第8話 闇に生きるモノ
「ハァ...ハァ...どこだ!」
あの声の正体が聞きたくて
どうしても確かめたくて
フィレムが声を掛ける間もなく
へカリテの目の前の森へと飛び込んでしまった
しかし、気づくと既に来た道すら分からないような状態
「やめて!放して!」
すぐ近くからそう聞こえた瞬間
身体が再び動き出す
「そこか!!」
茂みをかき分けながら進み
遂に声の発信源を見つけた
そこには少し小さな背丈で、髭を長く伸ばした男が1人の華奢な女性の腕を掴み、もう片方の手には大きな棍棒を握りしめていた
「この小娘!我が小人族の領地に踏み入るとは!」
「てめぇ!何があったか知らねぇが女性を傷つけるのは男としてどうなんだ!」
「何モンだぁ!?てめぇは!」
「あなたは!?」
目をかっ開き鋭い眼光でこちらを睨みつける男
涙ぐみながら希望の光が差し込んだかの様な表情と驚きの感情が入り交じったかのような顔をする女性
「その
鞘から剣を抜き、素早く切りかかる
しかしそれは棍棒で軽々と防がれてしまう
「命がおしくねぇのか!」
「うるせぇ!早く逃げるんだ!」
そう言われるがままにその
「お前から殺さねぇとならないようだな...」
男は落ち着きを取り戻し、声を発すると同時に思い切り棍棒を薙ぎ払うように振り回す
しかし、その攻撃は再び液状化した防具によって防がれる
「やっぱりコイツ、俺が見切れるくらいのスピードの攻撃なら勝手に食い止めるのか...」
自分でもその性能に驚く
「一丁前に装備だけはいいモン使ってるようだな!!」
そう言いながら棍棒を腹へとかまされる
そのまま吹っ飛び、背中から近くの樹へと全身を打ち付ける
「うっ...いっ...た...くねぇ!?」
装備の力を信じきれていなかったせいか心の底から驚きが湧き出てくる
「お前...素質はあるみてぇだな...」
「ぐっ...体が...重い...」
「しかしやはりその剣の腕、装備の重さにも耐えられんようなクソガキだとはな...」
「うっ...うるせぇええええ!」
声を張り上げながらがむしゃらに剣を振る
男は間合いを一定に保ちながら後ろへじりじりと引き下がる
「そんなんじゃ一生かかっても当たらねぇぞ!」
「なんなんだよ!この剣の能力って!」
そう叫びながら男の胸元をかすめそうになった
鍔の部分に埋め込まれたゼナイト石から溢れるように大量の水が湧き出てきた
その水は刃を包み、これまでの剣のサイズから刀身だけ2回りほど大きくなり
そのまま相手の腹の部分を切り裂いた
ほんの一瞬の出来事だった
「がぁっ!!」
「なっ...?」
自分でも何が起こったか理解が追いついていなかったが
男が血反吐を吐きながらその場に突っ伏しているのだけは分かった
「て...てんめぇ...」
致命傷では無かったようだがその傷はあきらかに軽いものではなかった
「これくらいにしといてやるよ...」
そう言いながら鞘へと収めようとすると剣は次第と元の大きさへと戻っていった
もしかしたら命を奪うということを甘く考えていたのかもしれない
ただのサラリーマンが突如としてこの男の命を奪うということを冷静になって考えてみたら
恐ろしいことなのかもしれない
そんなことを考えながらただ呆然と立ち尽くしていたら
いつの間にかその男はいなくなっていた
地面には這いずった跡に血が残っていたが
それを追うことも出来なかった
「だ...大丈夫ですか...?」
そう声を掛けてきたときに
ハッと思い出した
「き!君は!君の名前はケイネかい!?」
肩を強く掴み最大声量でそう問う
「ク...クロイス!?」
しかし、その女性は涙を浮かべそう聞き返してきた
そう...この女性がケイネだとしたら
クロイスと全く同じ顔の俺は勘違いされるに決まっていた
「いや、悪いが違うんだ...顔はめっちゃ似てるんだけどな...」
「そうですか...確かに彼の属性は炎ですしね...突然ごめんなさい...」
「それで、君の名前はケイネかい?」
「そうですけど、どうして知ってらっしゃるんですか?」
少し落ち着きを取り戻したかのように見えた
「まぁ、君の言っていたクロイスと関係があるんだけど、詳しい事はよく知らないんだ」
そう言って濁すことしか出来なかった
記憶が見えたとかそういう類いの事を話しても無意味だと思ったわけでは無い
彼女もこの転生に巻き込まれ、ましてや自分の連れ添いとバラバラになってしまった状態、混乱の頂点だと思ったからだ
「そうですか...何があったかは聞きませんが、とりあえずその傷をどうにかしないと...」
そう言われ、自分の体を見てみると
防具の隙間から血が滲み出てきていた
「どうして...戦っている時は全然痛くなかったのに...うっ...」
「彼ら小人族の特殊能力、
「
「ええ、彼らが攻撃するとそこから波のように衝撃が伝わりダメージを外から与えるだけでなく内側から与える感じです、貴方の装備は外からの圧にはとてもよく守る事は出来ているのですが、その液状化の装備能力のせいで余計に衝撃が伝わりやすくなってしまったみたいですね...」
「詳しいんだな...」
「ええ、小さい時から本が好きで屋敷の図書室にある本は大体読み尽くしちゃいましたから」
そう微笑む表情は安堵していた
そんな事を話しながら彼女は近くの草を摘み、すり潰し、簡単な塗り薬を作った
装備は俺が外そうとすると勝手に液状化し、目の前へ丁寧に元の形に戻って置かれた
傷の部分を見ると青黒い痣が腹の部分に広がっていた
そこに白い小さな手が薬を塗る
「手際がいいな、慣れてるのか?」
「彼はよく怪我をする人でしたから」
包帯を巻きながらそう言うケイネ
「クロイスか?」
「はい、剣が立つ人で、周りの人々からも慕われていて、とてもいい人でした」
「何か、転生する前に記憶がどうとかそういう話をしてなかったか」
「記憶...ですか...」
「例えば、他の人の記憶を見てるだとか、昔の事を思い出せないだとか」
「聞かないですね...けど、強いて言えば魔法が使いづらくなったとは言ってました」
「魔法か...あんま関係なさそうだな...」
「ごめんなさい...」
「いや、気にしないで、それよりも小人族ってのはここの森を拠点にしてるのか?」
「はい、彼らには見た目の特徴は低身長で筋肉が他の種族よりも発達している以外に目立ったものがありませんから
「この世界の能力調整は上手く出来てるよな」
「普段は、他の住人を襲うような方々では無いんですけどやはりこの転生騒動は様々な種族に混乱を与えているようですね...」
「そうだよな...ここまでの異常事態にはどの種族も対応しきれないか...」
そんな事を話しているうちにガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてきた
2人は目配せをし、静かに息を殺していた
「あ!やっと見つけましたよ!」
しかし、そこに現れたのは見慣れたピンク色の髪の妖精
「なんだ、フィレムか...」
ほっと胸をなで下ろす
「この子は...?」
不思議そうに聞くケイネ
「フィレム、妖精の女の子、俺の事を案内してくれてるんだ」
「案内って?」
「まぁ、色々あってな...」
「どうしてあんな勝手な行動とったんですか!」
俺が語尾を濁そうとした時に
フィレムが食らいつくように聞いてきた
「悪かったって...」
「その傷...!」
「気にすんなって、大したことないから」
「無茶だけは...しないでくださいね...」
「ああ、大丈夫だ」
「そういえば、貴方お名前は?」
「私はケイネ、響さんには襲われてるところを助けて頂いて...」
「え?」
「どうしました?響さん」
なんだこの違和感
ここまでの一連の流れの中で
この『響さん』という発言に対する違和感はなんなんだ?
「お前...ケイネじゃないな?」
「どうしてそんなことおっしゃるんですか?」
「俺の名前は?」
「日宮響さんじゃないのですか?」
「何故知っている?」
一連の違和感
それは、教えたはずのない名前をケイネが知っていること
「あら...そういえば...フフ...フフフ...」
その表情は優しいものから一転
暗闇を帯びた狂気の笑みへと変わり
すっかり別人へとなっていた
「やっぱり!」
そう確信した瞬間あたりは突然夜へと切り替わる
「ハァ...バレちゃしょうがないわね...」
それは予想外の出来事を楽しんでるようだった
「響さん!ここは危険です!」
フィレムがそう叫ぶ声も少しずつ遠ざかっていくように感じた
しかし身体を装備が覆っていく
戦えという暗示なのか本能なのか分からなかった
「一体何が起きてやがる!?」
「理解に苦しむのも分かるわ...私も大変だったもの...」
そう言いながら月明かりに照らされた彼女は
美しい大鎌を取り出した
「このままじゃ、殺られる...!」
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