第9話 真実

「覚悟が決まったみたいね」


 不敵な笑みは背筋を凍りつかせる


「お前は一体何者なんだ!」


 精一杯の声を振り絞りそう叫ぶ


「そうね...私はグラド十人衆の1人、カオル」


「カオ...ル...?」


「貴方の母よ」


 今までの声のトーンが唐突に下がり

 そう呟くと同時に

 こちらへ間合いを一気に詰める

 振り上げられた大鎌は月光に照らされ輝いていた

 走馬灯のように幼少の記憶が蘇りかけ、時がゆっくり進むように見えた時

 その間合いの間に入ったのはフィレムだった

 縦一線に振り下ろされた大鎌は背中を切り裂いたように見えた


「フィレム!」


「あら...」


「ひ...響さん...この人は...」


 何かを言いかけようとしたがそのまま倒れてしまう

 しかし、その背中には傷など無かった

 何が起きているか分からなかった

 目の前に母と名乗る女に今まで一緒に行動してきた妖精の女の子が殺された

 それだけしか


「お前...!」


 心の奥底から怒りが湧き出てくる


「フフ、面白いわね...」


「どうして殺した!」


「命までは取ってないわよ、私の鎌はそんなこと出来ないもの」


「じゃあ何をしたんだ!」



『魂を刈り取った』



「は...?」


 その言葉の意味はよく分からなかった

 しかし、鎌が黒い煙を帯びていた


「私の鎌に殺傷能力はない、けど、この鎌で切り付けた相手の魂を刈り取って保存することが出来るのよ」


「じゃあ、フィレムは生きてるのか...?」


「ほぼ死んでるわ、言うなれば生きた屍ね」


「どうすれば元に戻る?」


「そうね...私がその気にならないと戻らないかも...それか、この鎌を壊すとか?」


「そうか...」


「まぁ、どちらにせよ貴方の魂も刈り取るのだけれどね」


「やられてたまるかよ...」


「フフ...いいわ...逞しく成長したのね...響」


「お前...俺の母親だとしたらどうしてそんな若いんだ、父と名乗るヴァイパストはもう老人だぞ?」


「ただ、魂を刈り取られるだけじゃ面白みがないものね...教えてあげるわ、今貴方が知りたいことを」


 そう言うと鎌を下ろし

 話し始めた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 既に聞いているでしょうけど

 私達は16年前ここ『クリエイドラクション』へ突如転生した

 転生の衝撃でしばらく気を失っていたのだけれど

 先に目覚めたのは私だった

 横にはあの人が倒れていた

 その衝撃で名前や少しの間の記憶が飛んでいて、ここがどこかも分からなくなり混乱している私の前に現れたのはグラドのボスだった

 その男は私をグラドへと招き入れた

 理由は分からない

 今でもちゃんとは教えてくれない

 けれど私はその時頼れる人がその人しかいなかった

 グラドという組織がどういうものなのかは入ってから知った

 けれど居心地は決して悪くはなかったわ

 そして記憶が少しずつ回復していった時

 ボスは私へ大きな鎌をくれた

 お前とこの鎌は最強の組み合わせになると言って

 使い方も直々に教えてくれた

 魂を刈り取ることが出来るようになったのはすぐだった

 しばらくしたある日ボスは、突然に不老が欲しいかと聞いてきた

 不老と聞いて飛び上がらない人間はいないわ

 勿論私はそれを望んだ

 しかし、ボスが差し出した条件はあの人

 つまり、貴方の父の名前を奪うことだった

 身内の名前を代償にし、不老を得ることが出来ると

 私は少し躊躇った

 けれどグラドへ足を踏み入れた以上、不老は最強の武器になると思った

 その時には私はグラドの一員として生きていく覚悟が決まっていたみたいね

 だから私は異世界に転生して1度だけあの人の前へ姿を現した

 名前を奪うことは容易かった

 魂は人間の深層心理データの倉庫、その中から名前の部分だけを削り取り奪う

 ボスは私を褒めてくれた

 そして私は本当に不老を得た

 彼はもう2度と名前を思い出すことは無くなってしまった

 そして私が魂を削り取る部分の記憶も一緒に奪ったせいで

 彼はどうして私が姿を現したのかさえ分からない

 けれど今も後悔はしていない

 私はこうして楽しいもの...

 永遠の美貌とこの能力とグラドの元でね...


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 話し終えると愕然とした表情の俺を見て満足しているようだった


「じゃあ...ヴァイパストが名前を思い出せないのは転生の衝撃なんかじゃないのか...?」


「もちろん、転生の衝撃で少しの記憶が飛ぶことは本当だけれどだんだんと回復するものよ」


 本当に俺の父親だった

 それ以外は何も考えられなかった

 しかし、何も思い出せなかった

 この女性に産み落とされ、育てられた記憶が


「ふざけんな...そんなことが通用するかよ!」


「さぁ...長話もこれで終わりね、貴方の魂を刈り取らせてもらうわ」


 鞘から剣を取り出し構える

 あの鎌の能力がどれほどまでに強力かは分からない

 この鎧すらも貫通しては元も子もない

 ただ戦うことだけは本能が最大警戒信号を発して食い止めようとしている

 考える事はここから逃げること

 フィレムも連れて


「やられてたまるかよ...」


「2度目は聞き飽きるわ」


 そう言い放つと鎌を振り上げ臨戦態勢をとる


「見切れ...奴の動きを...」


 息を殺し目を見張る

 するとどこかで聞き覚えのある声が聞こえた


「カオル姉、そこまでにしとけ」


「あら、レジアム、貴方も来たの?」


 そう、ヴァイヘリスで出会った獣人

 レジアムだった


「ボスに言われてな、お前はやりかねねぇってよ」


「フフ、さすが...」


「案の定だったな...」


「何の話だ...?」


「詳しい事は言わねぇよ、まだお前もひよっこで俺の障害になりそうにねぇしな」


「フフ...ここまでみたいね、さようなら響」


 言い終わると同時に2人は闇夜に消えた

 というより夜に切り替わったはずの森は

 再び太陽の光が差し込み、静寂につつまれた


「フィレム!」


 地面に膝をついて身体を抱きかかえる

 しかし、そこには心臓の鼓動だけが聞こえ

 決して目を開ける気配の無い抜け殻のような妖精だった


「どうして...俺なんかのために...」


 すっかり路頭に迷ってしまった

 異世界が転生してきて、混乱せずに前に進めたのはこの子のおかげなのに...

 様々な疑問が混在し絡まり合っている今、頼れるのはこの子しかいなかったのに...

 世の理不尽を恨んだ

 異世界でも理不尽なものは受け入れるしかないのだと現実を突きつけられた

 自分の無力さを思い知った

 これからどこに向かえばいいのか分からなくなったとき

 ふと思い出した



「老師の手紙...!」

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