幼き蹉跌その2
―――同時刻。同場所、中庭時計塔内部
「ちぃっとも顔出さなくなっちまったなぁ」
「暇だ。このままだと暇に殺されちまうーっ。なぁスパイクよぉ。なんかすべらない話してくれよ。俺の失われてしまった笑顔を、お前の力で取り戻してくれよ、なぁ?」
「誰もお前の汚い笑顔なんて見たくねぇから、そのまま封印しとけよ」
交代を交わしながら遊び感覚で狙撃を楽しんでいたマックスとスパイクの2人であったが、赤鳳騎士団の面々が会議室内に篭もってから数10分
マックスは既に監視に飽きて、仰向けに寝っ転がって天を仰いでいたし、
「あぁ~、やめやめっ。こりゃもう、しばらく出て来るつもりはねぇだろうな……やっぱ、最後の奴を外したのは痛かったなぁ」
「な? そもそもアイツ等おかしいだろ。なに当たり前のようにこっちが撃つ前に反応してんだよ」
「まぁそれでも、誰だか分かんねぇ
「それな。もしかして……ドミニク
「もしかして……ありゅんじゃね?」
「「ガハハハッ」」
腹を抱えて笑い合う2人。ここで彼等のいう誰だか分かんねぇ迂闊な女騎士様とは、儀剣を拾う為に動いたアイリーンの事なのだが、2人はその時のアイリーンが制服を着ているから赤鳳騎士団の誰かだろう、ぐらいにしか考えてなかった為に、本来なら殺すべきではない
ひとしきり笑い合った2人は急に真面目な顔になって黙りこくった。先に口を開いたのは、スパイクの方だ。アフロヘッドを搔き
「まぁここら辺にしとこう。こんなん知られたらドミニク姐さんに殺されちまうし」
「だな。って、何処に行くんだ?」
「ちょっともう1度外の様子を……な。おっ、いるねぇ、いるねぇ。数も増えてるじゃねぇか」
「マジで? ちょっと
「お前、マジで少し瘦せろよっ。腹の分、俺が押し出されて見えねぇじゃねぇか」
2人は先程まで覗き込んでいた小窓とは反対側。研究所の入り口付近を見下ろす事が出来る、少し高い位置の窓際に移動して、互いに揉み合い、押し合いながら、外の様子を確認する。
外では武装を固めた治安局員達が研究所を包囲し、今にも突入を開始しそうな
実際の所、マテウスとゼノヴィアの会話にあったように、彼等に突入の意思はない。本来であれば、すぐにでも動きたいのは彼等もそうなのだが、事情が事情なので、現場指揮官は歯噛みをしながら暁の血盟団の無法を、座して見守るしかない状態であった。
だが、そんな事情を知らない2人は、迫る突入までのカウントダウンに嬉々としていた。
「なぁ、スパイク君。これなら、もうさ……起動させていいんじゃないですかね?」
「おやおや、マックス君。奇遇ですな。私もそう思っていた所ですよ」
そうして2人が向かう先は、この狭い時計塔内部の大半を占有している、
シートの下から現れたのは、全高6m。全長は8m程の……例えるなら蜘蛛のような、禍々しい形をした物体だった。黒をベースにして、所々を黄色い斑点が彩る毒々しい配色。横長の胴体と、それを支える為に突き出た、昆虫のように長い8本の細足。そしてそんな大きめの胴体から、人の形をした上半身がにょきっと生えたフォルムは、遠目からでは
だが、これはれっきとした
大きな技術革新を見せて、第5世代の
この騎士鎧。複座型なのである。
「俺の記憶が確かなら……コイツを使うのは、治安局や教会が来た時って、親父も言ってたよな?」
「言ってた。言ってた」
「外にはいつでも突入するぜ、と言わんばかりの治安局員共……つまり、奴等をコイツで蹴散らしたって問題ない訳だ」
「問題ない。問題ない」
スパイクの回りくどい言い訳探しに、マックスは
「まぁ、外の奴等を蹴散らしに出向いてやってもいいが……その前に、ツバキの仇を取ってやるのも悪くないよなぁ?」
「生意気だが、可愛い所のあるいい奴だったのに……アイツ等、許せねぇよなぁ?」
「あぁ……その通りだ。俺は我らが同志の為に、1分間の
「丁度俺もそのつもりだったんだ」
「では……「「黙祷っ!」」
もちろん、ツバキ(着物少女の事)はまだ存命である。ただ、ツバキを退けた女騎士(パメラの事)や、
「という訳で、コイツを動かす事は決定なんだが、その前に俺達には避けて通れない重要な決断をしなければならない」
「……そうだな、スパイク。俺達はこれから戦いに
「あぁ……決着を着けねぇとなぁ……」
「「どっちが上に乗るかって事をよぉ!!」」
「なんで決める? ジャンケンで良くね?」
「待て待て。俺、この為にクジ作って来たんだわ。赤い印のついた方を引いた奴が……」
「あからさまに怪しいだろーがっ、それはよぉ? 先にその棒を見せて……ちょっ、離せっ、こらっ! ほら、見ろっ。どこに赤い印があるんだよ? マックスさんよ? あぁ!?」
「ハイハイ。名探偵、名探偵。折角、俺がお前の為を想って、
「ハッ。そういう浅い心理戦が俺に……いや、待て。なんで俺が出す奴をお前が勝手に宣言してるんだよ。馬鹿だろ? さては馬鹿だろ? お前」
そんな潜む気が全くない狙撃手達を、まだ乗り手のない<パーシヴァル>は静かに眺めていた。
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