第10.5話 彼女達はどこにでもいる
「な~にじっと見てるのぉ?」
ふわりと鼻腔を撫でる甘い香り。
ぷにゅぅと背中に押し当てられるやわらかい感触。
それらを感じながら少女、サーニャはどこか重い空気を纏い遠ざかっていく里織の後ろ姿を眺めながら素っ気なく返答する。
「ニャ~。たいしたことじゃないニャ。ただ、また一人生け贄が追加されたのか~、と。そう思っただけニャ」
「え? 生け贄? なにそれ」
「そうでなかったら哀れな子羊ニャね。ニャぅニャぅ」
「もぉ。サーニャってばまたそういうこと言う~。ボクはただ愛し合える仲間を増やしてるだけで、それ以上のことは仲間にはしてないのにさぁ」
そんな酷いことを言う娘にはお仕置きだ、と引っ張られる両頬。
サーニャはじゃれついてくる深藍を無視して視線を巡らせる。
(ニャぅニャぅ。にしても、いつ見ても不気味な光景ニャね。同一人物が一ヶ所に大量にいる光景は何度見ても慣れないのニャ)
ざっと見ただけでも10人以上。
服装・髪型・年齢は疎らではあるものの、それでもそれだけの数の同一人物が一ヶ所に存在する状況というのはやはり慣れるものではない。
「そう? ボクは子供の頃からそうだったから慣れちゃってるけどな」
「ニャぅ。サらっと心を読むの止めて欲しいニャ」
「そればっかりは無理やと思うで。サーニャもわかっとるやろ? 深藍にとって心を読むことは数少ない引けない点だってことは」
答えたのは今の今までいなかった、自分に抱きついている深藍とは別の、洋服と和服が融合したかのような服を着用する深藍と共に忽然と現れた後頭部から一房の尻尾を垂らす黒髪の女性、クレア。
「ニャぅ。確かにそうニャけど、やっぱり常に思考が見透かサれてるのは慣れないのニャ。……ところで、もう文明を滅ぼすのはいいのかニャ?」
「せやね。今回はもう終わりや。というか、この頃昔ほど文明を滅ぼすことに快感を感じなくなってきててな。そろそろ卒業しようと思ってるんよ」
「そうなのかニャ? 文明に死を伝える暗黒の樹木と恐懼サれてたのが嘘みたいニャ変わりようニャね。変われば変わるものニャ」
感慨深そうに沁々と呟くサーニャ。
一方クレアはばつが悪そうに頭を掻きながらぼやく。
「いや~。ほんま、自分でもそう思うわ。まさかウチがここまで丸くなるとはなぁ。あの頃のウチが見たら眼を疑うこと間違いなしや」
「ふ~ん。で、この後はどうするニャ? この国に滞在するのかニャ?」
「せやね。そうするつもりや。で、よければなんやけど、今日はサーニャのところに置いてもらえんかな? 皆のところを転々としようと思うんや」
「ニャぅ。一々聞かなくてもいいに決まってるニャ。ニャぅ達の間に遠慮なんてものは無用ニャ。好き勝手出入りすればいいのニャ」
「そうなんやけどな。ま、一応礼儀として聞いたんよ。で、この後はどうするん? ウチらは少しぶらぶらしようと思うんやけど」
「ん~。そうニャね……ニャ。ニャぅ達は一足先に戻ることにするニャ」
「了解。ほなまた後で」
別れの挨拶を告げるな否やクレアの姿は深藍共々消え失せる。
「それじゃ、ニャぅ達は帰るとするかニャ」
「そうだね」
そしてサーニャ達もまた、クレア達同様何の呼び動作もなく忽然と消え失せるのだった。
ヒキコモリの異世界成長記 鬼怒川鬼々 @yulily
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