第14話 ミス・ステラがシルセン子爵家の浄化を請け負った時の話 後編

 シルセン子爵家の財産からすると、この屋敷は小さすぎる。

 商会を経営する家になると使用人や配下のために屋敷は大きくしなければならないが、『ダリオの嘆き谷』の地権者であるシルセン子爵の邸宅はそこそこ大きな屋敷という財産に見合わない大きさである。

 資源迷宮から上がる一日の収益から一厘の取り分。それが子爵家の財源だ。

 何もしなくても金貨十枚は固い。

 それは年や月ではなく、一日での話だ。

 何もしなくとも金は手に入るが、シルセン子爵家にそれを何倍にも増やそうという野心はなかった。



 最初にやったのは、無意味なドアに塗料で×印をつけることだ。


 こうドアが多いとどれが本物か分からない。

 次は床。


 行き止まりに続く廊下には×印を。


 部屋は無数にある。

 小箱しか置けない部屋。

 広すぎる部屋。

 実務に使われた部屋。

 小さな愛人を囲っていたという部屋。

 無意味な部屋を見分けるために、色んな印をつける。


 すぐに塗料が無くなるので、買い足す。

 塗料屋の主人は怪訝な顔で何に使っているのか尋ねてきた。

「幽霊屋敷の浄化よ」

 そう応えると、主人は腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 よく眠れないせいか、顔色が悪い。化粧で誤魔化してはみたが、それでも酷い顔だろう。きっと、店主はステラを魔女とでも思っている。

 仕上げに金物屋で鳶口を買って、帰りは流しの馬車に乗った。

 行先を告げると乗車拒否をされたが、五人目でようやく乗せてくれた。

「ちょっと前はよくご指名頂いたんですけどねえ」

 宅師はシルセン子爵家のお抱えだったとかで、当主の死については悔やむような言葉を吐いた。しかし、どこか安心しているように見える。

 辺境とはいえトリアナンは大都市だ。

 迷信深い田舎者共め。



 鳶口で、幾つかの怪しい壁を叩いた。

 壁を叩けば音が違う。どう考えても塗り込められた空間があるので、壁の薄そうな所を砕いてみたのだ。

 それは、二階の愛人の部屋の壁である。

「はは、下らないわ」

 隣は夫婦の寝室。

 寝室側に備え付けられた隠し部屋である。

 見た所、愛人の部屋を覗くための隠し部屋だ。穴を開けて魔法で幻影を作るか、古い手だが目の部分をくり抜いた肖像画でも置けばよい。

「何が幽霊屋敷よ。ただの変態の巣じゃないか」

 厠にも隠し部屋はあった。

 どれも覗くために作られた隠し扉付きの小部屋である。

「ここに隠れて粗末なモン握り締めてたってことよね」

 天使の美形を受け継いだ一族も、ハラワタはこんなものか。


 ちがうよ。

 そこを開いちゃいけない。


 一日そんなことをしているとくたくたになって、風呂を沸かす気にもなれなくて、庭園の池で水浴びをする。

 湧水を使ったものなのだろう。魚が住むほどに清い。



 屋敷にある無数の隠し部屋からは、妙なゴミが出た。

 子供の歯や、何かの骨。

 どちらも古いもので、黄色く変色していた。

 足で踏みつけて転びそうになるので、そういったものはくず入れに一まとめにしておいた。

 これを祟りの原因とでもして、坊主に供養させたらいい。

 それだけで、霊験あらたかな霊媒として持て囃されるだろう。

 人は、矛盾していても納得する短絡的な答えを欲している。


 さあ、次は地下に行かないと。


「おかあさん、がんばってね」



 シルセン子爵邸宅の地下は、上階と比べて目立った改築はされていない。

 食料の貯蔵庫や氷室であるため、改築が難しかったのだろう。


 何かが走っていると思ったら、鼠の親子だった。

 担いでいた鳶口を振ったが当たらない。

 獣のくせに親子仲良く走り回るのが気に入らない。ネズミは共食いをする。人間と何も変わらないくせに。

「こっち、こっち」

 声に振り向けば、奇妙な鼠がいた。

 黄金に光り輝く、毛の抜け落ちた不思議な鼠だった。

 暗い地下室を照らすその鼠は、笑う老女の顔をしていた。

「久しぶりだねえ。元気にしていたみたいじゃないか」

「ああ、そんな姿になってたのね」

「意外と鼠もいいもんだよ。あんたたちを迎えにきたんだ、こっちにおいで」

 あの洞窟の鬼婆は、石で叩き殺した鬼婆は、こんなに穏やかな顔で笑えたのか。

「何があるの?」

「いいところだよ。功徳を積めるところだよ」

 死後、功徳を積んであんなに優しい顔になったのだろうか。


 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。

 行っちゃいけない。


 七つの声が闇から聞こえた。

 カタカタと顎を鳴らす小さな髑髏が闇に誘う。

「こっちにおいで」

 輝く鼠の老婆に連れられて、元はワイン貯蔵庫だった部屋へ行く。

 急いで固めたのだろうか。

 木板を何枚も打ち付けて補修した壁の穴から、光が漏れている。

 ああ、ここか。

 この奥にあるのか。

 鳶口で一枚ずつ外していくが、それは女の手には骨の折れる作業だった。

 手の痛みを我慢して一昼夜。

「あっ」

 無茶をさせすぎたのか、鳶口が折れた。

 買いにいかないと。早くこれを外さないと。



 折れた鳶口を持って、外へ。

 太陽の光は眩しすぎて。目の前は霞がかかったように見える。

 流しの馬車も見つからなくて、仕方がないので身体を引きずるようにして歩く。

「霊媒師の先生、どうされたんですかい」

 声をかけてきたのは、食物の配達を頼んでいた老人だった。

「鳶口を、買いにいかないと」

「そんなことより、酷いお姿ですぜ」

「早く開けてやらないと。地下にあるのよ、いいところが。光が、光があるの。あそこには、絶対、とても大切なものが」

「そうだ、良い店を知っているんで、どうぞこちらへ」

 老人に手を引かれて歩く。

 皺がれた手を握れば、子供のころに母とこうして歩いたことを思い出す。

 村を追い出されて、夕暮れに沈む街道を歩いたのだ。足の速さに追いつけなくて足がもつれるのもあの時と同じ。


 ふふ、ふふふ。

 お母さんになるの。

 わたしも、お母さんになるの。


 老人は渡世人たちの集う酒場に案内してくれた。

 ここに鳶口は売っているのだろうか。

「なんてこった。だから言ったってのに。大丈夫か、あんたっ、おいっ」

 髭面の男が叫ぶ。

「鳶口を、鳶口を買わないと。ああ、これで足りるかしら」

 財布から金貨を取り出すつもりが、一緒に黄色くなった歯まで出してしまった。いけない。いけない。大切なものなのに。



 ここからは後で聞いた話だ。

 その時、髭面の男を制して前に出たのは、薄汚れた旅姿の騎士らしき男だった。

 砂漠を越えた異国からやって来たという訳アリの密入国者で、彫の深い精悍な顔立ちの男である。

「店主、その女は魔に魅入られている。だが、手遅れではない」

 それは一瞬のことで、暴力に慣れた渡世人たちですら制止できぬ神速の出来事である。

「きいぇぇぇぇぇ」

 気合一閃。

 腰に佩いた無骨な騎士剣を抜き放ち、一刀のもとにステラの影を斬り裂いたのだ。

「ぎゃあああああああ」

 その時、店にいた悪党たちの全てが老婆の断末魔を聞いた。

「騎士のだんな、なんてことを」

「女は斬っておらん。影を見ろ」

 立ち尽くすステラの影の中で、体毛の抜け落ちた鼠が両断されていた。その頭には、長いざんばら髪があり、顔はまるで人のよう。

 荒くれたちが息を呑んだ。

 決してモンスターではないと一目で知れる。まともな生物にはあり得ない、歪で忌まわしい存在感が確かにあったのだ。

「裏の井戸を借りるぞ。この女を清める」

 茫然自失のステラは、騎士に井戸水をかけられ、さらに気付けの酒を飲まされて暫時、ようやく自分を取り戻したのであった。




 汚れきった体を湯屋で清めて、手持ちの金で新しい服を買った。

 新しい清潔な服に袖を通してから、騎士に言われたとおりに塩気の強いスープとパンを食べた。

 人心地ついてから、あまりに異常なことを自らがしていたと、恐怖で身体がガタガタと震えた。あの時、わたしは狂っていたという自覚が恐怖に苛むのだ。

「た、助かりました。騎士様、なんとお礼を言っていいか」

 悪人たちもまた、騎士を畏怖するように見ている。

「なんとか斬れたが、悪い気配がついている。もう幽霊屋敷には戻るな」

「お願いします。なんとか、身を護る方法を教えて下さい」

 騎士は渋ったが、食い下がると教えてくれた。

 彼は謝礼を頑として受け取らなかった。曰く、確実なものではないから謝礼は受け取れない、ということだった。



 それからの数日は、体力の回復と準備に努めた。

 騎士は文句を言いながらも、出来るだけのことをしてくれた。

 裸を見られるのはなんとも照れてしまうものだけれど、騎士は眉一つ動かさなかった。それは、女としてとても悔しい。



 顔と手足に包帯を巻く。

 見えないところ、服の中の胸から腹にはさらしを巻いて、教会で買った銀の短剣を懐に忍ばせる。腰のベルトには聖水の瓶を挟んだ。

 騎士から作り方を教わった目くらましの護符と、譲ってもらった悪魔封印の呪符を持ち屋敷へ行く。

 騎士が言うところによると、シルセン子爵邸宅は人の世界ではなくなっているとのことだ。行くなら朝が一番マシだが、それでもスラムを裸で歩くようなものと呆れられた。

 早朝の張りつめた空気と朝日に照らされているというのに、邸宅は瘴気に満ちていた。


 逃げて。

 逃げて。

 逃げて。

 逃げて。

 逃げて。

 逃げて。

 逃げて。


 あなたたちを置いて逃げられないわ。



 最初に邸宅に入った時よりもずっと、その危険が分かる。

 何かがいる。

 正面玄関を開けてすぐに目くらましの護符を壁に張る。そして、走った。

「おかあさん、おかえりなさい」

 背後で響く少女の声は無視する。あんなものは気の迷いだ。

 護符に語りかける少女などいない。

 増改築で迷路と化しているが、目印はつけてある。でも、どうしてあんな邪悪な印を私は描いてしまったのか。

 走りながら、護符をドアや窓に張り付けて、地下室を目指す。



 きちゃダメ。

 きちゃダメ。

 きちゃダメ。

 きちゃダメ。

 きちゃダメ。

 きちゃダメ。

 きちゃダメ。


 地下室は異常な気配に満ちていた。

「はっ、早く、行かないと」

 ワイン貯蔵庫の奥へ。

 あの封印された場所へ、呪符を張り付けるのだ。

 足を編み入れて前を見た時、膝から崩れ折れそうになった。

「どうしてっ」

 そこにはぽっかりと穴が開いていて、暗闇に続く口が開いていた。

 ランプに火を入れて、古い階段を進む。

 行ってはいけない。

 邸宅よりもずっと危険な空気が満ちているのが分かる。

「こんなの現実じゃない、こんなの現実じゃない」

 騎士は言った。

 念仏は効かないと。効果があるとしたら、強固な自分だけの意志であると。

 幼かったあの日、生贄の洞窟で知った。

 こんなものに力など無い。あのかみさまは、ミイラは動かなかった。

 潮の臭いがした。

 あの洞窟の奥へ、奥へ。

 いつしか、階段は岬の洞窟へと姿を変えていた。

 子供たちが泣いている。

 その階段の続く先には、洞窟のかみさまがいた。石造りの椅子に座って、見下ろしている。

 鬼婆が七人の子供たちの腹に鉄の剣を向けていた。

「助けにきたわ。今度はわたしの番よ」

 銀の短剣を腰だめに構えて、鬼婆にぶつかる。腹に入れてえぐった。

 確かな殺意を込めて、えぐるのだ。

「こんなもんが怖いほどガキじゃない」

 目の前の景色が変わる。

 波の音も、潮の臭いも、まやかしは霧散していく。

 瞬きの間に、自らが立っているのが古い霊廟カタコンベであると分かった。

 ワイン貯蔵庫の穴は、地下に隠された古い墳墓へと続いていたのだ。

 手には返り血。

 短剣を腹に刺しこまれて息も絶え絶えになっているのは、鬼婆ではない。食物の配達を頼んでいた老人であった。

「お宝は、俺のもんだ、ちくしょう」

 老人は、副葬品らしき錆だらけの剣を握っていた。

 あの時、ステラの言った「大切なもの」をシルセン子爵の隠し財産と受け取ったのだろう。渡世人に彼女を押し付けて抜け駆けをしていたのだ。


 あいつが来る。

 あいつが来る。

 あいつが来る。

 でも、奥はダメ。

 もっと怖いものがいる。

 どうしよう。

 逃げて、ぼくたちがなんとかする。


「させないわ。ずっと一緒よ」

 後になって思い出しても、自らの冴え渡る頭脳が発した閃きに喝采を浴びせたくなる。

 身代わりの護符を瀕死の老人の口に張り付けて、物陰に隠れる。



 ああ、こんな所にいたのね。

 おかえりなさい、おかあさん。

 わたしのために、お腹を開けてくれたのね。

 おかあさん、産まれた後もわたしを愛してね。

 お願いよ。



 地獄とはこのことか。

 耳まで裂けた口の少女は、老人の腹の傷口に手を入れて、そのまま頭から体に入ろうとしていた。ずるりと、頭は柔らかく歪んで腹の傷に吸い込まれていく。

 老人の口に吸いついた護符が、悲鳴を上げさせない。

 ステラもまた、悲鳴を上げそうになる口を押えながら、そろりそろりと歩いた。

 階段に辿り付いて音を立てないように上り、地獄から抜け出す。


「ひぎゃあああああああ」


 穴の中から、老人の断末魔。

 護符が破られた。

 今度こそ走って逃げた。


 おかあさん、どこにいるの。

 ひどいわ。

 あんな人のお腹をさわらせるなんて。


 迷路を駆け抜けて、一階へたどり着いて、窓を割って外の庭園に逃れる。

 窓の外は池の畔である。

 走った。屋敷の中よりはずっとマシだ。

 門はもうすぐ。

 水音がして振り向くと、池の中央が泡立っている。

 何か大きなものが水面から現れ出ようとしている。


「おかあさん、ひどいわ」


 声がして足を止めると、正面にはあの少女がいる。

 ふわふわの髪、高価そうなドレス、耳まで裂けた口。

 目鼻は認識できない。理解することを脳が、本能が拒否していた。

「あなたのお母さんなんかじゃないっ」

「ふふふ、そんなことはないわ。あなたはおかあさんよ」

 悪魔封印の呪符を取り出して、少女の額に押し付けた。

「そんなの、きかないよ」

 少女の手に掴まれた。

 その瞬間、少女の姿が、ぐにゃりと像を崩す。まるで。粘土細工のように存在が崩れたのだ。

 包帯を巻いたその奥には、あの騎士に書いてもらった異国の経文があった。ステラの全身を紙に見立てて、聖なる経典を書き綴ったのだ。

「おかあさん」

「うるさいっ、消えろっ」

 聖水をかけようとすると、少女が異常な音を出した。空気が、世界が軋むような音だ。負けじと聖水の瓶を振り回すと、突風が吹いて聖水はステラにかかった。

 風が止んだ時には、少女は消えていた。

「逃げ、た……」


 まだ、早く逃げて。

 早く。

 かみさまが来るよ。



 背後で水音がした。

 振り向いて目に飛び込んできた光景にも、目を疑うことはなかった。

 この屋敷は人の住む世界ではない。

 池から人とも魚ともつかぬもの、かみさまが飛び出してきていた。

「かみさま」

 襲いかかってきた半人半魚のかみさまは、ステラを抱きすくめた。腰に当たる硬いものが男根であると気づき、悲鳴を上げてしまう。

 生臭い、漁村で嫌というほど慣れ親しんだ魚の臭いだ。

 ああ、死ぬのか。

 みんな、逃げて。

 そう思った時、きらりと瘴気を斬り裂く光が走る。

 あの騎士が、剣を一閃させたのだ。

 かみさまは、汚水へと変じた。

 ステラは騎士の胸に倒れ、そのまま抱き上げられてシルセン子爵邸宅を脱したのであった。


 ◆


 なんとも信じ難い荒唐無稽な話だ。

 シルセン子爵家にまつわる話には何があってもおかしくないが、流石にこれは何とも言葉にしにくい。

「疑ってる顔ね」

 ミス・ステラは笑って言う。しかし、その手に入る力と、語っている時の目は真実を、奥を辿る時に特有の反応を示していた。

 稀代の女傑というのなら、その程度の演技は朝飯前ということか。

「幽霊やお化けは形を作るものじゃないよ。それに、その騎士様はどうにも」

「都合がよすぎる?」

「ええ、まあ、そういう感想ですね」

「ふふ、わたしは、それこそ神のようなものの何かが、加護があったものだと考えているわ。……ベイル・マーカス一等法務官、私に霊視や幻視の力があると言ったら信じられる?」

「いいえ、あなたはそんな力は無いと自分で言っていた」

「それもまた嘘の皮よ。詐術を使う霊媒師と思われた方が都合がいいの。あなたには、見せてあげるわ。特別よ」

 ミス・ステラは顔の包帯に手をかけた。

 ゆっくりと、外していく。

「……なんと」

 彼女の顔は美しかった。左半分だけに限られるが。

「あの日から、鱗が出来たわ。顔の右半分から、右手の指先にまで広がっているの」

 顔の右半分が、魚の鱗が生えたように罅割ひびわれている。よく見れば、それは皮膚が変質して鱗状になったものと分かる。

 人魚ではない。海魔だ。

 半人半魚の、彼女の言うところの『かみさま』である。

「あの時、聖水が身体にかかったと言ったでしょう? 経文がそれで崩れたのね。騎士様にもそのせいって言われたわ」

「しかし、それは何かの病かもしれない」

「そうね。だけど、こうなってから、見て、聞こえるようになったわ。右半分に限られるけれど。思うより便利よ」

 かみさまと同じようになった右半分の顔で霊を見て聞ける。では、その手は?

「医者にいったほうがいい」

「あなたって、本当にヘンな人だわ」

 その後、朝飯前ということで共に朝食をとった。

 あの家については彼女も調べているのだとか。

 別れの挨拶も気安いもので、庭園を眺めてのものだ。

「ラシャンテ男爵にこの家を借りているのは、このお庭をみんなが気に入ったから」

 かみさまの呪いを受けて、七人の子供の幽霊に守護される謎の女。

「その設定、やめないか」

「ふふ、どうしても困ったら頼りなさい、ベイル・マーカス」

 法務官が霊媒師に頼る訳にはいかない。

「そういえば、その騎士様とやらはどうなったんだ?」

「引き留めたけど、訳ありで別の街へいったわ。随分と前にね」

「惚れてたって顔だな」

 右半分のおかげで表情と感情を読みにくいが、ある程度は分かる。

「あの人、経文を書いてる時も全く動揺してなくて。わたしは裸だってのにね。後で知ったんだけど……男色家だったのよ」

 筆者は笑ってしまった。

 ミス・ステラが憮然とした顔をするから余計におかしくて、しばらく笑いが止まらなかった。

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