後日
ドアの向こうで、にぎやかな話声がしている。
私は鏡の前で大きくため息をつく。まあ、自業自得なんだけど、まさかこんなことになるとは。
またため息が出る。
「どうしたの、マリアちゃん?」
横で化粧直しをしているキョウコさんに問われる。
何故あなたはそんなに嬉しそうなんですか?
ここは『喫茶れいんぼう』の休憩室。この日のために用意された全身を映す鏡の前で、私は何度ため息をついたことか。
あ、とキョウコさん。
「な、何ですか?」
「もしかして、私の方が良かった?」
ガックリ肩を落とす。
全然違います。確かにそっちの方がまだマシですけど。でもピンクはキョウコさんなんですから。
えー、それでは、と社長がいつもの間延びした声が聞こえた。
「そういえばさあ、こうやって全員がそろうのって、初めてなんじゃない?」
そうかもな、とヨースケさんの声。
「探偵社を始めて五年。ようやく目標のメンバーが集まって、か。僕も頑張らないと駄目だな」
何かに浸る社長。
二人が待っとるんじゃ。早く呼ばんかい!
この声は間違いなくグリーン。多分横には、おどおどしながらカメラを持つブルーがいるんだろうな。
いきなり脇の下から手が出てきて、胸を揉まれた。
「緊張してるの?」
そう聞いて抱きつくキョウコさん。
「違います。自分で言った事に後悔しているだけです」
「それでは、ただいまよりピンクの復帰祝いと、シルバーことマリアちゃんの歓迎お披露目会をはじめまーす」
社長の宣言を聞いて、キョウコさんが私の手を握る。
さっきも思いましたが、何がそんなに嬉しいんですか?
「マリアちゃん、出番よ」
そう言って私の手を引き、ドアを開ける。
男性陣から、おお~と歓声が。
グリーンとブルーの視線が刺すように痛いんですけど。
私とキョウコさんはチャイナドレスで登場した。ブルーと約束しちゃったから仕方無いんだけど、キョウコさんが着ているのは何故なのか。彼女がピンクとして復帰して、急きょ私のメンバー色がシルバーとなり、シルバーのチャイナドレスを用意したため、ピンクのドレスが余ったから、だ。
だからって着る必要は無いんだけど、目の前のキョウコさんは、カメラの前で惜しみなく大胆なポーズをとっている。
私はというと、恥ずかしくて立っているのが精一杯。ブルーの野郎め、ここぞとばかり水着みたいな肌の露出が多いドレスを用意しやがって。
「なかなか似合っとるじゃないか」
なんて言いながら、緑ジジイは私に触ろうとしてるし。
寄ってくるコバエを払うようにグリーンをかわしカウンターに避難する。ヨースケさんの近くにいれば、しばらく安心だ。
「お前、それが着たくて入社したのか?」
違います。
ヨースケさんの問いを速攻否定した。
「僕としては、その格好で仕事してくれると嬉しいなあ」
カウンターに座っていた社長が言った。
あんたには素敵なさゆりさんがいるだろ。
「あたしの若い頃を思い出すねえ」
と、社長のとなりのレッド。
冗談ですか。
笑えないジョークです。
あれ。なんかこんな場面、どこかで見たような・・・・
「しかしあれだな。あんなチラシでよくこんなメンバーが集まったよな」
ヨースケさんが言った。
そうだね、と社長。
「僕はただヒーロー戦隊に憧れていただけで、人集めは得意じゃないからね。しかも、こんなに能力者が集まってくれるとは。ほんと、レッドには感謝だよ。君がチラシを配ってくれたおかげだよ。ありがとう」
へえ、そうなんだ。あのチラシって、レッドが配ったのか。
レッドは人事のような顔をしている。
もしかして、恥ずかしがり屋さんなの?
「何言ってんだ。あれ配ったのは社長だろ。あたしだってチラシ見て探偵社に来たんだからさ」
「あれ、そうなの?僕はてっきりレッドだと思ってたのに」
じゃあ、誰があのチラシを、って話になって、全員に聞いたんだけど、だれもいなかった。ああ、じゃあさゆりさんだ、って結論になって、
「何の話?」
って、登場したさゆりさんに尋ねると、
「私じゃないわ。キンちゃんじゃないの?」
と質問が返ってきた。
おいおい。これはどういう事だ。
誰があのチラシを配ったんだ?
いや~な空気が流れている。
その時出入口のドアが開いた。
「あ、すまない。今日は貸し切りで・・・・」
ヨースケさんの声が途中で小さくなった。
ドアの前に人が立っている。黒のジャージにサングラス。口元は黒いマスク。明らかに変な人だ。
一瞬、強盗かと思ったが、手に何も武器らしきモノが無かったので違うようだ。
全身黒の男は室内のメンバーを見回していた。
「ようやく集まったか」
こもった声で男が言った。
社長が立ち上がり男に近づく。
「君は誰かな?」
男に問う。
「私は・・・・いや、まだ明かせない。仮にブラックとしておこう。君たちにチラシを配り、集めたのは私だ」
え?
それぞれが近くにいる者と顔を見合わせる。
当然、誰も男を知らない。
予期せぬ宣言に、社長も次の言葉が出ない。
「あんた誰なの?何のために私達を集めたの?」
思わず言ってしまった。
男は私の勢いに負うことなく、
「では、君たちを集めた本当の理由を言おう」
と言った。
「実は・・・・」
男の言葉に、全員が身を乗り出して聞いていた。そこで私達は衝撃の真実を知ることになる。
その真実とは?!
未来へつづく
浦兼探偵社 完
浦兼探偵社 ~炎の七日間~ 九里須 大 @madara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます