エピソード04 ー愛する人の発症ー

 三日後の朝だった。それは突如として始まった。

「キャー!」と、母さんの悲鳴が洗面所に響く。何事かと思い俺と父さんが洗面所に行き、その姿を見て父さんは驚愕し、

「その姿はリオン患者、なのか?」

 父さんは腰を抜かした。そして言葉を続ける、

「なんでだ! なんで母さんがリオン患者に?」

 あきらかに気が動転している様子だった。


 そこにジョアンナさんとマリアーナちゃんがかけつけて、母さんの姿をみて二人も動揺を隠せないでいた。

「オーマイゴッド! やっぱりママさんまでもが、リオンになってしまったのね」

「やっぱりってなんだよ!?」

 俺は思わずジョアンナさんの胸ぐらを掴んでいた。

「冷静になってお兄ちゃん」

 マリアーナちゃんが俺を止めにはいる。

「リオン細胞は遺伝するの。そしていつ発症するかわからないの。発症しないで潜在的にリオン細胞を持った人もいるけど、家族の一人が発症するとパンデミックを起こしたように発症する場合があるわ」

「俺が発症したために、母さんまでもが……」

 俺は愕然としてその場にひざをついた。だが悲しむ時間はなかった。


 母さんは暴走を始めた。もう暴れまわるだけのモンスターになってしまった。動くものを標的として、父さんに襲いかかった。

「危ない」

 俺はビ・レオーネ・リアンに変身してその拳を受け止めた。

「勝也まで、どうして?」

「父さんごめん、母さんは俺が全力で止めるよ。警察を呼んでくれ」

「ああ、わかった」

 洗面所から母さんを家の外へと誘導るようにした。母さんの姿はまるでペガサスのようだった。二足歩行で馬の顔をして、背中には翼があった。

 庭に出ると母さんは空中に浮かび、襲いかかってくる。

「くっ、空を飛ばれては攻撃のしようがない」

「お兄ちゃん私に任せて」

 マリアーナちゃんは、ゼータ・チーニョ・リアンに変身し、空中戦に持ち込む。しかし、ペガサスの姿になった母さんの方が強いらしく、マリアーナちゃんは苦戦を強いられた。しまいには地面に叩き落とされた。

「ゼータ・チーニョ・リオンの能力では勝ち目がない。ビ・レオーネ・リアン、あなたには能力ないの?」

「能力ってなんだよ?」

「例えば、あたしのイプスィロン・ローザ・リアンなら薔薇の香りで人の記憶を消す能力があるんだけど――ないなら肉弾戦に持ちこむしかないようね」

「ゼータ・チーニョ・リアンの能力はなんなの?」

「あの子の能力は透視なの。戦闘向きの能力じゃないわ」

「前に神経衰弱をやって連勝したのはその能力のおかげなのか」

「そういうことよ」

「俺の能力は――ええい、考えても仕方がない。ゼータ・チーニョ・リアン飛べるか?」

「なんとか……。どうするの?」

「出来るだけあいつを低空まで引きつけてくれ。そしたら俺が鋭い爪で胴体を攻撃して、動きを止める」

「了解」

 マリアーナちゃんは空中に飛びあがり、母さんの注意を引き地面すれすれの低空に持ち込んだ。すかさず俺は鋭い爪で、母さんの胴体を攻撃しようとしたができなかった。

「ビ・レオーネ・リアン何やってるの?」

 ジョアンナさんの怒声が響き渡る。

「ごめん――やっぱできるもんじゃない。家族を攻撃するなんて」

 俺が葛藤している間に、パトカーのサイレンが鳴り響き、藤さんと大八木さん、それと数人の警察官が駆け付けた。


 そしてマリアーナちゃんが、母さんの後ろに素早く回り込み、空中で羽交い絞めにして動きを封じる。

「撃てー!」

 藤さんの合図で一人の警察官が麻酔銃を母さんをめがけて撃ちはなった。母さんはそのまま動かなくなった。発砲音をきいて野次馬たちが集まってきた。

 ジョアンナさんが、イプスィロン・ローザ・リアンに変身して薔薇の香りをあたりにただよし、父さん以外の人たちの記憶を消す。

 俺たちは戦いを終えて、母さんの身柄はリオン撲滅組織日本支部へと身柄を拘束されていった。

「大変だったわね」

 大八木さんが白衣をビシっと伸ばして、声を掛けてきた。

「大八木先生、特効薬は本当に開発が進んでいるんですか?」

「進んでいるわよ。でも長引きそうね」

「リオンになった母さんは普通の人間に戻りますか?」

「保証はできないわ」

 大八木さんはツンとした態度でそう答えた。その態度に俺は手をあげそうになったが、藤さんが俺の腕を掴んできて制止する。

「いかんよ、伊集院君。君の気持ちはわかるけど感情的になっては、な?」

「クソッ!」

 俺はやるせない気持ちをまた壁にぶつけた。まさか愛する家族がリオンになってしまうなんて思わなかった。


 大八木さんはタンカーに、縛り付けられた母さんを見ながら、

「今から、チ・ペガゾ・リオンの患者を搬送します。」と本部に連絡していた。

 今回のリオン騒動は後味が悪い結果で幕を閉じた。

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