ありさとコバヤシ

 動作確認に『マウンテンチャレンジ』で遊んでみる、うん、バネの調子も良い、さすがはバアちゃんの調整だ。つづいて『ファイティングストーリー』を起動、基盤と出力の相性が悪くて苦労したけれど、今では鮮明な映像だと太鼓判をおせる。

 やはりゲームはいい、筐体に描かれたイラスト、一粒のドットからでも無限の世界が広がる、人の想像力で遊ぶことができるんだ。


 最終確認をおこなっている最中に注文していた看板が届いた。


ゲームランド コバヤシ


 かつてゲームランド ワタナベだった部分に、新しい名が刻まれ、再びお客様を迎えることとなった。以前同じ場所で人々を楽しませたワタナベさんに敬意を表する意味で、ゲームランドというネーミングはそのまま継承することにした。

 店の前に立つと、いろいろな思い出がよみがえる。


 毎日部長に怒られながら、なけなしの給料と週末の時間をつぎ込み。

 ジャンク品の筐体を見つけては修理や部品取りに勤しみ。

 面白いゲームが出品されないか、ネットオークションに目を光らせ。

 聞いたことも無かった各種許可申請に毎日役所に通い。


 いろいろと苦労はあったけれど、なんとか開館にこぎつけることができた。


「シャシャシャ! 長生きはするモンじゃのう」


 バアちゃんは相変わらず元気だ。近所に住んでいるので、基本的には管理人として常駐することになる。生きがいができたと嬉しそうだったので、意外なところで祖母孝行ができたのかなと思う。


 僕は店長だ、ここは一応博物館なので館長を名乗るべきなのかもしれないけれど、ゲームランドとしては「店長」がふさわしいだろう。とはいえこんな小さな組織なので、来客対応から掃除まで全てを僕も担当することになる。でも僕には楽しみしかない、自分の好きなものを共有できる夢がかたちになったのだから。


「おぅ、ようやく来たみたいだぁな」


 バアちゃんが駐車場に入ってきた軽自動車を見て言った。

 コバヤシにはもう一人従業員がいる、はじめに会ったときと今では随分印象が変わったけれど、もともと真面目な性格なんだろう、しっかり働いてくれる頼もしい案内係だ。


 裏口にまわって出迎える、段差があるから気をつけるよう促すと、そんなことはわかっている、いつまでも昔のことを言うなと怒られた。




 さて、営業を始めよう、ゲームランド コバヤシ 本日オープンです。

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ありさ・イン・ゲームランド コバヤシ 岡井モノ @shoppingowl

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