第2話 出会い

わずか6畳ほどの広さの会議室の中では、19度に設定された冷房の風と12人の熱を帯びた議論の風が渦を巻きながら所狭しと人と人の間を駆け抜けていた。時折吹き抜ける冷風に心地よさを感じなからも、窓に掲げられたブラインダーの隙間から差し込む真夏の日差しとセミの音が会議室の体感温度を上げていた。


だいたい会議など自分の担当報告以外については無関心で、番が回ってくるまでは机の下で携帯をいじったり、眠気を抑えるためにありとあらゆる策を講じているものである。ネットに掲載されている『眠気を飛ばす対策一覧』などはどれを試しても結局は使いもにならず、なぜ人はこれほどまで眠くなってしまうのかを頭の中で自問自答している間に気付けば夢の中に落ちているのだ。


「少し時間が押しているので議題を一つ飛ばしましょう。では桐島さん、宜しくお願いします」

ふいに自分の名前が呼ばれたことで、慌てて時計に目をやるとすでに会議が始まってから50分近くが経過していた。1時間の会議の中で自分の担当するプロジェクトの進捗報告は最後から2番目に位置していたため油断していたが、夢の中で過ごす時間と現実の時間の流れるスピードの違いをコンマ何秒という瞬間で感じ、自分の舞台出番のカーテンコールを楽しむかのように少し胸が踊った。


「それでは私の担当プロジェクトの進捗についてご報告致します。資料の真ん中に記載されているスケジュールを御覧ください。」

そこからは資料に書いてあるスケジュールのマイルストーンと進捗を読み上げる台本通りの作業だ。


「報告は以上となります。ご質問等あればお願い致します」

一つの習得した能力なのか、周りを見渡すと無言の「特にありません」が読み取れた。

「特に質問もないようなので、次の議題へ移っていただいて結構です」

進行を務める隣の部署の課長の目を見ると、もう少し人間味のある報告をしてほしかったと言わんばかりであった。

仕事に限ったことではないが、昔から何事も始まる前から最中にかけた気持ちの急降下に自分自身振り回されてきた。コントロールする術が思いつかず個性だと受け入れたものの中々うまく付き合うことが出来ていない。


唯一波が生じないのが妄想している間であった。

理由は明白で、妄想自体が現実での行動の準備段階に過ぎないためであった。世の中には物事の準備段階を一番楽しんでいる人の数が意外と少なくないのではないかと思いながらも、実際にそれを検証しようすると急に面白くなくなるのだ。


ただ、今まで歩んできた人生の中で一度だけ急降下のタイミングが通常よりも遅いことがあった。それは二度吹くことのない風を五感で感じ、その風の中で自分のすべてを捧げる時間でもあった。

もしかすると今でもその風を探しているのではと思うと、少し心が軽くなるのであった。



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灰色の入道雲 天地 @Jimichi

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