エピソード05 ー脅威の病ー

 騒動はおさまりをみせた。しかし父さんは俺を責めるかのように、リビング中に、響き渡るかのような怒鳴り声をあげてきた。

「勝也、なぜおまえや母さんがリオン患者になっているんだ? それにジョアンナちゃんたちまでもが!」

「それは――その……」

 俺は口ごもって何も言えなかったが、横からジョアンナさんが、代弁をしてくれた。

「それは、リオン細胞が覚醒したからです。話せば長くなるんですが……」

 ジョアンナさんはだいたいのいきさつを説明する。

「つまり、そのリオン細胞って言うのが勝也や母さんにあって怪物のような姿になってしまったんだな、笑えない話だ」

「父さん、ごめん。今まで黙って、俺、怖かったんだ」

「いいんだ、父さんもそうなっていたら怖かったと思う。勝也、どうか母さんたちや他の患者たちを救ってやってくれ」

「わかったよ」


 ジョアンナさんのスマホの着信音が鳴ったのはその時だった。

「もしもし、大八木さんどうしたんですか?」

「今、そっちに藤刑事が向かっているわ。事情は藤さんに聞いてきて」

 俺とジョアンナさんが顔を見合わせる中、マリアーナちゃんが透視をしはじめた。

「赤い瞳の少年が、ママを搬送している護送車を襲っているわ」

「なんだって!」

 俺たちは慌てて玄関を飛び出した。その時一台のパトカーが門前で止まった。藤さんが迎えに来てくれた。

「三人とも乗るんだ」

「赤い瞳の少年が現れたのね?」

 ジョアンナさんが前のめりになり藤さんにきく。

「ああ、三年前、ローマで起きたリオン患者テロの主犯格だ」

「でもなぜ日本にいるんだ?」

 俺がそう質問すると、藤さんが答えた。

「どうやら誰かの手引きで日本に逃亡してきたらしい。あいつは本物の化け物だ、人間じゃない」

「どういうこと?」

「行けばわかる」

 そんな会話をしながら十分くらいで現場に着いた。


 現場に着いた俺たちは唖然とする。まるでトルネードが通り過ぎたかのように、辺りは荒れていた。看板は倒れ、車は横転し、家屋は半壊していた。

 現場にいた警察官たちは、無数の切り傷があった。

「これはいったい?」

「フフフ。やあ同志たち」

 俺は知っている何度も夢でみた赤い瞳の少年だ。

「ドッピョヴ・リカントロポ・リアン、よくもあたしたちのお母さんを!」

 怒りをあらわにしてジョアンナさんは、薔薇をイメージさせる姿に変身して攻撃をしかける。

「フフフ、君の能力は記憶を消すこと。肉弾戦では僕にはかなわないよ? イプスィロン・ローザ・リアン」

 ジョアンナさんに続き、俺たちもそれぞれリアンに、変身して応戦する。

「フフフ、それが君のリアンとしての姿なんだね? 伊集院勝也」

「なぜ、俺の名前を知っているんだ?」

 俺は鋭い爪で攻撃をしながらきく。

「夢の中であっていたじゃないか、何度も。フフフ」

「気をつけて。ドッピョヴ・リカントロボ・リアンはすごく凶悪なの」

 マリアーナちゃんは空から応戦する。

「君たちじゃあ、僕には勝ってこないよ。フフフ」

 そういうと赤い瞳の少年は、狼男のような姿になり、強風を起こした。俺たちはその風に切り刻まれながら、吹っ飛んだ。


 俺の腕からは血が流れていた。その血はまるで、パチンコ玉のように、かたまって下に落ちていく。

 俺はとっさに血のパチンコ玉を弾丸みたいに、赤い瞳の少年にめがけ撃ち込んだ。それは少年の右肩にヒットた。

「痛いな、何をするんだ。フフフ、面白い能力だね。血液を銃弾のように撃ち込めるのか。ぜひ、『素晴らしきリアンの会』に加入してほしい、君がその気なら幹部にでもしよう。日本を――いや、世界中を、僕たちリアンだらけにして、新世界を作り上げるんだ。そのためには普通の人間なんか不要なんだ」

 まるでボルテージがあがったみたいに、少年は不気味な笑みを浮かべて、かんだかい声をだし、両手を広げ空を仰いだ。

「ふざけるな!」

 ジョアンナさんは傷だらけにもかかわらず、少年に突進していった。

「おっと、もう君はようなしだよ。僕に従わないリアンも不要な存在だ」

 少年は後ろ蹴りをすると、ゆっくりジョアンナの方を振り向き、腹を殴って、うずくまった彼女の顔を踏みつけた。

「やめろ……リオン――やめてくれ、もうこれ以上、人を傷つけるのはやめてくれ」

「うるさい。僕に指図するな。やっぱりおまえも死ね」

 またもや強風を起こして辺りを吹き飛ばした。

 少年はじりじりと近寄ってきて、少年の鋭い爪が俺をめがけて、突き刺さるところへ、護送車の天井を破り、チ・ペガゾ・リオンが空中から飛んできて、その攻撃を体で受け止めた。

「母さん――なぜ?」

「親が子供を守るのは当然でしょう。勝也……母さんが死んでも、怨んでリオン患者を殺してはダメよ。彼らはあくまでも、なんだから」

 母さんはどこまでも優しかった。リオン患者ははあくまでも病人であって、怪物じゃない。そのことを、俺もおろか、ジョアンナさんたちも忘れてしまっていた。

「ママさん、そんな」

「ママ、ママ!」

 ジョアンナさんとマリアーナちゃんもそばにかけつけて、母さんを心配そうに見守っていた。母さんは人間の姿に戻っていた。

「勝也……さようなら」

 母さんはそういうとそっと目を閉じた。

「あーあ、つまんない。もう僕、行くよ。じゃあまたね。その時は、素晴らしきリアンの会に入ることを決めといてね。伊集院勝也」

「待て!」

「勝也、ダメ。あの子を憎まないで。あの子はリオン病のせいで酷い仕打ちをされてきたの、それこそ殺されかけたっていってたわ――私にそう言ってきたの。それに勝也まで復讐の念に駆られたらあの子みたいになっちゃうわ」

 苦痛に耐えながらも言葉を続ける母さん。そこへ救急車がかけつけて、母さんは手当され、リオン撲滅組織日本支部の本部へと連れていかれた。

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覚醒変身リアン -覚醒する病- 伊藤正博(イトウマサヒロ) @ifuji-masa-0

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