序章

序章

「和!朝よ。早く起きてご飯を食べて!」

「チッ、うるせぇなぁ…分かったから耳元で言うなよ」

 あれから、10年が経ち、もう16歳になっていた。俺達は高校生になり、男子高と女子高に別れてしまったが、今でも会って遊びに行ったりしている

 俺は、髪の毛に寝癖が付いたままリビングに入り、朝飯を食べた。

「頂きます」

「どうぞー」

 俺の家庭は、母が1人で爺さん婆さんは両方ガンで5年前に他界。父は母が離婚してから会ってはいない。

 母に今まで育てられて、特に不自由な生活は無く、今も普通に暮らしている。

「今日の鮭の塩加減はどう?」

俺は少し薄いと感じたが、体には優しいので丁度いいと答えた。

「ご馳走様、風呂はいって学校の準備して行くから、母さんも早く仕事の用意しろよ」

「はーい」

 いつもこんな感じで朝を迎えているが、今日は違う事に俺はまだ知らない。

 学校の用意をしてから、脱衣場にいき、寝間着を洗濯機に突っ込み、風呂場のドアに手をかけると、湯船の入った音が聞こえた。

(母さん風呂沸かしといてくれたんだ。味なことしてくるな)

 そして、風呂場の扉を開けるとそこには、彼女が居た。

「なっ!?」

「………あ、和君おはよう!一緒に入る?」

俺はスグに風呂場のドアを閉めた。後少し反応が遅れたら色々と危なかっただろう。

「何で居るんだよ!」

「一緒に通学しよかなと思い、深夜に侵入しまして、空き部屋で寝させてもらい、現在に至ります!」

「何普通に不法侵入してんだ、バカ!」

 彼女は最近こんな調子で、奇想天外な事をしてくるようになってきた。

 前は布団の中にいたり、夕飯(ダークマター)を作っていたりしていたが、今回は流石に予想の範囲外だった。

「入らないのー?」

「入れるか!まずお前裸で居ることを忘れんなよ」

そう言うと、風呂場のドアが勢い良く開き驚いた俺はそちらの方を向くと、裸体を晒した彼女が目の前に仁王立ちで立っていた。

「私は和君に見られても良い!と言うか見てほしい!」

「この変態がーー!!」

 そんなこんなで、新しい日が始まる。


 朝から色々とあったが、結局一緒に通学する事になってしまった。

 外に出でると、彼女は真面目で大人しくしているが、何故2人でいる時はあんな事をするのか、正直分からなかった。

「ねぇ、和君」

「……なんだよ」

「怒ってる?朝からあんなことして」

彼女は、少し反省した表情でこちらに問いかけた。そう思うんなら最初からするなよと思うが、そうきつくも言えない。

「別に、逆に何もしなくても和葉の裸体を見れてラッキーだったぜ」

 最終的には自分が馬鹿な返答をして、叩かれて終わりなのだが、今回は少し顔を赤らめて小さな声で何かを呟いた。

「?何か言ったか」

「べ、別に!もう、この変態さんめ!」

「お前人の事言えんのかよ…」

そんな事を言いながら、俺達は学校に行くため、途中で別れた。

「じゃあな、どうせ夜来るんだろうけどよ」

「うん、私も楽しみにしてる!」

「何をだよ」






 いつも通りに学校に着くと、同じ制服の着た生徒は俺を見るとすぐさま逃げていく。

「ひっ!!和義だ、うわぁぁぁ!!」

「ま、まだ死にたくねぇ!」

悲鳴が校内に響き渡りしばらくすると、その場が静まり返った。

 教室に入ると、皆俺に目を合わせようとはしない。先生も泣きそうな顔をしながら出席を取っていた。

「でっ、では…出席を取ります…」

そんな光景を見ながら、俺はため息をつきながら、ふと窓の外を見ると、鮮やかな桜の花弁が散っていた。

「まだ、春か…つまらねぇな」

そんな事を言いながら、俺は授業に受けた。


 昼休み、食堂に行くと普通の皆は楽しく食べているだろうが、何故か俺が行くと、皆恐ろしい何かを見ているような目でこちらを見てくる。

「はぁ……」

俺はため息をつきながら、食堂の叔母ちゃんにお金を渡し、カレーの辛口を頼んだ。

 ここの食堂の人は、よく小さい頃遊び相手がいなかった俺に優しくしてくれた人が多かったので、いつも優しく接してくれた。

「和君、今日も皆に見られてるのねぇ。虐められてるの?」

「大丈夫だよ、もしなんかあったら叔母ちゃんに迷惑はかけないから」

そう言いながら、空いてるテーブルに着くと、誰が勢い良く隣に座ってきた。

「和君、一緒にたーべよ!」

「お前、女子高に居るんじゃねぇのかよ…」

 『愛佳 紗倉まなか さくら』幼稚園の頃から一緒で、朝から全裸登場を決めてきた子だ。

 俺だけだと、その場はどんよりした空気になっていたが、紗倉が来ると、俺の周りに花が咲いたかのように、鼻の下を伸ばしながら男共は紗倉の事を見ていた。

「じゃじゃーん!!見て、手作りだよ!」

 そう言いながら開けた弁当箱の中身は至って普通の唐揚げが入っていたが、紗倉は少しおっちょこちょいをしてくる。いや、少しどころではない、結構やばいくらいだ。

「紗倉…お前、前にも唐揚げ作ってきて食べさせてくれたけど、バニラエッセンスやら、砂糖何かで、ダークマター化してたの覚えてるか!」

「大丈夫だよ!今回はそう思って、味付けを変えて見たから」

「…………無茶苦茶辛くしたんだろ…」

そう言うと、黙ったまま唐揚げを箸でつまみ、俺の口に押し付けた。

「うぐっ!? なにすんだ!毒味ならお前がしろよ!」

「黙って、たべて」

「…………」

紗倉の目は少し悲しい目をしていたが、俺は中身に何が入っているのかは分かっていたが、死ぬ覚悟でそれを口にした。

 口に入れるまではまだ大丈夫だったが、かんだ途端に、中の肉汁が舌を麻痺させた。次に唾液が止まらなくなり、噛めば噛むほど、痛くなってくる。

 飲み込み胃の中に入ると、胃が熱く燃えるように感じた。そして飲み込んだ時に喉に付着した肉汁が気管に触れると、呼吸が出来なくなった。

 それと同時に、俺の意識は飛んだ。


 目が覚めると、俺は保健室のベッドに横たわっていた。

 隣には、怖めの女性の医師が居た。

「あの女の子なら、家に返したわよ。」

「紗倉の事ですか?」

そう聞くと、深いため息をつきながら俺が倒れた後、何があったかを説明してくれた。

「あの子の弁当箱の中に入ってあった唐揚げ、よく食べて生きていれるわね。普通ならショック死になってるはずよ。」

「タバスコとか入ってたんですか」

「そんな生優しいものだったら良いのだけどね…取り敢えず、命に関わる心配は無いからもう少し寝てから帰りなさい。」

 そう言うと、ベッドの仕切りのカーテンを閉じてその場から去った。

(まずアイツ…どうやって入ったんだ?)

 不思議にも思いながら、ベッドから出て家に帰った。

 家に帰ると、母さんが夕飯の支度をしていた。

「今日のご飯はー」

「なんでしょーか!一つ、肉じゃが。二つ、オムレツ。三つ、佐倉ちゃんの手料理!」

 俺はスグに分かった。玄関には俺と母さんの靴しか無かったが、今キッチンには佐倉がいる事がはっきり分かる。

「紗倉、普通に作れよー」

そう言うと、奥の部屋から、エプロン姿の佐倉が登場してきた。

「どうして分かったの!?」

「いや、何となく…取り敢えず、普通に作れよ。その方が、美味いんだからさ…お前の手料理…」

「うん!じゃあ普通の味付けにするね」

「あぁ、頼む」

そう言うと、紗倉は後ろに向き、奥の部屋に戻っていった。

(紗倉のエプロン姿…可愛いかったな…そういや、あいつのあんなまともな姿初めてじゃ…)

 そう思っていると、奥の方から母さんと紗倉の話し声が聞こえた。

「どうだった!」

「あまり反応してくれませんでした…私のエプロン姿、あんまり似合わないのかな?」

 どうやら、エプロン姿の話をしているらしい。

 可愛いと言いたいが、恥ずかしくて俺はひとりで勝手に熱くなっていた。

「お母さん!やっぱり、裸エプロンとかどうですか!男の人はよくそんなのに憧れると聞きました!」

(!!!?!?!!!?!、?)

 俺は驚いて、声が出そうになった。一体、どっからそういう知識を取ってくるのかが全く分からなかった。

「そんな事をどこで知ったの?」

 母さんが丁度気になっていた事を聞いてくれたので、恐る恐るドアから覗きながら聞いてみた。

「和君のベッドの下にそんな知識の豊富な本がダンボール箱で入ってあるのを見つけて!」

(はぁぁあ!!!嘘だろ、そんなのまだ誰にも見つかってないはずなのに…)

 俺は衝撃の回答に一瞬焦ったが落ち着いて考えてみた。

(えー…いつ見つかるようなことを…あ!)

 そうだと、あの時のベッドに潜り込まれた時、下の荷物が少し外に出ていたことを思い出す。

 まだ話は続いていた。

「私はあの感じなら、和君を落とせると思います!」

「まぁ…何を見たのかは伏せておいて…行き過ぎも良くないからね、そんなことして風邪引いたら元も子もないのだし」

 取り敢えず、母さんが何とか止めてくれたのを確認したあと、俺は部屋に戻りベッドに横たわった。

「紗倉…どうしたんだよ、一体…」

そう呟くと、俺は深いため息をついた。


夕飯は、普通の野菜炒めで味付けは焼肉のタレだったので、結構美味しく食べれた。

 紗倉の前で初めて『美味しい』と言う言葉を喋ったのは初めてではないのかと、俺は思った。

 俺は食べ終わった後、佐倉を家に送りながら喋っていた。

「えへへー」

「何ニヤついてんだよ」

「だって、初めてだもん」

「何がだよ?」

そう聞くと、俺の前に立ちその答えを言ってくれた。

「初めて…私の作った料理を嫌な目で食べなかった事。そして…初めて、私の料理を美味しいと言ってくれた事」

 少し、顔が熱くなるのを感じ、俺は目をそらしてしまった。こんなにも紗倉を見てこんな気持ちになったのは初めてだ。

「で、でも!お、俺はただ美味しい物を食べたから、その美味しさを言っただけであって…そ、そうだ!今度は一緒に作らねぇか、お前と一緒に飯を作ってみたい!」

「ふふ、良いよ!」

 俺は無我夢中で彼女に料理の約束をした。返事を返す時に笑った顔は、とても可愛かった。


 あれから一週間が経ち、今日は紗倉の家で料理をすることになった。

 一応、家にある材料を持ってきたが、何を作るのか全く分からなかった。

「はぁ…もし、アレがまぐれだったんだったら…考えないでおこう…」

 家のインターフォンを押した。綺麗な音色とともに、扉が人の手で開く。

「………はい、あぁ紗倉は今買い物に行ってるよ」

「そ、そうですか…」

 紗倉が親父さんが出てきた。いつも物静かで、あまりうるさい事は好まない人なのだが、俺が遊びに行っても何かじっと睨まれるだけで、怒られることは無かった。

「あがってくれ…外で待っててもあれだろう」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

「別に甘えなくて良いよ」

取り敢えず、家に入ったが、リビングの机で向い合せで紗倉のお父さんと俺が座っているのは結構キツイ。

「あの…奥さんは」

「…あぁ、絵美なら俺の親が反対して離婚させられたんだ。」

「?絵美って、俺の母さんと同じ名前じゃ」

 そう言うと、しまったと言わんばかりに目を開け、俺に一言、

「俺は…約束すら守れないのか…」

何をいきなり言っているのか全くわからなかった。

 だが、この人が俺の母さんの元夫ということは分かった。

「ただいまーお父さん、和君来た?」

「あぁ、今目の前に居る。」

そう言うと、廊下から足音が早くなって聞こえ、勢い良くドアが開くと第一声が

「いい人でしよ!」

「だが、駄目だ」

「何の話だ!」

いきなり何を言っているのか分からなかったが、どうやら俺を結婚相手としてどうなのかを相談してたらしい。

「何でダメなの!」

「そ、それは…色々だ!」

「あの…勝手に話を進めないでくれませんかね」

そう言うと、少し沈黙が訪れてから紗倉がこちらを向いた。

「和君は、私の料理が食べたく無いの?」

「ん?話の内容が見えてこないが…」

「まぁ、紗倉が言っている事はだな…和義、お前と紗倉が結婚相手としてどうなのかと言う事だ。」

思った通りだった。だが、何故俺なのかが分からなかった。

 今までも、自分の信頼できる人達以外は邪魔でしかないと思っていた俺に何を感じてそんな事を言い出したのか、全く理解が出来なかった。

「あのさぁ、紗倉お前いつからそんな話をしてんだよ」

「昨日の夜から!」

「はあ!!」

「だって、一週間前に私と居たいみたいな事言ってたでしょ!」

(言った覚えがねぇよ…)

 正直な話、一緒に居たいのは確かだ。だが、何故こんな俺にそこまで思うのかも謎で、少し怖いが、取り敢えず料理をしようと誘導した。


 俺は今日は何を作るのか分からなかったが、取り敢えず、紗倉の言う通りに動いていた。

「和君、フライパンにオリーブオイル敷いといて。私はニンニクの処理しとくから。」

「おう……オリーブオイル敷いたら次はどうするんだ?」

「玉ねぎの皮と、人参の皮、パプリカの処理をしといて。後、ついでにもも肉出しといて」

 意外と何かしっかりとした料理の仕方をしていて内心安心していたが、この後に凄いことになるのかと考えると、少し怖い気もする。

 紗倉は下処理した食材を使って料理をしている。

 オリーブオイルの敷いたフライパンにニンニクを入れ、少し炒めてからもも肉を入れ、少し焦げ目が着いてから野菜を入れた。3分ほど立ってから、トマト缶とを入れて6分ほど、煮込んだ。

 その後、弱火に変えてコンソメを入れた後、3分煮込み。

 完成した。特におかしな点は無かったが、まだ怖い。

「お皿に盛り付けるから、大きめのお皿出して」

「あ、ああ」

皿を3枚だし、中に出来た料理を入れていく。それから飾り付けとして、刻みパセリを散らすと、

「完成〜!もも肉のニンニクトマト煮です!」

(美味そうだな…)

 その漂わせる匂いに思わず唾を飲み込んだ。ご飯と出来た料理をテーブルに持っていくと、紗倉のお父さんがそれを見ると、

「なっ!?ま、まともだ…」

「何時もどんなの食べさせてくれてるんですか…」

「料理とは言ってはいけない物」

(この人も被害者か……)

 そして、3人が食卓に着くと、いただきますの掛け声とともに、トマト煮を少し抵抗があったが、口に入れた。

「……!?う、美味い!」

「紗倉…これなら少し許しても良いだろう。」

「本当!!」

(あ〜、料理の事で駄目って言ってたんだ…)

そう思いながら、トマト煮を食べながらご飯をバクバクと平らげていた。

 俺は食べ終わり家に帰ると、家には明かりが付いていた。

「母さん、ただいまー」

「和義……少し、いい?」

「?」

 今まで俺に見せていた顔の中で最も真剣な顔をしていて、思わず強ばってしまった。

椅子で向い合せで座ると、一言

「紗倉ちゃんの事なんだけど…和義、あなたはどう思うの?」

「……俺は、紗倉の事が…好きだ。友達としてではなく、いつも一緒にいて欲しい仲という意味でだ。」

そう言うと少し暗い顔になり、もう1度こちらに向き直し、話をした。

「あなたは、紗倉と付き合うことは出来ない」

「なっ!?どういう事だよ、それ!」

「あなたと紗倉は双子…血の繋がった関係だからよ。」

 俺は絶望した。

 俺はその場に居たくなくなり、自分の部屋に入り、鍵を閉めてベッドの中に潜り込んだ。

「……………何で…何でなんだよ、クソッ!!クソォォォ!!」

 俺は怒りを自分の枕に顔を押し付けて言い放った。誰にも聞こえない、心の叫びは口から出るも、その答えを答えてくれるものは、誰もいなかった。

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俺と彼女は一心同体 山口 直弥 @naoyan1970

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