ADVにマップボタン

 アドベンチャーゲームのプロジェクトのお話。


 はっきり言って、


 ゲーム製作の経験のない、現場に居合わせた事があるだけの人達が、自分にもできると粋がって始めたプロジェクトです。


 偉い人が直接関わっているんですね。


 結果から言うなら8000本売れてからやっと利益になる企画で、初回1000。リピート無し。大赤字です。


 内容は見るからにひどい。アンケート葉書の批評も散々でした。


 そのプログラムを担当したのですが、元々他社に出していたものが頓挫してこちらにお鉢が回ってきたものです。


 既にスケジュールは割れていて、ただ完成させるだけでも大変なくらいです。


 悪いけど内容にまで手を貸してあげられる余裕はない。


 なにより内容に関して忠言しても聞きはしないのでね。


 しかし仕様上あきらかにおかしいものは、そもそも成立しないので提言しないわけにいかない。


 だが彼らは、「内容に対して口を出しているのか」「破綻している仕様を指摘しているのか」を区別する事は出来ないのです。



 そのうちの一つ。


 画面の上部にボタンがあるのですね。


 両隅に2つのアイコンが置かれていて、ボタンになっていると言います。


 それぞれシステムボタンとマップボタン。


 そして仕様によるとマウスカーソルを最上部に持ってくると上からシステムバーが降りてくるそうです(windowsのタイトルなので)。


 そこでシステム的な操作をする。


 それが仕様で指定されているのですが、まず単純な疑問が、なぜシステムに関する操作が2通りあるのか。


 システムボタン一つにまとめては何か不都合が?


 と確認すると特に理由はないそうです。


 スケジュールは既に破綻していて少しでも時間が惜しい。


 無駄な実装をしている時間は無いはずなのだが、なんか仕様を変えられるのが気に入らないらしい。


 ゴネるので次の疑問。


 カーソルを上部に近づけるとバーが降りてくる仕様だが、そこにはシステムボタンがある。


 バーが降りてきてボタンが半分隠れる。押せない事もないが押しにくい。


 このフラストレーションの溜まる仕様はいかがなものか、と突きつけてようやく直し始める。



 機能は全てシステムにまとめ。これで一つは解決。


 次はマップボタン。


 押すとマップが開いて任意の部屋へ移動できる。


 アドベンチャーゲームでは珍しい仕様ではないですが、これはノベルです。


 文章が流れ、特定の場所で選択肢が出て、選択するとシナリオが進む。


 このノベルとマップシステムのコラボレーション。


 もちろん不可能ではないです。


 どのように二つのシステムを両立させるのかの仕様が必要です。


 マップは別荘の見取り図で、各部屋に移動できると言うのですが、「部屋を選んだら移動できる」しか説明が無い。


 部屋ごとのシナリオがあるわけでもなく、時間軸の概念もない。


 これが動作しない物だというのが説明しても分からない。


「いや、そんな事はないと思う。マップボタンはあっていい」


 みんなで別荘に行ってなんやかややる話ですよね?


 スタート時は別荘の外で、まだ中を知らないですよね?


 そこでマップボタン押して移動したらどうなるんですか?


 話はどこへ飛んでしまうんですか?


「最初は押せない、という事ではダメですか?」


 それはつまりシナリオに「ここから押せて、ここから押せなくなる」という範囲が指定してあるわけですね?


「いや、そんなものはない」


 ではどうやって押せる場面を判定すればよいのですか?


「シナリオを読んで判断してほしい」


 そんな事できるか。


 読んで判断出来る物ならまだよいが、そもそもちゃんと仕様にできていないという事は破たんしている場合がほとんどなんですね。


 読んでから「これ無理でしょ」となるのがオチです。


 実際マップで移動できるシーンはほんの一部。一回だけです。割合で言えば、全体の1%。


 そのシーンの為だけにずーっと上に押せないボタンがある事になります。


 押せるようになった所で、どうやって押せるようになった事をユーザーに伝えるつもりなのか。


 グレーアウトの仕様も素材もないです。


 しかも選択肢でも移動は可能だと言う。


 たぶんまずユーザーはボタンの意味を最後まで理解できない。押す事はないでしょう。


 結局このボタンなんだったんだ? となるだけです。


 なら部屋移動の選択肢になった時にそのままマップ画面に推移すればいい。それで何も問題ない。


 改善案を示すと、


「上のボタンが(S)(M)になっているのを外したくない」(エロゲーだったのです)


 ふざけてんのか?


 さすがにそのボタンは別の物に置き換える事で手を打つ、がその話をしている時間も無駄です。


 つづく

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