第125話 竜を巡る多彩な思惑。俺が密かにナタリーを守ること。

 リーザロットが首を傾げ、オーナーに尋ねた。


「竜の飛ぶ姿をご覧になりたいとなりますと、トリスさんもご一緒に竜に乗られることになるのでしょうか? 地上からでは、あまり良く見えないでしょうし」


 俺はピンク色のジュースを飲み干し、彼女に同調してオーナーを見た。確かに、このオジサンが一緒に飛んでくるとなると、それはそれで問題である。

 オーナーは豪快に肉にかぶりつき、力強く咀嚼して飲み下した。


「まさか! いくら私でもそんな身の程知らずな真似はいたしませんよ。我々スレーンの民は竜と共力場を編み、その記憶を辿るのです」


 オーナーはまた一切れ肉を刻み、話を続けた。


「竜と力場を編むことは、スレーン人の一番の悦び、そして誇りです。竜の記憶…………もちろんそれは人の記憶とは異なった類のものですが、それを読み取ることで、我々は竜の生き様を知れるのです」

「竜の記憶って、どんなのっスか?」


 ナタリーがにこやかに尋ねる。彼女の目はキラキラとしていて、まさに新しい玩具を見つけた子供のようだった。

 女給がそれぞれのグラスに赤ワイン風の酒を満たして静々と去っていった。俺はちょっとばかりグラスに口をつけ(ワインよりも渋く、酸っぱくて癖のある酒だった)、続く話に耳を傾けた。

 オーナーは悠々と語っていった。


「そう聞かれると矛盾した話になってしまいますがね。竜の記憶は、飛ばぬ者には非常に説明し難いものです。我々は竜王との深い因果と、幼い頃からの飛行訓練により、竜たちの見る景色を自然に受け取ることができますが、全く因果も経験も無いサンラインの方が同じ景色を見るのは、余程の適応が無い限りは難しいでしょうな。呪術の力場を想像して頂ければ、ある程度は感覚が近いかと思われます。

 いや、こればかりは本当に残念。申し訳ない。…………いやはや」


 肩をすくめるオーナーは、言うほどは残念がってはいない風だった。仕草や口調から、自身の悦びさえあればそれで良いのだ、という雰囲気が滲み出ている。

 俺は思い切って切り込んだ。


「トリスさん。実は、俺達は竜を探しているんです。それも国で指折りの、強く、速い竜を」


 ナタリーが興味深げにこちらを振り向く。彼女はもう幾つめとも知れないパンを一口に押し込み、ピンク色のジュースで流し込んでから(なんて勿体無い食べ方を…………)話した。


「ミナセさん、何で竜が要るの? どこか遠くへ行っちゃうの?」


 ナタリーの質問には、リーザロットが答えた。


「ええ、そうなんです。今回の戦のために、遠征に協力して頂ける方を探していて。あと4頭、早急に必要なの」


 オーナーはワインを飲み、いくらか声を低くした。


「竜での遠征…………フム。どこへ向かわれるのか、尋ねても?」

「東へ参ります」

「テッサロスタですかな?」


 リーザロットはただ微笑み頷かず、否定もしない。オーナーは彼女を見ながら、さらに問いを続けた。


「その遠征には、どなたが行かれるのです?」

「精鋭隊の騎士数人と、魔導師・琥珀。それから、そこに居られる勇者様が向かいます」

「わかりました。それと、不躾ですが…………特級の竜4頭となりますと、かなり…………先立つものが必要となりますが…………?」

「そちらについては、オースタンの貴重品をいくつか揃えて参りました」

「フム。…………」


 オーナーは首を捻り、顎を撫でた。ナタリーは黙って様子を窺っている。

 テッサロスタ。戦。精鋭隊。そして「勇者」。どれも「太母の護手」と単純には結び付かないとは言え、彼らが事情に絡んでくると予想するのは彼女にとって全く不自然じゃない。

 案外勘の良い子なので、ここまで話を聞かせてしまうのは心配でもあった。

 やがてオーナーは口の端を重々しく曲げ、言った。


「フム。そういったこととなりますと、一つこちらからも提案したいことがございます。

 …………実は、今日は蒼姫様方の他にも客人が来ておりましてな。よろしければ、彼らもこの場に同席させて頂きたいのですが、構いませんかな?」

「…………どのような方達なのですか?」

「竜の手配について、今のサンラインでは最も精通した人物です」


 リーザロットの蒼い瞳がひたとオーナーを映している。

 彼女はチラッとだけ俺へ目配せすると、またオーナーを見て、こくりと小さな頭を点頭させた。


「わかりました。では、せひご一緒いたしましょう」


 オーナーは厳粛に礼を言うと、皿を下げに来た女給に何か告げた。リーザロットはその間に、ナタリーに向かって話しかけていた。


「ところで、ナタリーさんは竜に乗ったことがおありですか?」


 ナタリーは急にピッと背筋を伸ばすと、緊張した面持ちで答えた。


「あっ、あの、ちょっとだけですけれど、あります。昔、お父さんが乗っているのに一緒に乗せてもらって、その時に簡単に乗り方を教わったって、だけなんですけど」

「まぁ、素敵な思い出ですね。それでは、お一人でも操竜できるのでしょうか?」

「あのぅ…………はい、一応。「素敵」っていうには、お父さんの教え方は荒っぽかったし、全然、私の操竜は上手ってわけじゃないと思いますけど」

「きっとそんなことないと思うわ。…………お父様は、どこで操竜を学ばれたのですか?」

「えっと、お父さんは昔、海で働いていたので。その時に教わったって言っていました」

「もしかして、お父様は文字通りの意味でも水先人だったのですか?」

「あっ! そう、それなんです! どちらかと言えば、哨戒役を任されていたらしいんですけども」

「それでしたら、とても凄いことですよ。外海の魔物の強大さは内陸の比ではありません。そのため哨戒役の操竜士は、竜の扱いにおいてだけでなく、魔術においても大変に優れていると聞いています」

「えっ? そうだったんスか? 確かに、お父さんは自警団の中じゃズバ抜けて強かったッスけど…………まさかそんな、蒼姫様にお褒め頂けるほどだったとは知りませんでした。ただ、ふんわり、何となく飛んでいただけとばっかり…………」


 俺はデザートとして出てきた色とりどりのフルーツをつつきながら、二人の会話を聞いていた。不思議な気もするが、当然の如くこの世界にも海が存在するという。


 思えば、初めて俺がリリシスの物語に触れた時に見た景色も海辺だった。暗い洋上で赤く逆巻く巨大な火炎と、波間を漂う大きな帆船。焼け爛れた海岸に響く無数の呻き声。遠く長く美しい喰魂魚の歌。…………迫りくる津波の予感。


 あの日目の当たりにした景色は、今も鮮やかに俺の内に刻み込まれていた。砂浜に散るガラスの破片を踏みしめた時の痛みを今もまざまざと思い出せる。

 あれは本当に、誰かが綴った象徴の物語に過ぎなかったのだろうか? 俺は時々、いつか現実にあの景色を目の当たりにするんじゃないかと心配で堪らなくなる。


 やがて女給がデザートを下げ、代わりに紅茶を持ってきた時、部屋の扉が開いた。


「おお、お待ちしておりましたぞ! エレノア様。コンスタンティン様。それにシスイも来てくれたか。丁度良いな。あと、それ…………と…………?」


 余裕ぶったオーナーの顔が俄かに引き攣った。

 俺は新たに入ってきた人々の後ろに傲然と立つ、骸の騎士に声を掛けた。


「あっ、タリスカ。どうしたの?」

「先程私が念話で呼びました。意見を伺いたくて」


 リーザロットが言うと、タリスカは颯爽と姫の近くまで行き、腕を組んだ。オーナーもナタリーも女給たちも、異形の骸骨騎士の出現にしばらく口もきけないでいたが、やがてナタリーがおずおずと沈黙を破った。


「あの…………お久しぶり、です」


 タリスカは彼女の方を振り向くと、


「先の護手との戦、見事であった」


 と、ねぎらった。ナタリーは「どうも」と強張った顔で答えると、そのまま、おもむろにジュースの注ぎ足されたグラスを掴んで煽った。


 勇気ある女給の一人がタリスカに椅子を勧めて、あえなく断られる中、彼に続いて入ってきた人々は好き好きに空いている席へ着いていった。

 俺の隣に座ったエレノアさんは、俺を見てバラのように微笑んだ。


(こんにちは、「勇者」君)


 なぜか念話で伝えられる挨拶に、俺は「どうも」と普通に口で答えつつ、照れて頬を掻いた。

 この人がなぜここにいるのかは知らないが、彼女と一緒にやって来た男の方には、俺にもちゃんと覚えがあった。


 彼…………西方区を統括する貴族の若き当主、コンスタンティン・リリ・バレーロは、俺の真向かいに座って冷ややかな目で場を見渡していた。とりわけリーザロットへ向ける目は険しく、そのカラスの如き狡猾な眼差しは、ほとんどナイフみたいだった。


 確か彼は、商会連合に竜の牧場を貸している関係で竜に融通が利くという話だったが、それがどうしてここに? 会いに行く手間が省けた反面、戸惑わざるを得ない。

 コンスタンティンはふと俺を見やると、


「何か?」


 と、極めて刺々しい口調で尋ねてきた。

 俺は思わず気圧されて、弱々しく答えた。


「いえ…………。何でもないです」


 コンスタンティンは何も言わずに俺から目を逸らすと、またリーザロットへギラギラとした視線を注いだ。

 賢人会の時にも思ったが、なんて不愛想で嫌なヤツなのだろう。もしリーザロットをいじめたら、タリスカが黙っていないぞ。フン。


 それから俺は、見覚えの無い残りの一人に目をやった。

 彼は、俺が今までサンラインで見た中では最も日本人的な、中性的な顔立ちをしていた。スッキリとした面長の青年で、黒い短髪に、黒真珠のような理知的な目をしている。これがいわゆる、典型的なスレーン人の面立ちなのだろうか。表情に乏しく、何を考えているかは至極読み取り辛かったが、日に焼けた肌は何となく頼もしく、慕わしさを感じさせた。


 シスイと呼ばれていた彼は俺を見、それからなぜか満足そうに虚空へ目をやって、紅茶に口をつけた。


「トリスさん。…………それで?」


 コンスタンティンがぶっきらぼうに話を振る。オーナーはようやくタリスカの衝撃から立ち直ったのか、調子を取り戻して話し始めた。


「そ、そうです! 集まって頂いたのは、他でもありません。皆様との竜の共同所有について、ご相談致したいのです」


 共同所有。また唐突な。

 俺の困惑を余所に、人々の視線を一身に集めたオーナーは、ほくほくと喋り続けた。


「あけすけに申し上げますと、今現在、私の竜を引き受けたいと言ってくださる方が多くいらっしゃいます。それも皆様、大変に信頼の置けるお客様ばかりで。正直私としても、非常に頭を悩ませている次第なのです」


 ナタリーがピンクのジュースに手を出そうとするのを、俺が止めた。彼女は不服そうにしていたが、俺は無言で首を振るのを見て一旦はおとなしく引き下がった。ダメだよ、ナタリー。このジュースは爽やかで甘酸っぱくて美味しいけれど、ダメなんだ。タカシが身をもって、コイツの危険な依存性を俺に教えてくれた。

 オーナーは俺達を順繰りに見渡し、続けた。


「そこで、特にここに集まっていらっしゃる方々におきまして、特別に「共同所有」という形を提案したく思ったのです。本来は所有者間のトラブル防止のために、こうしたことは一切行っていないのですが、サンライン史上屈指の大魔導師であらせられるエレノア様、そして、当代の三寵姫でいらっしゃいます蒼姫様と伝承の「勇者」様、さらには、五大貴族たる西方区総領主のコンスタンティン様に対してであれば、格別の対応をと考えたのです」


 エレノアさんはともかくとして、コンスタンティンも竜を欲しがっているというのか。

 ヤツはもう十分に竜を入手できる立場にいるはずなのに、なぜだ? 特別速い竜が欲しいというタイプにも見えないのに。

 ナタリーがいじましくジュースを見つめているのを横目で監視しつつ、俺は話に割り込んでいった。


「共同所有となると、それぞれの所有者の竜の使い道を知らなくてはなりませんよね」

「そうね。皆のものなら、迂闊に食べてしまうわけにはいかないし」


 エレノアさんの斜め上からの同調に、コンスタンティンが微かに眉をひそめる。俺はそんな彼の方へ向いて、直接に尋ねた。


「あの、差し支えなければ、どういった目的で竜がご必要なのか、伺ってもよろしいでしょうか? 俺と蒼姫様は、なるべく早く長距離を移動する必要があって、もしかしたら…………いや、見込みの上ではほぼ確実に、そのために竜を疲弊させてしまいそうなんですが」


 コンスタンティンは俺の言葉に、眉一つ動かさずに言った。


「それについては、よくわかっています。

 というより、実のところ私は蒼姫様と「勇者」様の事情は既に把握しているのです。…………テッサロスタの奪還を狙っていらっしゃるのでしょう?

 隠す必要はございません。早い話、私はそれを支援するために来たのですから」


 コンスタンティンの発言に、俺とリーザロットは顔を見合わせた。見ればオーナーも同様に驚いた表情をしている。彼が堪らずコンスタンティンに何か言いかけたところで、リーザロットが少し前屈みになって口を挟んだ。


「もう少し、詳しくお話をお聞かせ願います。コンスタンティン様」


 コンスタンティンはいよいよきつくリーザロットを睨み据え、話した。


「蒼姫様。無礼を承知で申し上げますが、貴女は紅姫様と比べ、非常に弱い立場にいらっしゃる。サンラインにおける貴女の勢力は、そちらに居られる「勇者」様のお力を考え併せてもなお脆弱です。実際、私が動かぬままでは、貴女方は竜をお集めになっても、目的地へ旅立つことすらできないでしょう」

「…………どういうことですか?」

「ご存知でしょうが、私は商会連合に土地を貸しています。そこは西から東へと向かう竜の新航路の拠点となっているのですが、ここがもうすぐ、騎士団によって封鎖されることは把握しておられましたか?」


「いいえ」とリーザロットが首を振る。コンスタンティンは嫌味な溜息と共に堂々と長い足を組むと、淡泊に語っていった。


「やはり、ですか。…………昨日、ヴェルグ様が直属の部隊へそう指示を出されたそうです。情勢を鑑み、「安全のため」、手形の無い竜をサンラインから出立させぬように、とね」

「でも、竜って、その気になればどこからでも飛べるじゃないスか。何か意味あるんスか、それ?」


 ナタリーの問いは、ちょうど俺が抱いていたものと一緒だった。発着場が封鎖されたからといって、飛行機と違ってそんなに痛いこととは思えない。

 コンスタンティンは忌々しげな視線を俺とナタリーへ送ると、面倒臭いのを露骨に声音に滲ませて話した。


「貴方達は、竜をワンダとでも勘違いされているのですか? あるいは、空を道なき自由な空間だとでもお思いで? …………安全な竜の航行のためには、馬が道を走るのとは違い、入念な準備が要ります。地形や気候の把握を始めとして、気脈の調査、竜の体調管理、操竜士と竜との魔力場の調整など、飛ぶ前にせねばならぬことは山程あります。

 わかりますか? これらを独力で把握することは、実質不可能です。発着場や航路上の関所は、そのために存在していると言ってよろしい。人が「竜に乗る」とは、そうした地道かつ、綿密な努力の上に成り立っているのです」


 俺とナタリーは目を合わせ、念話にもならぬ無言の会話を交わした。言っている内容はともかくとしても、ひどい上から目線だ。何様のつもりだろう。

 コンスタンティンは大袈裟に肩をすくめ、話を戻した。


「ただ、まだこの封鎖は不完全です。竜の値上げとは異なり、商会連合の一存だけでは動かない事情が多く、さすがのヴェルグ様でも調整に手間取っていらっしゃるようだ」


 リーザロットがそこで、ようやく得心がいったという風に目を大きくした。


「ああ、わかりました。つまり、まだ土地の所有者であるコンスタンティン様の竜には、通行規制が及んでいないということですね」

「…………さすがは蒼姫様。話が早くて助かります」


 コンスタンティンは偉そうに机の上に手を組み、続けた。


「そう。だから私は、今のうちに自分の自由になる竜を増やそうとしました。蒼姫様との交渉の前に、何としてでも数を揃えておきたかったのでね」

「でも、一つだけ問題があったのよね」


 エレノアさんがまったりと紅茶を飲みながら言葉を挟む。彼女はオーナーを見、いたずらっぽく笑って言った。


「「強い乗り手」。トリス君には、これだけは譲れないことなのよね? でも、コンスタンティンにはそれが用意できなかった…………」


 オーナーは深く頷き、唸り、もう一度大きく頷いた。


「うむ…………うむ。全くもってその通りでございます、エレノア様。…………いや、コンスタンティン様が、蒼姫様へ竜をお譲りするつもりであったと知っていれば、また話は違っていたのですがね。今朝お話しした限りでは、そこまでは伺っていなかったものでして…………。

 そうなるとやはり、「強い乗り手」と巡り合える可能性の高い蒼姫様ともお話をと、思ってしまいましてなぁ…………」


 ナタリーが不意を突き、ジュースに手を伸ばす。俺は寸でのところで彼女のグラスを自分の方へ寄せ、阻止した。

 口を尖らせるナタリーの向こうで、リーザロットが呟いた。


「そこで、私達の金銭的な負担のことも考え、共同所有という案が出たのですね。…………できることなら、異国の輸入品と国内の通貨と、どちらもある方が良いですものね…………」


 オーナーが無言で顔を顰める。エレノアさんはひとり優雅にお茶を楽しんで、「そうよねぇ」と誰にともなく頷いていた。

 リーザロットは俯けていた顔を上げると、コンスタンティンの方を見た。


「…………しかし、コンスタンティン様。まだわからないことがあります。なぜ、貴方はそうまでして、私達に竜を斡旋しようとしてくださるのでしょうか?」


 蒼い真摯な眼差しを受け、コンスタンティンの狡そうな目がギラリと暗く閃く。俺はナタリーからの抗議の視線を華麗にスルーしつつ、ジュースの代わりに彼女へ紅茶のカップを押しやって、ヤツの答えを待った。

 コンスタンティンはフッと一息吐き、口の端を歪めた。


「蒼姫様。そのお話はいずれ、またの機会に。私は、とにかく今回は竜の商談をまとめるつもりで来ました。

 …………共同所有のご提案、私は結構だと思っております。金銭的負担は、場合によっては私が全額担っても構いません。そして、実質お乗りになるのが貴女様の騎士達であれば、トリスさんも満足なさる上、蒼姫様にとっても都合が良いのではないですか?」


 どうも話がうますぎて引っかかるが、かといって現状では他に案もない。

 俺は「悪くない」というつもりでリーザロットを見た。だが、俺はその時ふとエレノアさんのことを思い出した。

 そう言えば、彼女も竜を欲しがっていたのだった。

 エレノアさんは何を察してか、あっさりと言ってのけた。


「ああ、ちなみに、私もそれには賛成ですよ。私は、いずれ寿命の尽きた竜を一頭もらえれば、それで構いません。良く鍛えられた、身の締まった竜は、良い干し肉になりますからね」


 そう話す彼女の菫色の瞳はこよなく澄んで、まるで満ちた月のように平然と凪いでいた。

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