第9話
酒井が誘拐犯グループに入って三日ほど経ったある日のことである。
酒井は正くんと一緒に小学校付近をぶらぶらと歩いていた。
“カモ”を探すためである。
と、ふいに正くんが自動販売機の前で立ち止まった。
喉が渇いたので、100円のコーラを買うらしい。
が、正くんは90円しか持っていなかった。
そこで、自販機を蹴って無理やりコーラを落とすことにした。
「えいっ!」
正くんは思い切り自販機を蹴っ飛ばした。
シ~ン…。
何も起こらなかった。
「くっそ~!」
正くんは悔しがって地団駄を踏んだ。
「こうなったら…」
正くんはリーダーである秀くんに電話した。
『もしもし、こちら秀くんです』
「あ、秀くん?僕だよ、正くん」
『どうした、正くん。道に迷ったか?』
「違うよ。実はね…」と、正くんは事情を説明した。
『なんだ、そんなことか』と、
『じゃあ、こうしろ。その自販機の近くに、ホーマックがあるはずだ。そこで、電動ノコギリを買ってこい。そして、その電ノコで自販機を切断し、コーラを取り出すんだ』
「あ…あのう~」
正くんは言いにくそうに切りだした。
「ノコギリ買う金あったらコーラ買ってるんですけど…」
『じゃ、ノコギリは盗んでこい』
秀くんはピシャリとそう言って、電話を切った。
「よし、舞由李」と、正くんは酒井に向き直って真面目な口調で言った。
「お前に重大な
「え~めんどくさ…」
「よーく聞けよ。お前は今からホーマックへ行って、電動ノコギリを盗んでくるんだ。つまり、万引きだ。できるか?もし成功したら、お菓子を買ってやる」
「本当?!」
酒井は目を輝かせた。
「やれるか?」
「やるっ!やるやる!」
二人はさっそくホーマックへ向かった。
正くんは店の入り口で待機し、酒井は一人、店へ入っていった。
酒井は店頭にある電動ノコギリを持つと、入口の近くのレジに並んだ。
勿論、並んでいるフリをしているだけである。
あとはただ、外で待機している正くんの合図を待つだけである。
人が少なくなってから、ようやく正くんが合図を出した。
「よし、今だ!」
酒井はノコギリを持ったままダダダダッと店の外へ猛ダッシュした。
すぐに店員が気付き、後を追いかけて来たが、酒井の足の速さには敵わなかった。
「よし、よくやったぞ、舞由李」
正くんは酒井からノコギリを受け取ると、上機嫌な様子で来た道を戻りはじめた。
「ねー、お菓子は?」と酒井が聞いたが、正くんはそれを無視し、
「今度は自販機を切断する作業に入る」
「ねー、お菓子はまだ?」
「うるさいな!」と、正くんは酒井を怒鳴りつけた。
「そんなだから太るんだぞ!」
「なんだとー!この白髪野郎!」
「ガーン!」
ちょうどその時、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
とたんに正くんは真っ青になった。
「どどど…どうしよう!」
「私、知~らないっと」
酒井は冷たく言い放ち、正くんを置いてどこかへ去って行った。
めでたしめでたし。
大食らい女児――MAYURI―― オブリガート @maplekasutera
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