第10話 一瞬と辿り着いた場所
おもむろにフィレムの腰元にある袋を漁ってみる
罪悪感は限界を迎え、頂点に達していた
「ごめんな...」
不思議と涙は溢れて来なかった
木漏れ日に照らされたフィレムの柔肌は美しく輝き
妖精ということを実感させる
案の定袋の中には見慣れた手紙が入っていたが開くと同時に紙飛行機へと自然と形を変え、何処かへと飛んでいってしまった
「待て!!」
唐突のことの衝撃と希望を失った悲壮感が俺のメンタルを削った
ため息をつくことも忘れ
打ちひしがれた
そもそも俺の母と名乗るカオルという女性が姿を現したのは何故なんだ
わざわざケイネの姿に変装して
俺をこの森に誘い込むように...
いや、待てよ
どうしてケイネに変装したんだ?
俺が見た結婚式の記憶について知っているのは何故だ
まさか、グラドは何か知っているのか?
詳細をひた隠しにしようとするグラドの思惑がますます読めなくなった
それどころか目的が分からないせいで更に事態は迷宮入りした
フィレムを背負い
なんとか森を抜けることが出来た
ヘカリテの目の前の道ではなく他の道へと出てきたようだった
「見つけたぞ」
「お前は...」
目の前に現れたのはあの霧島海音だった
しかしあの森の中でのカオルとレジアムの会話を聞いて
グラドの狙いは俺の命ではない事が分かった
装備を展開し、動きを待つ
「ふっ、あの時よりも成長はしたようだな」
「うるせぇよ、早く来い」
「お望み通りに!」
海音が打ち出した風の弾丸は
空を切り裂き、俺に向かって飛んできた
しかし、その軌道は完全に見えた
何故かは分からない
ただ、見えている以上はこっちのものだった
弾丸を一薙ぎで弾き
そのまま距離を詰め
振り下ろす瞬間に水で刀身を覆い
切り裂いた
その間僅か数十秒
海音はその場に倒れた
「ハァ...ハァ...」
身体中の力が一気に抜ける
自分でも衝撃的だった
あの小人族の男を殺すことすら躊躇ったのにカオルとの出会いが俺の中で何かを変えた
「フフフ...凄いじゃない!」
怪しく笑うのは緑髪の妖精
「てめぇ...グラドに雇われてるのか!」
「そうよ?海音は私のただの手駒だったけれど、こんなあっさり死なれちゃゼナイト石の無駄遣いね」
「ただの手駒...?」
「ええ、グラドのことも知らないで私が貴方を狙いなさいって言ったら言われるがままに襲った従順な手駒よ」
「じゃあ俺は何も知らない女の子を殺したのか?」
「そうね、まぁ、気を落とす必要はないわ私の見込み違いだったようだし、貴方の成長スピードは遥かに人智を超えている、期待してるわ」
「クッソ...」
「それと、フィレムだけれど、もう捨てた方がいいわよ?ただの抜け殻なんて抱えてたってしょうがないじゃない」
「うるせぇ!」
怒りのまま剣を降った時には
既に姿はなかった
倒れているはずの海音も共に消えていた
結界越しに見えるトウキョウの様子はもう廃れていて
人々はトウキョウを放棄し、他国へと避難したように見えた
何をすればいいか分からなくなり
とぼとぼと道なりに歩いていると
1つの村を見つけた
「あの人達は...」
その特徴からして小人族の村
そこで何か話が聞ければと思い
藁にもすがる思いで村の中へと入っていった
妖精の女の子を背負った男が
突然村の中に入ってきたことにより
周りの視線は痛く
ヒソヒソと何か小声で話している様子だった
「お前、何者だ」
小人族の青年が声をかけてくる
その視線は冷たく刺さった
「いや、俺は人間なんだ、この子は妖精族で少し体調を崩してしまったみたいだから、しばらく泊めさせてほしいんだが」
「悪いがそれは出来ない、俺ら小人族はこの転生騒動で多くの仲間達とバラバラになった、その混乱の中で...」
「もうよい」
張った声でそう言い放ち
奥から出てきたのは長老のような男
「エルダー!貴方が出るような相手では!」
「ハクル、そんなに気を張っていてはいつまでも成長出来んぞ」
「あんたは...」
そう、今となっては懐かしく感じた新たなる既視感
この男が何者なのかは分からない
ただ、とても、強く、優しく
「よく辿り着いたな、この村に」
「いや、それはたまたまで...」
「その少女、気分が悪いというのは真ではないな?」
「どうして、それを...?」
「感じられんのだ、生気を、生命としての躍動を」
「そ、そうなのか...」
まじまじと俺達を見つめる老人は手招きして奥へと誘う
「しばらくはここに滞在するといい、その間に色々教えてやる」
「ありがとう...」
久しぶりに心が暖まる
安心感や、疲れから
泥のように眠った
現代社会に異世界とそこの住人が転生した話 豆乳抹茶 @TounyuMattya
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