で見るのは無理。
フォローしてもらう人間がいなければならない。
しかし、一人でコースがある程度見れるようになると、逆にフォローに来るな!入ってくるな!と思ってしまう。
このコースは俺の任された聖域なのだ!
彼はそんなプライドを持っていた。
僕もそれをそれ以上責めなかった。
社員さんも、そんなプライドを持って自分のコースを見るように指導していたからだ。
仕事に対する責任感なのか?
それともただの自己満足なのか?
僕は疑問で仕方なかった・・・・
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