VSネガ・ギアーズ決戦編

Live.45『役者はそろった! 〜A GATHERING OF SIX ACTORS〜』

「ティニーって、女の人の名前……? それに、江ノ島……!?」


 鞠華たちの前に現れた、6番目のアーマード・ドレス“ゼスティニー”。

 軍服を装いし機体のアクターである紅匠が明かした本名は、“オズ・ワールド”の関係者全員を困惑させるほどの重大な意味を孕んでいた。

 その反応すらも予定調和だと言わんばかりに、匠は血縁関係の事実をあっさりと肯定する。


《察しの通り、オズ・ワールドリテイリング日本支社長……ウィルフリッド=江ノ島は私の父だ。もっとも、縁などはとっくに断ち切っているがな》

「父だ、って……子供が親に反逆をするんですか! そんなものに乗ってまで……!」


 アーマード・ドレスが搭乗者の精神を汚染する危険な兵器であると説いたのは、他ならぬ匠のはずである。

 その彼女自身がこうして“ゼスティニー”に乗っているともなれば、鞠華が困惑してしまうのも無理はなかった。


《なにも矛盾はしていないだろう。私にはね、親殺しをする意志があるんだよ。たとえこの身が滅びようとも、それを成す覚悟が……》


 ゼスティニーは腰の軍刀を抜くと、その刃先を足元へと突き立てた。

 すると次の瞬間、周囲の海面を巻き上げる勢いで赤黒いオーラを噴出させる。

 紅い炎のように燃え盛るそれは、匠の放つ殺気そのものだった。


(なんだ、この威圧感は……! それに……!?)


 急に手先の神経が麻痺してしまったような違和感を、鞠華は直感的にそう解釈する。

 どれだけ必死にを送っても震えは収まらず、ただ恐怖感だけが彼の中でふくれ上がっていった。

 そんな鞠華の異常を装甲越しに察したのか、ゼスランマとゼスモーネが彼を庇うように一歩前へ出る。


《ビビんなよ、鞠華。いくら出しゃ張った真似をしてこようが、いま動ける相手はたった1機だけだ。どう考えたって勝機は俺たちの方にあるぜ……っ!》

《うん、マリカっちが白いのとバトってくれたおかげでねっ! だからマリカっちは休んででもダイジョーブ。あとはアタシと嵐馬くんで、さっさとコイツをやっつけちゃるから……!》


 2機は目の前にいるゼスティニーを捉えると、それぞれの獲物を構えて臨戦態勢に入った。

 まさに一触即発といった状態のまま、しばらくの沈黙が流れていく。


 しかし戦いの火蓋が切って落とされることはなく、先にゼスティニーが軍刀を鞘へと戻してしまった。

 敵の意外な行動に嵐馬たちが拍子抜けしていると、匠がそっと口を開く。


《残念だが、決着は次の機会にするとしよう。今はまだ、そのときではない……》

《なんだよ、今さら怖気付いたってかァ? 安心しな、こっちはテメーらを逃す気なんて微塵もねぇからよォ……!》


 すぐに噛み付く嵐馬だったが、対して匠は喧嘩を買うこともなく平然と挑発を返す。


《フッ、狂犬が……焦るなよ。約束の日エックス・デーはそう遠くないさ。“オズ・ワールド”が敗北を喫す記念すべき日を、こんな場所で祝ってしまうのでは少々面白みに欠けるだろう》

《んだとォ……?》

《我々が用意してやろうと言ってるのさ。貴様たちが滅びの結末を迎えるために、相応しい舞台ステージをな……》


 意味深な言葉を言い残しつつも、ゼスティニーは隣で倒れているミイラ・ゼスシオンを抱えて飛び立とうとする。

 逃すまいとすぐに後を追おうとする嵐馬と百音だったが、そのとき上空から突如として赤黒い雷撃が迸った。


《──“裂キ誇ル黒薔薇ノ荊ルフトシュトロム・フェアヴェーエン”ッ!!》


 不意をついて砲撃を行ったのは、漆黒のゴスロリ衣装を纏いし“ローゼン・ゼスタイガ”だった。

 雨傘アンブレラの先端から放たれた一撃は電光石火のごとき速さで降り注ぐと、枝のように分かれては次々と海面に着弾していく。

 その余りある威力によって水蒸気が巻き上げられ、鞠華たちの視界をものの数瞬で見事に覆い尽くしてしまった。


《くッ、アイツらはどこだ……ッ!》


 咄嗟に嵐馬が叫び立てるも、当然ながら敵からの声は返ってこない。

 そして次に視界が晴れた時には、すでに“ネガ・ギアーズ”の姿はどこにもなくなっていた。どうやらゼスタイガが目眩くらましをしている間に、3機とも撤退してしまったらしい。


《くそっ、また逃しちまうとは……! 包帯野郎はあと少しで仕留められそうだったのに……!》


 静けさを取り戻した海の上で、嵐馬は悔しげに吐き捨てる。

 しかし敵の脅威が立ち去った後も、アクターたちの中では敵の遺した言葉が引っかかっていた。


(『約束の日エックス・デーは近い』……“ネガ・ギアーズ”との決着の時は、すぐそこにまで来てるってコトなのか……?)


 ただの捨て台詞にしては、匠は随分と余裕を残していたようにも思える。

 あるいは彼女の言う通り、本当に“オズ・ワールド”壊滅の日は近いのだろうか──。


(もしそのときがきたら、紫苑……キミともまた戦わなくちゃいけないのか……)


 底知れぬ不安を抱きながらも、ひとまず鞠華は帰路につくために機体を翻す。

 彼女と過ごした夢のような時間を置き去りにするように──彼はゼスマリカを浮上させると、先行する味方機を追って飛び立つのだった。

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