無責任な後押し

 生きていれば誰にでも嫌な奴の一人や二人思い当たると思います。


 僕の場合は先輩で、やたら無茶を強要したり、無理矢理物を買わせたり、暴力なんてのもしばしば。


 まあこの時代の風習からすればそれほど珍しい光景ではない。


 体育会系の部活のシゴキはもっと辛いでしょう。


 しかし当人にとっては深刻。


 何かあればすぐに自分の都合で呼び出しをかける。


 今思えばまるでストーカーですが、世話になっている先輩にも違いないので無下にもできない。


 学校ではなくても頻繁に顔を合わせるのでね。


 行かなきゃいい、というわけにもいかない。


 具体的な被害を紹介するなら、


 テレビを買って僕に運ばせ、道中に壊したら弁償。


 小遣いが少ないのであまり物を買わないが、金を溜め込んでいると思ってやたら金を使う事を強要する。

 後で「前に使ったから無い」となっても「強要してない。お前が勝手に買ったんだから知らん」


 さすがに金をせびる事はないがほぼほぼそれに近い事はある。


 何の為に生きてるんだ? コイツは。


 と思う事など日常。


 その頃、僕は高校卒業の時期になり、進路を決める事に。


 その先輩は一年先に専門学校へ行っていた。


 元々同じ趣味なので、ゲーム業界に通じる学校(この時代なので英会話教室やジムとあまり変わらない)。


 当時としては最もゲーム業界に近い進路でもあったので僕も興味はあった。


 先輩は当然僕もそこに行くと思っていたようで、就職すると漏らしたらさあ大変。


 そもそもソイツと同じ学校になど通いたくないのが本音。


 行きたいと言った事くらいあったかもしれないが、何で僕の進路を他人にとやかく言われなくてはならないんだ。


 そんな理屈が通用する相手ではないので、ただでさえ進路決めで大変な時に悩みが増える。


 まあ、なんやかやあるものの、結局はゲーム会社を受けるのだから一足先になるだけだと何とか収まりがつき。


 学校その他に希望を伝え本格始動。


 しかしまあ世間の風当たりの強い事強い事。


 ゲーム会社など完全に風来坊。先行きが保証されない。


 まるで万引きをした生徒のように説教される毎日。


 意見としてありがたく聞いておくけど自分の道は自分で決めると普段からのたまい、親や先生にも頑固だと言わしめる僕も、さすがに折れそうになった。


 なぜなら彼らが言っている事は正論だから。


 本当に僕の将来を案じ、そして本当の事を言っている。


 それも分かっている。


 将来性や保証を考えれば妥当な道を選ぶ方がよいのだろう。


 僕の進む道は奇跡頼り。かめはめ波はきっと撃てるようになると信じて戦場へ向かう子供も同じ。


 まあ今ならこれだけの奇跡を起こして来た、と実績を示す事もできますが、当時は証明する事も、本当言えば僕自身、自分がそれだけの器である事を実証しているわけでもない。


 実感しているだけ。それが事実である事を保証するものは何もない。気のせいかもしれない。もしかしたら本当に子供の絵空事である可能性もある。


 しかもその事実を理知的に解釈できるだけの能力もあるわけです。



 やはり普通の企業に就職するべきか。趣味でゲームを作る事もできるのだし。


 それを先輩に漏らすと。


「なんやお前。ゲーム会社に行く言うたんちゃうんか」


 いつもの無責任発言。


 僕の為に言っているのではない。


 自分の気分の為に言っているだけ。


 その後僕がどんな運命を辿ろうと知った事ではない。



 ただ一つ確実に言える事は、その時のその一言がなければ、僕は今ここにいない。


 おそらくは大人達の圧力に僕の心は折れていた。


 ポケモンも、モンハンも、この世に存在しなかったかもしれないのです。


 ……それは言い過ぎました。それらは僕がいなくても生まれていました。


 しかし、いくつかのゲームは本当に頓挫していました。



 ああ。アイツはその為に生きていたのか。



 まあ感謝をするとまではいかなくても、今でも反面教師として僕の姿勢や働き方に大きく影響している事は間違いない(ちなみにその先輩も当初ゲーム系に行きたい希望でしたが結局うやむや)。


 世の中因果というか、何がどう巡って何に影響しているか分からないものです。


 この世に、存在しなくていい物など一つも存在しない。

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