第8話

 ラッパを吹く太陽が小鳥の群れを打ち落とすと彼らのくちばしが夜のテントに小さい穴をあける。毎夜行われる死と再生が星の誕生の秘密である。

 天井に灯る街燈には一つ一つにスイッチマンがいて辞典のように厚いラブレターの指示通りに明かりをつけたり消したりしている。

 骸骨仮面をしたアイススケート選手たちが光速に近づこうと努力しているのを星たちが笑っている。そのキラキラした声は聞く人たちに言わせると嘲りと言うよりは祝福なのだという。このアンビバレントな皮肉が山の王たちには耳心地のいいおとぎ話なのだという。

 桜の木だけが植えられている小さな星があるという。そこでは毎年短い春に天使の羽のような花弁が舞う。その音階は聖なる響きを持って、銀色のフルートが数学によって定義された紫の方程式を奏でる。その音色は大地の使いたる王冠をかぶったねずみに神託を与え、彼にお菓子の作り方と天の星々の運行の関係を教えた。

 星界には月のように白い星をテニスボールにして遊ぶ亀たちがいる。彼らのラリーは星の周回軌道上で行われるため速く動く必要がないのだ。そんなわけで宇宙では亀たちでもテニスを楽しめる。

 星界の不思議。

 星々の秘密。

 地上の魔術師たちの奥義。

 亀の使うテニスラケット。

 そんな様々なものがバラバラに断片的に書きつけられた出来そこないの脚本を書くシナリオライターはタバコをくゆらせながら今日も言葉を宝石に刻みつける。

 その魔石にはバスケットボールをスリーポイントから狙い撃つのに最適の魔法が込められている。

 カンガルーたちはその袋の中に魔石を入れてバスケットコートを走り回る。

 ウサギたちはそれを不正だと言うだろうが、彼らだって青色の緑柱石にトラベリングを防ぐ護符を隠し持っているのだからおあいこだろう。

 宇宙規模で行われるスポーツ大会では魔術師たちはしばしば大量の金を稼ぐことが出来る。

 誰もが星々の威信をかけて戦うのでちょっとばかりの不正を働くのだ。魔法使いたちにとっては腕試しできるチャンスであり、また星々の争いに参加できるめったにない名誉なことなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電気仕掛けの砂時計 白Ⅱ @shironi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ