用語統一のワナ

 用語統一する事は重要なのですが、


 以前現場を変わった時に、全くなっていなかった現場だった事がありました。


 これはいかん、確実に炎上するパターンだな――と思い、


 まず用語統一表と素材リストを作成しました。


 用語は誰か一人で決めるものではない、混乱の無いよう、皆が間違えにくい、中間の用語で統一する。


 という趣旨の元リストを作成。


 「特に希望はないんでそれでいいです」「うん、これはいい」と通る。


 素材リストでどんな素材が予定されていて、それが今「原画」「着色」「確認」などどの段階にあるのかを分かりやすくする。



 そして作業も中盤。


 未納入の素材に「まだ来てないですよ。どうなってますか?」と質問。


 セリフの横に出すフェイス画像が主人公以外1つも上がっていない。


 すると、


「フェイスは主人公のしかないです。他のキャラのフェイスは、ここ(バストショットの顔部分)にはまる顔の事です」


 用語統一表を取り出し、


 このプロジェクトで「フェイス」と言ったらメッセージウィンドウの横に出るこの画像の事です。バストショットにはまる顔は「顔パーツ」。


 他の会社、他のプロジェクトでどう呼んでいるかは関係なく、このプロジェクトで「フェイス」と言ったらこれで、これは僕が勝手に決めたのではなく、皆の総意で決めたもの。


 そして素材リストに各キャラの「顔パーツ」は順調に上がっている事がチェックされています。フェイスは未記入状態になっている事を、あなたは毎朝確認していたはず。


 それに合わせてシステムは製作されていて、今素材待ちの状態です。


 仕様変更があったという話は出ていない。これはどういう事でしょうか?



 翌日「ディレクターは退職されました」と通達。



 いやいやいやいやいや。


 何も僕はクビを締めたくてやってるんじゃない。


 適当に進めると破綻し、結果クオリティの低い物が世に出てしまう。それを防ぎたいだけなのね。



 結局より現場が滅茶苦茶になって破綻。


 それでも雑誌紹介で好評化を頂く所までこぎつけたが代償は大きい。


 現場はとにかくこのていたらくの責任を誰かに押し付けようという事にしか注力しない。


 作品クオリティを維持するには自分身を守る事を切り捨てざるを得なかった。



 まあそういう人間はそれ相応の末路を辿るのは必然なのですが、それもすぐではないので、その間がつらいのもまた事実なんですよね。



 結局高度な手法も。現場とのレベル差がありすぎると運用できない。


 しかし高度な手法っつっても、別に僕は誰かから教えられたわけでもない。仕事していれば普通に身に着く程度のものを「彼らに理解できるのか」と検証する方法も思いつかない。



 まあ結論から言うと、彼らは別にレベルが低いのではなく、彼らが仕事をしていく上で身につけていった手法だったのですね。


 要は分からない事、決められない事は、適当に進め、困った事になったら「それは見解の相違です」「うまく伝わっていなかった」と言えば済む、という事を学んでいったのですね。


 そしてそれを教えられ、実施していただけなのです。


 最強のカード、『見解の相違』を出せば全てOK。それで仕事ができる、と今までやってきたのです。


 「用語統一します」「はい、いいです」


 「作業リスト作ります」「はい、いいです」


 よく分からずに進めているから、『見解の相違』を完全に封じるためのものだと言う事に思い至らなかったのですね。


 最強のジョーカーだと思っていた物が、土壇場で通じない事に気が付き、どうする事も出来ずに逃げ出した。



 それが分からなかった時点でレベルが低いと言えるのですが、とても大人のする事ではない。

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