第3話

半二次元の世界へようこそ。


半二次元研究の第一人者であるプポポニス博士はこう言った。


『人生とは半二次元である』


何を言っているかわからないだろうが、私もわからない。


今日もまたあの男女の様子を観察してみよう。


ーーーーー


今日は妻の誕生日です。

11月29日で“いい肉の日”で夫は覚えています。


去年の妻の誕生日に「今度の誕生日はサプライズがいいな☆」と催促を受けていました。


それから夜な夜な“サプライズ誕生日”をネットで夫は調べていました。


『サプライズで指輪をプレゼント』これは妻も喜びそうです。

『サプライズでフラッシュモブ』妻も感動してくれるかも知れません。

その他、豪華なホテルでディナーやクルーザーなんてのもありました。電工掲示板で愛を伝えたり、映画館で…なんてのもあります。どれもお金が掛かりそうです。


夫の小遣いは毎日1000円ですが、お弁当やタバコ代も含まれる為、一日60円しか残りません。しかも土日祝日は無しです。たまに妻がお手伝いに応じて小銭をくれます。


4ヶ月に一度の記念日(誕生日、結婚記念日、クリスマス)ですから

約2000円程しか予算はありません。全然足りなそうです。


夫は基本マザコンワガママなので自分のタバコ代を削るという知能を持ち合わせていません。ですから出来る範囲でやりくりする必要があります。


普段夫はギャンブルはしませんが、妙な自信過剰を持ち合わせているところがあり、それが原因で王様気質が出て世の中の不適合に成り下がったのですが、本人は若くて可愛い嫁をゲット出来たので特に気にしていません。


今回はパチスロに挑戦することにしました。意を決していざ戦いに向かいます。


~3分後~


あっという間に飲み込まれてしまいました。2000円に夢を詰め込み過ぎました。さすがに夫も落胆の色を隠せません。その日は家に帰って布団を被って引きこもりました。ポケットには380円しか残っていません。お誕生日は明後日です。


夫は嫌なことがあると布団によく引きこもるので妻はあまり気にしていません。ただ少し寂しくなったので、布団に被さる夫の上に少し寄り掛かりました。


布団を通して妻の温もりを感じます。しばらくすると夫が泣きながら布団から出てきたので、妻は優しく頭を撫でてあげました。


その日はそのまま寝ました。


~次の日~


夫は妻がパートへ出掛けると、いそいそと1,380円を持って出掛けました。今日はタバコもお昼ご飯も抜きです。いつも焼き肉弁当を取り置いているコンビニも今日は取り置いていません。去年も、一昨年も11月29日に夫は来なかったからです。


なんだか夫は嬉しそう。手には小さな花束とプレゼントの箱が入った袋をぶら下げての凱旋です。どんなプレゼントを用意したのでしょうか?


~誕生日当日~


「今日はサプライズだから」と夫は妻に告げて、妻は朝から家を追い出されました。何やら準備をするようです。すでにサプライズを告げてしまってはサプライズもクソもないのですが、妻はおとなしくお出掛けに行きました。今日は自分へのご褒美にのんびり映画でも見に行くようです。


その間夫は大忙しです。

部屋を片付けてコピー用紙をカラープリントし、色紙にしてハサミでわっかを作りながら鎖状にして部屋を飾り付けます。


昔お母さんにしてあげたような誕生日サプライズです。


リビングの真ん中には『妻おめでとう!』の文字が色んな色で描かれてプリントされています。


部屋の準備が出来たので、ケーキを買いにいきます。


ポケットには残り580円。今日は土曜日なのでお小遣いはありません。


妻には妻が大好きなモンブランを買ってあげたいと思っています。

ですが、スペシャルモンブランは450円です。自分の分のケーキはあたりません。やっぱり280円のショートケーキを二つにしようか…などと40分ほどショーケースの前で悩みます。とんだ営業妨害です。けれどもケーキ屋さんもニコニコしています。


毎年毎年、年に一回、夫はここで長い時間を掛けてケーキを選んでいるからです。お母さんが元気だった時から、ずっとここのケーキがお気に入りです。


結局、妻にはモンブランを、自分にはクッキーを一枚買いました。ローソクはプレゼントしてもらいました。


家に帰ると晩ごはんの支度です。今日はいつもの炒飯です。というかこれしか作れません。


トントントン。

ジャー。

ガチャガチャ。

ザッザッザッ。


トントントン。

ジャー。

ガチャガチャ。

ザッザッザッ。


ようやく準備が整いました。ソファで一息ついていると<ピンポーン>とチャイムが鳴りました。


「おおーい、帰って来たよー☆」


妻のお帰りです。

帰って来たらサプライズだからチャイムを鳴らすように言っておいたのです。


急いで顔を黒く塗り、冠婚葬祭用のスーツに着替えます。


<ピポピポピポピポピポーン!>

妻がチャイムを連打しています!


汗だくになりながら準備が出来ました。紙で作った黒いハットを斜めに被り、玄関に立ちます。そしてスマホから音楽を鳴らしました。


マイケル・ジャクソンです!まさかのマイケル・ジャクソンの物真似から入りました!フラッシュモブのつもりでしょうか?顔を黒くするところに時代を感じます。


<ガチャ>


躍りながらドアを開けると妻とのご対面。夫は音楽に乗りながら嘘くさいムーンウォークで妻をリビングへ誘います。


妻はちょっと嬉しそう。サプライズは成功です。


妻をソファに座らせてマイケル・ジャクソンの一人舞台です。この日の為に練習しました。『妻おめでとう』の垂れ幕もステージを彩っています。


「ポゥッ!」「アォッ!」


なんだか妻はニコニコしています。

最後にポーズを決めて、花束とプレゼントを渡しました。


妻は嬉しそうにプレゼントの包みを開けると…


ゴディバの限定チョコが一つだけ入っていました。


妻が雑誌で見て「食べてみたいなぁ☆」と言っていたチョコレートです。


妻はそれをひょいと一摘まみするとポンと口の中に入れました。


「うーん!美味しい☆」


幸せにチョコを頬張る妻を見て夫はご満悦。サプライズは大成功です。


先程作っておいた炒飯をレンジでチンしていただきます。


今日妻は映画に行ってから買い物に行ってきたようです。途中でパントマイマーに会いいたく驚いたようで、興奮ぎみに話をしています。来年の出し物が決まりました。


ご飯の後にはケーキです。妻にはモンブラン、自分はクッキー。


本当は夫もケーキを食べたかったのですがお金が足りませんでした。すると…


妻が箱からケーキを取り出してきました!夫が好きなショートケーキです!エスパー妻!?


違います。妻は夫の行動をお見通しなのです。夫の行動範囲は決まっているので、帰りにいつものケーキ屋さんに行って何を買っていったのかを聞いていました。


前にケーキ屋さんから聞いていました。夫は小学校三年生の時に、お母さんの誕生日にお小遣いでお花とケーキを買ってあげたこと。喜んでくれたお母さんの為に、それから毎年ここのモンブランを買ってあげていたことを。


本当は妻もショートケーキの味の方が好きです。

けれども夫が買ってきたモンブランの方がもっともっと好きです。


それから妻は夫に大きな箱を渡しました。中には星の図鑑でした。

夫は図鑑が大好きです。


今日は夫の誕生日でもあります。

奇声を上げて喜ぶ夫を見て妻も幸せそうな顔をしています。


ケーキを食べながら二人で図鑑についていたDVDを見ました。


その後、興奮した夫は庭に妻を連れ出して冬の大三角形を見ました。


三つの星が煌めく姿を見て、妻が「そろそろ子供…」と呟きました。


今日は妻もやる気です。


15センチの男女。


ーーーーー


いかがだっただろうか?


全然半二次元に触れないことにはご容赦願いたい。


つまり我々となんら変わらないということだ。


また会おう。


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15センチの男女 優和 @yuuwa

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