自分ならこう書く

 先の誤植の指摘に通じるのですが、


 他者の物語を読んでいて、自分だったらこう書くな。自分だったらこう表現するな、と思う事は多々あります。


 そういう考察は自身のスキルの向上にも良いので積極的にやるべきだと思いますが、それを誤用のように指摘してしまうとやり過ぎになるのでしょう。


 気持ちはすごくよく分かるのですが、やはりやるべきではない。



 特に句読点の打ち方が違うともどかしい事もある。


 それでも書く側にはこだわりがあるものです。

(私も修羅の門の川原さんの点の打ち方はすげー気になる)



 意味が通じないのは別です。


 意味が通じなければ「こういう意味でしょうか」と解釈の例として提示するのはアリでしょう。


 それは誤植誤用と同じ、作者としては参考になるものです。



 どんな作者も一人でも多くの人に受け入れてもらいたいと思っているでしょうからね。




 そして設定や世界観に対しても同じ。


 特にSFに多い。


 自分ならこうはしない。こう解釈しない。この設定は無理がある。


 これは書く人に限らず読み専でもそう思う事はあります。


 それらを自分のフィールドで語るのも言論の自由です。


 ましてや相手が「どんな意見でもOK」と了承しているなら何の問題もありません。


 私も相手が望むのならやりますし、何よりそういった意見がある事を知るのは作者にとっても有益です。


 どんなに偏った意見であろうと、現実そう評する人がいる事は事実なわけですから。


 公募やコンテストで下読み、審査員が同じ感性でないという保証はどこにもない。


 たまたま同じような物の見方をする人に当たる可能性は十分にあるのです。


 むしろそれが事前に分かるのなら有益でしょう。



 しかしその感想が、世間一般的な水準と比べてダメな物であるかのように評してしまうとどうか。



 それが良いか悪いかはさておいて、過去にSFの市場で同じような事がありました。


 SF小説に対して、SFファンが「SFになっていない」と徒党を組んでこき下ろしたのですね。



 結果誰も書かなくなってSFは廃れたと言われています。


 実際私も書いた事はありますが、大体そんな感じでしたね。



 少し例を挙げてみます。


 1.

 その世界は避難宇宙船の中で、人間も進化、遺伝子操作で実質不老。


 なので一日の概念も公転周期も何もないので、コンピュータのシステムに完全に合わせた時間で動いているんですね。


 その時間、いわゆる一秒に相当する時間を説明するなら、人間の脈拍一回分に近い、と入れた所、


「なぜ脈拍に合わせたのでしょうか?」


 で始まり、一秒の起源を語り出した。


 独自の時間概念を説明するのに読み手にも分かる表現として、一番近い例を挙げたのが脈拍です。


 脈拍に合わせたとはどこにも書いてない。


 その描写は、地球の常識が失われているというのを暗に伝えているものです。



 2.

 その世界ではマザーコンピューターが全てを制御していて、それにアクセスする為の端末が所々にある。


 そしてその端末からシステムに呼びかけてシステムを凍結するシーンがあるのですが、


「そんな権限をもったものがたくさんあるわけがない」


 いわばショッカーの末端がみんな権限持っているようなもん例を挙げていたのですが、


 いや端末が権限持っているわけじゃない。端末は接続しているだけ。


 アクセスしているのは王女なんだから。権限あるでしょ。




 などなど、まあ愚痴みたいなもんですけど。


 そんな感じで、決まりきった設定持って来ても代わり映えしないと言われ、新しいものを入れると叩かれる。


 SFはファンによって作られているというのを作者は知るべきだ、という市場を作り上げたのですが、案の定誰も書かなくなってしまった。


 これは僕の意見ではなく小説界で言われている事です。


 彼等は自然淘汰出来たとドヤ顔なんでしょうけれど、どんな作品にもファンはいる。


 好きな作品が読めなくなった人達はどうなるのか。



 自分の好きなジャンルが汚されて水準が落ちるのを阻止したい気持ちも分からないでもないですが、他の人のささやかな楽しみを奪う権利まではないでしょう。



 本当に「こうした方が良くなる」と思うのならば自分で書けばいい。


 書いて証明すればいい。


 という私もそれで執筆したのが「ハイブリッド・エンジェル」なのです。


 証明になったかどうかは分かりませんけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る