GEAR 1-1

GEAR〜世界はいつも勝手に回り廻る〜



『ギア』それは今から60年ほど前、とある地域に存在する遺跡から発掘されたものだった。当時の研究結果では材質は不明、おそるべき硬度を誇り、内部に膨大なエネルギーを秘めた金属で構成されているこの物体はとある機能を有していた。その機能は『可変兵装』。後に『オーバーライド』と呼ばれるようになるこの機能は、ギアを所持したものに質量、体積などの法則を無視した、戦闘能力を有する外装、および兵装を与えるというものであった。


当時の兵器の概念を覆すこの発見は、同時期に世界各地で発見された同種のギアによりすぐさまに軍事に利用された。しかし、強大すぎるその力は、世界のバランスを大きく変え、ともすれば人類の歴史を滅ぼしかねないものでもあった。


そこで締結されたのが、『代理闘技条約』。ギアを所有する国、もしくは機関の代表が1〜5人の同人数での戦闘によって勝敗を決め、その勝敗によって議題として取り上げられた物事を決するというもの。この条約により、多少の力の差は残しつつも、大規模な国家間の戦争行為などを抑える事に成功。また、代理闘技は一つの興行として、世界的な人気を博すものとなった。


そして現在。1人の少女が回り廻る運命へと巻き込まれる切欠の時を迎えようとしていた。





〜極東国家アマツ・武蔵地域〜



八狗 文は困っていた。何に?この現状にである。視界から入る情報は薄暗闇。やたら埃っぽいこの場所は、どうやら広めのホールのような場所であることがなんとなくわかった。そのホールを目の前にして、八狗 文は天井から逆さ吊りの状態であった。どうやら太い植物の蔦のようなものが が足に引っかかっているようだ。


そして八狗 文は困っていた。何に?如何してこうなったか、にである。宙吊りになりながら、八狗 文は思い返す。先程起きた出来事を……。




「あー、諸君。そこで止まってくれ、そう、そこに荷物を降ろしてくれ」



鬱蒼とした山中。大きな荷物や機材を背負った一団が獣道を登っていた。総勢20人程であろうか、ある程度統一された出で立ちの一団は、黙々と草木の生い茂る道無き道を歩いていく。程なくして道が急に開ける。森の中に大きく開けたその場所で、先頭を歩いていた男性が後ろの面々に声をかける。



「一息入れたらB班は機材の設置を頼むよ、C班はベースキャンプの設営、A班は準備が整い次第遺跡前に集合だ、それじゃあみんな、よろしく頼むよ」



歳は50後半であろうか、白髪交じりの短髪に銀縁眼鏡の初老の男性の号令のもと、班分けされた面々は作業を開始する。その様子を確認した男性は、ふと視線を広場の中央へと向ける。そこにあったのは、巨大な岩で組まれた大きな遺跡であった。



遺跡と判断できたのは、乱雑に積まれた巨石の中央あたりに大きな石造りの鳥居が据えられていたからだろう。そうでなければただの岩山にしか見えないそれは、どうやら奥へと続く道があるようだった。



「武蔵で発見された最初の遺跡……ね。もう調査し尽くされたものと思っていたけど……」



ズボンのポケットから煙草の箱を取り出し、そのうちの一本を咥え火を灯しながら、初老の男性は呟く。視線の先の遺跡には、何か思うところがあるのだろう。感慨深げな雰囲気を醸しながら、ゆっくりと煙を吐く。



「叔父さ……八狗教授。A班の準備整いました……どうされました?」



と、黄昏る男性に声をかける1人の女性。年齢は20台になったばかりだろうか、均整のとれた顔立ちに、若干の緊張を含んだ黒髪短髪の女性は、声をかけた男性の雰囲気に怪訝な表情を浮かべる。



「ん、ああ。文君か。いやなに、ちょっと昔を懐かしんでいただけだよ。それで、A班の皆はいつでも出れる状態なのかい?」



「あ、はい!A班は隊長以下4名、自分も含めていつでも行動可能です。ベースキャンプの方はもう少し時間がかかるそうですが、B班の方は機材の準備を終え既に内部の索敵、解析を進めています。」



「ん、わかった。それじゃあ一旦皆を集めてもらえるかな? 第一次調査にあたって少し話をしておきたいんだ」


「了解しました!それでは失礼いたします!」


そう言い一礼し、伝達事項を伝えにかけ去る女性……文。その後姿を見やりながら、教授と呼ばれた男……八狗 東真は小さく煙を吐き出すのだった。






「さて、皆準備とかご苦労様。これからA級特秘遺跡 ミツミネノヤシロを調査する訳なんだけど……皆は此処がどの様な場所か、知ってる人はいるかな?」


広場の中央、其処に集まった調査隊の面々に、東真は質問を投げかける。すぐさま上がる全員分の手……それもそうだろう。遺跡研究を生業とする者たちにとって、この遺跡は知らない者がいないというほど有名な場所なのだから。


「うん、みんな知っているようだね。此処は古代遺物オーパーツ【ギア】が初めて発見された場所。あれのおかげで世界は良くも悪くも大きく変わった。頻発していた紛争も代理闘技のおかげである程度は緩和されたし、ギアの解析を進めることで新たな合金の生成やエネルギー問題に関しても7つの【オリジン】のお陰で補えている。これは本当にすごいことだ……それで、なんでまたこの此処の調査をすることになったのか、疑問に思う者もいると思う。それについての説明を確認のためもう一度しようと思う……文君、お願いできるかい?」


「はい、それでは配布した資料を開いてください」


そういいながら進み出たのは先ほどの女性、文。手元に持ったレジュメを開きながら、文は説明を始める。


「ギアには、内部の高密度のエネルギーを内包している、というのは皆さんご存知だと思います。このエネルギーは、本来ギアの主要機能である可変兵装オーバーライドを行使する際に使用されると結論付けてられており、通常状態のギアからはこのエネルギーは感知されないようになっております。ですが、先日武蔵地方で起きた大きめの地震。この地震の発生と程なくして大型のエネルギー反応が一瞬検知されました。其れが今回の遺跡再調査の理由ということになります」


「ありがとう。調査しつくされていたと思われるこの遺跡なんだけどね、さっきB班の探査結果を見たら、どうやら地下に新たな空間が出来ているみたいなんだ。恐らく先日の地震で塞がれていた部分がずれたかなんかで発見されたみたいでね、なんでエネルギー反応が検知されたかはまだ定かではないけど、エネルギーの波形を解析するに新たなギアがこの遺跡にあるのは間違いないと思う。今回はそれの調査、及び回収が目的だ」


「教授、質問があります」


と、調査メンバーの一人から声が上がる。声を発したのは燃えるような赤の長髪の女性……いや、男性だろうか。その人物に東真は続きを促すように視線を送る。


「先ほど大型エネルギーを検知、とありましたが。それは我々がわざわざ調査するべき価値があるものである、という認識でよろしいのでしょうか? 遺跡で発見されるものであればスペシャル以上であることは間違いないのでしょうが……ファンタズムなどの可能性がある、という事ですか?」


「うん、それも含めての調査だね。もしファンタズムや、万が一オリジンクラスのギアが発見されれば世界のバランスはまた大きく変わるかもしれない。個の国や機関がそのようなものを所有するのはあまりにも危険が大きい……という訳で、我々【中立古代遺物研究機関・オモイカネ】の出番、という訳さ」


まぁさすがにオリジンクラスが出てくることはないと思うけどね、と付け加えながら、東真は言葉を続ける。


「そんな訳で、今回はもしかしたら危険が伴うかもしれない。と言うのは新しいギアが発見されるのはしばらくなかったからね、今はレジェンドをベースにノーマル、レアは量産できる訳だし。だからこそ新しいギアは希少度が高い。多分外部からの妨害や何かしらの干渉はあると思う……という訳で、少しだけ班の編成を変えようと思う」


「事前に編成したものは上に提出をしてるんだけど、それが何処で外部に漏れてるかわからないからね、遺跡内部の調査はA班3人、B班2人から選ばせてもらうよ。まずはA班だけど、文君、羽根発条君、古柴君の3人だ、準備の方をお願いするよ」


「はい!」


「了承しました」


「おう!!わかった!!」


名前を呼ばれた3人は三者三様の返事を返す。次にB班からだけど……そう続け、他の者にも支持を出し始める東真。その間に、先ほど呼ばれた3人ともう2人、元々のA班のメンバーは準備を始める。


「え~~~?っていうか私とさっちゃんはお留守番ですか~?それってつまらなくないですか~?」


準備中、そんな不満の声をあげるのはメンバーから漏れた一人の女性。ここまで着用していた調査機関の作業服からは変わり、今はあまり見ないような不思議な服を着用している。


「はっはっは、まぁそう言うなヨシカ。教授も思うところあってのことだろう。そもそもお前達のギアは狭いところだと些か動きづらいだろう? そういう事も考えられてるんだと思うぞ?」


そうヨシカと呼んだ女性をなだめるのは鍛え上げられた体格を持つ男性、なぜか上半身がさらけ出されているのだがA班は誰も気にしていないらしい。


「も~?団長さんそんなこと言ってもつまらないじゃないですか~?私だってみんなと楽しく調査したいですよ?さっちゃんもそう思うでしょ?」


ブーブーと文句を垂れるヨシカに引っ付かれながら話題を振られるさっちゃんと呼ばれたもう一人の女性、顔立ちはヨシカと似ているのだが目つきのほうが死ぬほど悪い。


「あ~?自分は別にいいっすよ。めんどいじゃないっすかそういうの。みんなが戻ってくるまでだらだら昼寝でもしてるっす」


「さっちゃんがお昼寝するなら私もお昼寝する~?」


「いや、ちゃんと他の皆さんを手伝ってくださいよ……サチコさんも、お手伝いしてください、ね?」


そう苦笑しながら漏らすのは文。てきぱきと調査用の準備を整えながら、既に昼寝の準備を始めるサチコに声をかける。


「え~、めんどいじゃないっすか~。動くこと自体面倒なのにお手伝いとかさらにめんどいじゃないっすか~、やらなきゃダメっすか?や、自分一人くらいやらなくても大丈夫っすよね、うん、大丈夫に決まってるっすね」


「そんな訳ないじゃないですかこの堕落の権化。いいから働きなさい」


こうなるともう打つ手なし、ヨシカも便乗してだらけモードに移行しようとしているところにもう一人、先ほど発言した赤髪の人物が姿を見せる。


「げ……石頭君が何の用っすか?自分昼寝に忙しいんで要件があったら三年後くらいにお願いするっす」


現れた男性を見るや否や、げんなりとした表情で視線を逸らすサチコ、その様子を見て大きくため息をつく男性は、掛けていた眼鏡を軽く押し上げながら大きくため息をつく。


「僕は石頭君などではありません、羽根発条 凛という立派な名前があります何度言ったらわかるんですか、それに昼寝など他の人の働いている時間分位してるでしょう貴女は……良いからとっとと割り振られた作業をこなして下さい。大体3年後に言ってもその時にこの場にいるわけがないのだから意味がないでしょう」



「ほんっとユーモアの分からない石頭君っすね……わーりましたよ、やるっすよ。よっちゃん働くっすよ」


凛の融通の利かない答えに頭を抱えるサチコ、しかしこうなるとどう言っても無駄だし動くまでずっと言われ続けるのを分かっているのだろう。ああもうほんとめんどくさいと零しながらも起き上がり、作業の準備を始める。


「お?働く?さっちゃん働いちゃう?じゃあヨシカも働いちゃう?」


「パパっとやってチャチャっと終わらせてだらだらするっすよ、めんどくさいことはいつまでもやらずに放置するかとっとと片付けるに限るっす」


「じゃあパパっと終わらせちゃう感じ?ヨシカも真の力を発揮してもいい感じ?」


「終わらせちゃえばこっちのものっすよ、だらだら自堕落タイムっす、そのためにも全力でやるっすよ」


「おーっ?ヨシカ頑張っちゃうよ?」


「掛け声ばかりでなく手を動かしなさい手を……それで、団長と文さん。そちらの準備の方はいかがでしょうか?そろそろB班の方々の準備もできるでしょうし」


気合を入れて行動し始めるまでにあと30分はかかるだろう、そうため息をつきながら凛は二人の方へと向き直る。


「おう!俺の方はいつでも行けるぞ!」


「あ、はい!私も大丈夫、です!」


「分かりました。入口へと向かいましょう」


そうして3人は遺跡の入口へと向かう。その後合流したB班2名と計5名で遺跡の調査へと赴くこととなるのであった

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GEAR~世界はいつも勝手に回り廻る~ 紅屋酒桜 @syuou_shidare

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