Live.41『やって来ました夢の国 〜BEAUTY IS BUT SKIN-DEEP〜』
抹茶ぷりん(DM):マリカきゅんごめん!!!!!
MARiKA(DM):ど、どうしましたか?(汗
抹茶ぷりん(DM):いま東京駅で乗り換えようとしたところなのだけれど
抹茶ぷりん(DM):どこかでチケットを落としてしまったみたいで……
MARiKA(DM):Σ(゚д゚lll) だ、大丈夫ですか!?
抹茶ぷりん(DM):だいじょばないので、いま駅員さんに探してもらっているところなのです.°(ಗдಗ。)°.
抹茶ぷりん(DM):もうちょっと時間がかかりそうなので、マリカくんは私にかまわず先に入っちゃってて下さい!
抹茶ぷりん(DM):申し訳ない……_| ̄|○
MARiKA(DM):りょかです! じゃあ、パークの中で待ってますから!
MARiKA(DM):見つかったらあとで連絡してくだされば!
抹茶ぷりん(DM):ホントにごめんね……?
MARiKA(DM):そんなに謝らなくても大丈夫ですからw
「さて、と……」
レベッカとのやり取りを一旦終了すると、鞠華はスマートフォンをしまって周囲を見渡した。
そこは西洋風の建物が並ぶメインストリートであり、正面には豪奢なつくりの時計塔がずっしりと
(成り行きでパーク内に入ってしまったケド、さてどうしたものか……)
集合場所から離れてしまったことに気後れしつつも、鞠華は隣に立っている少女の顔をうかがう。
彼女──
「久留守……さん? 色々と聞きたいことがあるんだけど、そこのレストランで少し話を……」
「あーっ、あれに乗ろうよ。まりかっ」
「え、ちょ……待ってよぉ!」
鞠華がとっさに呼び止めるものの、紫苑はなりふり構わず先に行ってしまう。
自由奔放な彼女に面食らいながらも、鞠華は慌ててその背中を追いかけた。
そこからしばらく移動したところで、紫苑はようやくその足を止める。日頃の運動不足が災いして息を荒げている鞠華に対し、彼女はまったく平気そうに目の前のアトラクションを指差した。
「ぜぇ……はぁ……そ、そんなにはやく走らないで……」
「これ、すごく面白そうだよ。まりか」
「ええっと……『ダンシング・フェアリーたちのティータイム』?」
看板に書かれていたアトラクション名を読み上げる。
いわゆる“ティーカップ”と呼ばれる系統のアトラクションで、遊園地では定番中の定番ともいえる乗り物だ。遊具としては非常にシンプルながらも、『デスティニー・ハイランド』のそれはとあるアニメーション映画作品をモチーフにしていて、カップや柵などの意匠も世界観に合わせており妙に凝っている。
「まりかも、一緒に乗ろ?」
「いや、僕は……」
紫苑に誘われるも、鞠華はつい二の足を踏んでしまう。
というのも、幼少の頃に姉と一緒に乗ったことがあり、その時に調子に乗った姉がカップを回しすぎて酷い目にあったのだ。
その時の思い出は鞠華の中で痛烈なトラウマとして刻まれており、以来彼はこの手の回転系アトラクションを苦手としているのだった。
……が、そんな込み入った事情を紫苑が知るはずもなく、彼女は強引に鞠華の手を引っ張る。
「いいから、行こう行こっ」
「ちょ……! てか、意外と力がおつよい……!?」
鞠華のか弱い抵抗もむなしく、待機列の後ろへと強制連行されてしまう。
開園直後の時間ということもあって列はそこまで長蛇というわけでもなく、並んでいる人たちは比較的スムーズに流れていった。
そして約十分ほど経ったのち、いよいよ鞠華たちに順番が回ってくる。
(うぅ……乗るのは10年ぶりくらいだけど、やっぱり怖いなぁ……)
カップ内部のベンチに腰を下ろしている間も、つい不安な気持ちに駆られてしまう。
中央のハンドルを見ただけで、背筋に冷たいものが走るようだった。
(で、でも、流石にこの子は姉さんみたいにブン回したりしないだろう。マイペースだけどなんか大人しそうな子だし……)
楽しげな雰囲気にはしゃいでこそいるものの、口数はそこまで多いわけではなく、あまり活発そうなタイプにもみえない。
どちらかといえばお淑やかな印象の彼女なので、きっとカップの回転も優雅で心地よいスピードに調節してくれることだろう。
そう思うことにすると、かなり気が楽になった。
「ふふっ、しっかり掴まっててね。まりか」
「………………ゑっ?」
が、そんな仮初めの平穏は、紫苑の何気ない一言によっていとも
向かいに座っている彼女はしっかり両手でハンドルを握りしめると、なぜか自信ありげに『ふんすっ!』と鼻息を荒立てている。
まるでじゃじゃ馬の手綱をしっかりと握る騎手のような様を見て、鞠華は胸中で何かを察してしまった。
(ああ、
もはや目にハイライトがなくなっている鞠華をよそに、無慈悲にもアトラクションの運転スタートを示すベルの音が鳴り響く。
それと同時に、紫苑は待っていましたと言わんばかりにハンドルを豪快に回し始めた。
一見すると可愛げな見た目のティーカップも、乗り手次第ではジェットコースターをも凌ぐ絶叫マシンになる危険な可能性を秘めている──。
地獄のような回転で目を回しながら、鞠華はそのような教訓を得るのだった。
*
『ダンシング・フェアリーたちのティータイム』を出たあと、例によって体調を崩してしまった鞠華は近くのベンチでしばらく休むことにした。
回転する感覚はまだ身体に残っており、じっと座っていてもめまいがする。自分の三半規管の弱さが、我ながら情けなく思えてくるのだった。
「大丈夫? まだきもちわるい?」
するとそこへ、飲み物を買いに行っていた紫苑が戻ってきた。
彼女はミネラルウォーターのペットボトルを鞠華に差し出すと、心配そうに顔を覗いてくる。
「ああ、ありが……」
ボトルを受け取ろうと鞠華が顔を上げると、目の前にはブラウスの白い布地に包まれた豊満なかたまりがぶら下がっていた。
この少女、あどけない顔立ちに似合わずなかなかのモノをお持ちのようである。
何か見てはいけないものを見たような気がして咄嗟に目を逸らした鞠華だったが、紫苑の思わぬ行動がそれを中断させた。
「なんだか顔も赤いし……おでこ、借りるね」
「なっ、なにを……ひゃう!?」
紫苑が細い指先で鞠華の前髪をかき分けた、その刹那。
なんと彼女は、自分の額を鞠華の額に当ててきたのだった。
ひんやりとした冷たい感触に、鞠華の顔は熱気でさらに上気してしまう。
「んー、少し熱っぽいかも? きゅうごしつ、行く?」
「いやいや、ホントにもう大丈夫です! 大丈夫でございますからどうかご勘弁をぉ……!」
「?」
おでこ同士をくっつけられたことにドギマギしている鞠華だったが、それに対して紫苑はさもそれが当然のように落ち着き払っていた。
どうやらこの少女、なんの打算もなく完全なる天然であのような行為を行ったようである。
久留守紫苑、なんておそろしい娘……。
「えへへ、今日はあったかいね」
紫苑は隣に座ると、雲ひとつない快晴を仰ぎながら嬉しそうに笑う。
たしかに遊園地で過ごすには、これ以上ないくらいの休日日和だ。鞠華は水を飲みながら、楽しげな紫苑の言葉に耳を傾ける。
「そこのお花たちも、よろこんでるかなぁ」
紫苑が言っているのは、ベンチの真正面に植えられている巨大な花壇のことだ。
ピンク、青、黄色、紫──色とりどりの花を咲かせているそれは、ため息が出るほどに健気で美しい。
ゆえに気が緩んでしまったのだろうか。
空気を読まない一言が、思いがけず鞠華の口をついて出てしまう。
「でも、あれ造花でしょ。天気もなにも関係ないよ」
言い放った直後、鞠華はハッとしてすぐに自分の口を塞ぐ。
なんてロマンの欠片もないマジレスを、よりにもよって純粋そうな女の子にぶつけてしまったのだろう。これを向井光子郎が見ていたら助走をつけてブン殴られていたかもしれない。
「……まりかは、造花がきらい?」
「いや、そんなことは全然……」
「ぼくは、好きだよ」
しかし、紫苑は意外にも装飾された花々に対して肯定的だった。
そればかりか造花の在り方そのものに想いを馳せるように、たどたどしくも語り続ける。
「たしかに造花はホンモノとちがって生きてないし、本当の花じゃないよ。でも……ニセモノだから、美しいし綺麗なんだと思う」
「偽物だから、本物よりもキレイ……?」
「だってニセモノは、ホンモノになろうとしてるから……そういうのって、綺麗じゃないかな」
紫苑の言葉はある意味で、“女装”という命題にも重なる部分があるように思えた。
鞠華のような女を装う男性は、ジェンダー論で言ってしまえば本物の女性とは異なる存在だろう。
しかし、だからこそ
そうして努力を惜しまなかった
「そうだね……うん、そうかもしれない。それに造花は、生花よりも長い時間を美しくあろうとし続けるから……そういう意味では、造花も立派に咲いているのかもね」
「まりかもわかってくれたんだねっ。えへへ、うれしい」
天使のような笑顔を向けられて、鞠華はつい照れ臭くなってそっぽを向いてしまう。ペットボトルのフタを開けて、気を紛らわすために水を喉奥へと流し込もうとした。
するとそのとき、不意に鞠華のストッキングが履かれた両足に何かが触れた。
「わっ!?」
驚いてすぐそちらに目を向けると、どうやらよそ見をしながら走っていた子供の背中がぶつかってきたようだった。
幸いその子供は転んで怪我をしたりすることはなかったものの、鞠華に対して謝ることもなく走り去ってしまう。
「もう、危ないなぁ……あれ?」
鞠華はそのように愚痴をこぼしつつも、気を取り直して水を飲もうとする。
しかしそこで、ペットボトルにあれだけ入っていたはずの水がほとんどなくなってしまっていることに気付いた。
まさかと思った鞠華は、隣に座る紫苑のほうを見やる。
ミネラルウォーターを頭から被ってしまった彼女がそこにはいた。どうやら先ほどぶつかった拍子に、ペットボトルの中身が盛大に飛び出してしまったらしい。
「ご、ごめん! すぐタオル貸すから!」
「ううん、気にしなくても平気だよ。ひんやりして気持ちいいし」
「そういう問題じゃ……、ほあっ!!?!?!?!!」
自らの非礼を謝罪していた鞠華が、再び顔を上げようとしたとき。
男の
その場所とは、紫苑の胸部。
はち切れんばかりの大きく柔らかな肉を抑え付けているブラウスは、水を被ったことによって布地の“向こう側”が透けて見えてしまっていた。
それだけならまだいい。だがあろうことか、
いや、そんなはずはない。
いくら紫苑が精神的に少し幼いからといっても、彼女は年頃の少女だ。
いや、だがしかし、だとすれば、あれは……。
あの丸みを帯びたドームの
(というか、なんでノーブラなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?)
鞠華は心のうちで歓喜とも悲痛ともとれる絶叫をあげた後、すぐさまベンチから立ち上がる。
「? どうしたの、まりか」
「いいから、はやくこれを着て隠しなさいっ! 女の子が……め、でしょっ!? それから、服もどこかで乾かさないと……!」
それを紫苑の上半身にかけてやると、相変わらずきょとんとしている彼女をすぐにその場から連れ出した。
パークの敷地内で、なおかつ服を乾燥させることが可能な場所といえば──。
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