Live.96『愛ゆえに、世界を滅ぼすけもの 〜OVERLOAD LOVE〜』
“クイン・ゼスマリカ”と“オーバーロード・真・ゼスパーダ”。
圧倒的なまでの暴力を
《レベッカ=カスタードには感謝しておるよ。彼女がトウキョウの民をまとめ上げてくれたおかげで、本来は
「だから、すぐに復活しようとはしなかったのか。レベッカさんを最大限に利用するために……!」
ケーキナイフの
攻撃が空振りに終わってしまった鞠華はとっさに距離を
一手、さらに一手──その
しかしゼスマリカの攻撃は、なんとたったの一度も真・ゼスパーダに到達することはなく、依然としてオズワルドは平然と構えている。
《……じゃが、同時に彼女は
「なにが……!」
《“
「そんなの、人として当たり前のことじゃないか……!」
《
空間跳躍でいつの間にか背後へ回り込んでいた真・ゼスパーダが、ノーガードのゼスマリカに向かって斬りかかる。
しかしケーキナイフがゼスマリカの装甲を斬りつけるよりもはやく、その刃を受け止めるものがいた。真紅の
その
《……それで、ヴォイドの
《お
《だが、それを行えるのは実質的にアクターと呼ばれる者たちだけのはずだ。まさか、全人類をアクターにしようなどと言うつもりじゃないだろうな》
《流石は元ヴォイド研究者のティニー=アーデルハイド、わかっておるではないか》
《なに……?》
てっきり挑発のつもりで放った匠の言葉だったが、なんとオズワルドは
彼は勢いを増していく剣速を決して緩めることなく、しかし教え子に説明するような穏やかな口調で
《全人類をアクターにすることは不可能じゃろう。しかし、限りなくそれに近づけることはできる……》
《……! まさか、貴様のやろうとしていることは……ッ!》
《簡単な話じゃ。魂を
全人類のQ-UNIT化。
あまりにも極端としか言いようのないその方法こそ、オズワルドの目論む究極にして最終の人類救済手段だった。
たしかに全ての人類がそうなることを受け入れたとしたら、人はその生活圏を地球外……ひいては外宇宙にまで拡大することができるかもしれない。
そればかりでなく、個人が生まれ持った容姿の優劣や機能障害に悩まされることもなくなる。見方によってそれは、“平等に与えられる幸せ”と呼べ得るものなのかもしれない。
──ヘンな勘違いしないでくれませんか! “
11年という短い生涯を終え、バーチャルの存在として生まれ変わった少女を、アクターたちは思い出していた。
その彼女にもっとも入れ込んでいた嵐馬が、切実な思いを“ハゴロモ・ゼスランマ”の大太刀にのせてぶつける。
《チドりんを……
《ほう……?》
《なぜ貴方はあんな小さな子供に、あれほどまでの重荷を背負わせたのですか……ッ!? 挙げ句の果てに死んだ
《フッ……ふははははははははっ!! こいつはケッサクじゃあ! まさかあの器を“普通の少女”として認識していようとは……よいぞ、笑わせられついでに教えてやる》
ゼスランマと激しく刃を打ち合いながら、オズワルドは口元に笑みを張り付かせて告げる。
《
《なに……ッ!?》
《考えてもみよ。あのウィルよりも年長者である儂が、まるで歳を重ねることなく童女の姿を保てているハズがないじゃろう? お主らが“チドリ”と呼んでいる個体は、最初から
《う、嘘です……彼女には君嶋という姓の両親がいたことも、8歳までは普通の少女のように学校へ通っていたこともわかっています!》
《そりゃ、一定の年齢に達するまでは里親に預けるのがフツーじゃろ。もっとも、不完全なクローン体だったゆえに体も弱く、学校にも満足に通えていなかったようじゃがのう》
《たとえ造られた命だったとしても、データの存在だったとしても……! 彼女はアイドルになりたいと夢を見る、そんな普通の女の子だった! それをあなたは……》
《うむ、彼女の人格は上書きさせてもらった。ただの器でしかなかった個体が、たとえ短くても人として人生を謳歌することができたのじゃ。きっと彼女も幸せじゃろう》
まるで他人事のような素知らぬ顔で、オズワルドは言い放った。
その一言で怒りを爆発させた嵐馬が、大太刀を構えて真・ゼスパーダへ突っ込んでいく。
そしてオズワルドに怒りを抱いたのは嵐馬だけではない。
チドリと同じく
《あなたは、ゆるさない……!!》
《フン……人間面をするなよ、
他のアクターたちには一貫して穏やかな表情を向けていたオズワルドだったが、人工的に生み出された生命である紫苑のことだけは、一切の情を排した冷徹な目で見据える。
彼にとって“
そんなオズワルドの傲慢さに業を煮やした百音が、“ゴールデン・ゼスモーネ”の両手にグリップされた銃のトリガーを引く。
《黙って聞いてりゃあ、随分とおめでたい野郎だな……そんな急進的すぎる考え方に、誰がついて来るものか……ッ!》
《
《なんだと……?》
《もしも我々の住む
《いちいち回りくどい言い方しやがって……ハッキリと喋りやがれッ!》
百音が急き立てると、オズワルドはなめらかに響く声で。
《10年前に東京で発生した
そう、言い放った。
《なっ……》
《さすればアウタードレスが関東エリアのみならず世界中で顕現するようになり、もはや人類は
《まさか、あんたはこの
《おっと、儂はなにも『人であることを捨てろ』と言っているわけじゃあない。人々は記憶データを“Q-UNIT”で管理するわけなのじゃから、べつに従来の生活は仮想現実内でも十分に行えるじゃろう? 今まではVR機器などを介して見えていた世界が、現実世界に置き換わる、ただそれだけのことじゃ……その
オズワルドはまっすぐにアクター達を見据えながら、右手に握るケーキナイフの刀身を振り上げる。
泰然と微笑みを浮かべている彼に対し、ゼスマリカや他のアーマード・ドレスが一斉に攻撃をしかけた。
真・ゼスパーダもまた彼らを迎え撃つべく、全身に纏う赤黒いオーラを一気に解放させる。
《お主らが散々倒してくれた“
「そのために
《そうじゃ。そして見よ、あれこそが新世界へと人類を
オズワルドが嬉々としてその名を告げた、次の瞬間。
月面に刻まれたクレーターの一つから、円柱型の構造物が迫り上がっていた。
全長にして100メートル以上はあるであろう、トーテムポールを彷彿とさせる巨大なオブジェクト。
ワームオーブに秘められたエネルギーを増幅させ、暴走を誘発するための“舞台装置”──それこそが、オズワルドの用意した最終兵器の正体だった。
「災厄を引き起こすための装置……? まさか、10年前もあれを……!?」
《
「自分の機体を……!? そんなことをすれば、あなたも……」
《うむ、ただで済むはずがないじゃろう。しかし新世界の
「なぜそこまで……自分の命を犠牲にしてまで……ッ!」
《決まっておる……愛ゆえにィッ!!》
勢いよく振り下ろされたケーキナイフが、クイン・ゼスマリカの胸部装甲を一閃した。
纏っていた“プリンセス・ゼスマリカ”と“マジカル・ウィッチ”の
鞠華は唖然として、散っていくパーツたちを見つめていた。
《マリカっち!? くそっ、テメェ……ッ!!》
《何度かかってこようと無駄じゃあッ! 全人類へと捧げる“無償の愛”……それが儂に無限の力を与えてくれている! もはや誰にも止められはせんッ!!》
ゼスマリカの受けた傷を返礼すべく、嵐馬と百音が左右からの挟撃に挑んだ。
だが、やはり真・ゼスパーダは空間跳躍によっていとも容易く攻撃を
防御も回避も敵わない怒涛の
大河の怒号が
《アタシと一緒に死ねぇッ!! オズワルドォォォォォォォォォッ!!》
《む、大河か……儂を刺したことについては別に気にしとらんぞ。儂は今でも変わらずお前を愛し──》
《うるさい! 死ねぇ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!》
《聞く耳ももたん、か……それもまた“愛”よな。だが、負けん……ッ!》
猪突猛進に突っ込んできた“シュヴァリエ・ゼスタイガ”の刺突を、オズワルドは回避せずに真っ向からケーキナイフで受け止める。
一合、二合と激しく剣をぶつけあう両者。だが三合目の斬り合いで真・ゼスパーダは渾身の一振りを放ち、なんとゼスタイガのレイピアを叩き折ってしまった。
武器を失いたじろいでいる大河へと、オズワルドが急迫する。
《こんな……こんなハズじゃあ……ッ!!》
《大河……ッ!》
瞬きさえできない一瞬。
ゼスタイガを斬りつけるはずだった真・ゼスパーダの刃は、しかし両者の間に割り込んだ“ヴァルキュリア・ゼスティニー”の盾によって遮られた。
此の期に及んでいまだに闘志を燃やしている匠を、オズワルドは少し残念そうに見据える。
《なぜそこまで儂の愛を拒む……?》
《黙れッ! 懲りもせずに“愛”だ“愛”だと……お前のエゴなど、とっくに聞き飽きている……!》
《エゴ? そうではない……やろうと思えば、計画の障害である主らを先に葬ることもできた。じゃが、敢えて儂はそうせず、堂々と迎え撃つことにした。それが何故かわかるか?》
《なに……? くっ……!?》
さらに力を増した剣戟が、ゼスティニーの姿勢を盾ごと弾き飛ばした。
丸腰となった匠、そしてその背後にいる大河へと、真・ゼスパーダは鬼のように差し迫る。
《コインで物事を決めるのと同じじゃよ。“
《そんな歪んだ総意が……》
《そう、未来を決するのは儂ではない……『世界が』未来を選ぶのじゃ。神の定めし運命が、人類の無意識が、すべての審判を下すのじゃ……!》
《……あるものかぁッ!!》
盾を失ったゼスティニーは、それでも最後に残った片手剣を構えて敵機へと突っ込む。
──が、匠が死力を振り絞ってはなったその一太刀すらも、真・ゼスパーダに届くことはなかった。ゼスティニーの片手剣よりもリーチの長いケーキナイフが、一瞬の攻防を制したのである。
かくして装甲を散らしながら崩れ落ちるゼスティニーを尻目に、オズワルドの視線は近くにいたゼスタイガへと移る。
《この勝利は儂の望んだ結末であると共に、世界の選んだ未来じゃ──》
《あ、アタシは認めない……! 何度でもあんたを殺してやるんだから……!》
《──そして運命の『コイン』はッ! この聖戦の幕開けとともに、スデに宙へと投げ放たれている……ッ! 》
一閃。
シュヴァリエ・ゼスタイガの装甲が切り裂かれ、大河は声にならない悲鳴とともに、無力感の海へと沈んでいった。
真・ゼスパーダの絶対的な強さを前に、すでに6機中5機ものアーマード・ドレスが
このままでは計画の阻止はおろか、たった一機の敵を打ち倒すことさえも絶望的だった。
そして……今ここで自分たちが倒れてしまえば、
あの絶望と悲しみの連鎖が、また広がってしまう──!
「……紫苑、それにみんな。改めて頼みます」
《まりか……?》
「もし、ゼスマリカがまた暴走したら……その時は
鞠華は
「あの人のやろうとしているコトは絶対に止めなきゃ。そのためには、もっと力が必要なんだ……! 世界中の笑顔を守れるくらいの、圧倒的な力が……ッ!」
自暴自棄になったのではない。“覚悟”があるからこその行動だった。
彼は
「たとえ禁忌の力だろうと……惜しむものかァ……ッ!!」
“ウェディング・オーバーロード”と“マスカレイド・メイデン”。
対峙する二柱の“力”が激突し、かくして人類の未来を賭けた最後の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます