第2話 質問⇔紹介

 終礼のチャイムが鳴った。

 授業は平穏無事に終わった。誰も死んでない。


「それじゃ今日のHRはお待ちかね、転校生への質問コーナーな!」

 一番待ちかねていただろう秋口が、教壇の上で嬉しそうに宣言する。この女の本職は研究者だ。俺らみたいな人間の。文系だか理系だか分からない職種だが一先ず白衣を着ている。医者で博士で教育者。いろんな意味で先生。

 秋口に招かれて八熊さんが前に出る。緊張の面持ちだ。それも仕方ないだろう。人相の悪さと得体の知れなさには定評があるからな、この学び舎は。

「はいそれじゃ一同、質問!」

 秋口が煽って、かえってクラスの緊張感が増す。

 箱の中身はなんだろな、だっけ。あれと同じ。命の危険はない。事前説明が無かったことからもそれは分かる。でも抵抗がある。自分からは行きたくない。

 だからこういう時だけは、出しゃばりのヘド子に感謝したくなる。

「はいはいはいはい!」

「じゃあ、そこのレインコート女」

「新村干支子だよ先生ヘド子って呼んでくれてもいいよ!さっきはごめんね八熊さんいきなり叩こうとして!それでさそれでさ八熊さん!」

 ヘド子は満面の笑みで質問した。

「八熊さんはさあ、どんなふうに呪われてるの?」

 さすがKY女。空気抵抗ゼロの直球ストレート。話が早い。

 


 このガッコーにいる連中には共通点がある。

 極悪人の先祖がいること。

 そして、その所為で、ガッツリ呪われていることだ。



 八熊さんは戸惑い気味。そりゃそうだよな。普通あり得ない質問だからな。

「えっとその、どんなふうに、というのは?」

「なんとなく分かるけどねさっき喰らったから!」

「あ……そ、その節はすみません!」

「めっちゃ硬かった!何その体の周りのやつ!教えて教えて!」

「は、はい、ええっとですね」

 八熊さんは一息ついて話し始めた。

「私は、誰も触れられないし誰にも触れられない、という呪いがかかってます。私の体の周り、大体15センチくらいのところにバリアが張られている、と思ってもらえると分かりやすいです。生き物は絶対に通り抜けられません。無生物は普通に通過できます。その、生まれつきです。いろいろ、気をつけてください。けっこう硬いです。バリア。ええと、以上です」

 小さく一礼した八熊さんに、秋口がぱちぱちと拍手をする。

「めちゃくちゃ分かりやすい説明だったな。先生から捕捉することは一つもありません。まあ、自分と違う呪われ方してるからって気味悪がったり、いじめたり、避けたり、見世物扱いしないようにな。今更言うまでもないけどさ」

 当たり前だ。そういう辛さは俺ら全員が知っている。

 秋口は満足げに頷くと、一つ手を叩いて声を張り上げた。

「さて、八熊のバリア体験してみたいなーっていう人!」

「はい!」「面白そうだな」『新しいですね』「やりたいやりたい!」

 いきなり見世物扱いじゃねえか!

 俺は心の中で突っ込んだ。思い切り右手を上げながら。

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八熊さんにはぶつかれない 佐賀砂 有信 @DJnedoko

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