Live.24『魔法少女にあこがれて 〜CHANGE THE DRESS〜』
眼前には傷を負った鳥のようにうずくまるメイド服型のドレスと、それを守護する“チミドロ・ミイラ”を装いし白きアーマード・ドレス。
そしてタワーの屋上には、こちらを見下ろす漆黒のアーマード・ドレス“ローゼン・ゼスタイガ”。
敵達の視線に晒されたゼスマリカの胎内で、プリンセスドレスを
三者の間で流れる静寂──それを最初に打ち破ったのは、身を低く屈めた白いアーマード・ドレスだった。
「……ッ!」
足底から這い上がるような緊張が、鞠華の全身を駆け抜けた。
水面を跳ねる飛び石のごとき動きで、白いアーマード・ドレスはゼスマリカとの距離数百メートルをものの二、三歩で詰めてしまう。一瞬にして懐へと飛び込み、両前腕の熊手を勢いよく振りかざして来るのだった。
寸前、鞠華はとっさの判断で腕をクロスさせて防御体制をとる。しかし左右交互から繰り出されるかぎ爪の連撃は、じわじわとゼスマリカのガードを削ぎ崩していく。
《あらあらぁ、一機だけに気を取られていていいのかしらぁ?》
「なに……っ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドレスの攻撃に吹き飛ばされ、アスファルトの上へ倒れ込むゼスマリカ。そんな瀕死の獲物を付け狙うハイエナのように、白いアーマード・ドレスは両腕の牙を剥いて飛びかかる。
華奢な
《──“
不意に意識の外から飛び込んで来た二つの火炎が、白いアーマード・ドレスへと立て続けにぶつけられた。
投げタンバリンの予期せぬ攻撃を食らい、敵機は大きく体を仰け反らせる。そこへさらに、駆けつけたもう一人の味方が追撃を仕掛ける。
《“抜刀一閃・
獣のような雄叫びとともに、日本刀を携えた青い影が斬りかかる。
《チッ、浅いか……》
《遅れてゴメーン! 大丈夫だったぁ!?》
「嵐馬さん、モネさん……!」
地面に這いつくばっているゼスマリカを敵から守るように、それぞれの武器を構えた“スケバン・ゼスランマ”と“カーニバル・ゼスモーネ”が立ち塞がる。
鞠華はゼスモーネの手を借りてどうにか機体を立ち上がらせると、この戦闘が始まってから初めての虚勢ではない笑みを浮かべた。
「これで3on3だ。やっとフェアプレイが出来そうだね、タイガ……!」
《ハァ、頭数さえ揃えれば対等だと思ってるワケ? まったく……見当違いも
嘲笑の混じった声で煽り立ててくる大河。するとそこへ会話を聞いていた嵐馬が割り込んでくる。
《なんだァその女っぽい喋り方? さてはオネエか、オカマか!?》
《だっだだだ誰がオカマですってぇ!!? 失礼な、アタシは正真正銘オトコノコよッ!!!》
その挑発めいたセリフを果たして嵐馬が本気で言っていたのか冗談だったのかは定かではないが、どうやら大河に対しての効果は
《白いヤツとドレスの相手は俺と
「えっ。でも、あの白いアーマード・ドレスは前に……」
──三人がかりでも歯が立たなかった相手だ。
不安げにそう言葉を続けようとした鞠華を、嵐馬はぶっきらぼうに
《ケッ、あの時は不意打ちを食らったってだけだぜ。正々堂々正面から打ち合えば、十中八九俺が勝つに決まってらぁ》
嵐馬の言い分はあまりにも根拠に乏しいものではあったが、それでも自分の背中を預けるには十分なほどの自信が宿っているように思えた。
鞠華は潔くそれを認めると、臨戦態勢を取るゼスランマとゼスモーネに背を向ける。
「……わかった、二人はそっちに任せます。ボクはあの黒いアーマード・ドレスを倒して、それで絶対にアリスちゃんを救い出す!」
鞠華は決意を固めると、前方数百メートルほど離れた場所に聳えるタワーを見据える。
その屋上に黒いゴシックロリータの姿があることを確認すると、プリンセス・ゼスマリカはタワーの方角に向かって一目散に駆け出した。
*
「アタシには大キライなものが11つある。そのひとつが、このウザったいくらいに晴れた青空。ホンッと……眩しいったらありゃしないわ」
歪に口元を緩ませる黒衣のゼスアクター・
その慢心を契機に、何もない空間から
「……だから、
雨傘の先端に現れた極小の
いつしか横浜市街上空の天候は横浜グランドアークタワーの屋上を中心点に、快晴から暴れ狂う台風へと変化していた。風雨、黒雲、雷鳴──それらを一手に
「“
暴風の渦をまといし巨大な
大河はそれを悦楽に満ちた笑みで振り下ろすと──。
「──“
刹那、
限界を超えて圧縮されていた
「アハハハハハハッ!! つまんなぁい、もうゲームオーバーかしら!」
《──ドレス……チェンジ》
「ほぇっ……!?」
自らの勝利を確信していた大河だったが、通信回線越しに聞こえてきた鞠華の声に思わず血相を変えた。地上を覆っていた光輝が徐々に消え去っていき、大河はわが目を疑う。
《──
直撃を食らったはずのゼスマリカは依然として健在だった。それも先程までのプリンセスラインドレスではなく、新たに薄い桜色を基調とした魔法少女の
おそらくは着弾の直前に
「……へ、へぇ、少しはやるじゃない。でもそのドレス、どうやらパワーが凄いぶん燃費はすこぶる悪いようね。いきなりそんな広範囲にシールドを展開しちゃったら、すぐに息切れを起こしちゃうんじゃないかしらぁ?」
《そう長続きさせるつもりはないよ。視聴者を飽きさせないのがボク流の
「ハッ、上等じゃないの! ならその
互いに強気な微笑みを交わす。それが合図となった。
“マジカル・ゼスマリカ”はバトントワリングの動きでステッキを手の上で器用に転がすと、それを両手サイズの
一方、タワーに向かって飛翔し始めたゼスマリカを迎え撃つべく、“ローゼン・ゼスタイガ”も武器を携えて屋上から飛び降りる。開いた
地を見下ろす魔女。空を見上げる乙女。
相反する二機のアーマード・ドレスによる
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