第116話 幼い日の思い出。俺が立ち上がるべき日のこと。

――――オイ、ミナセ! ジュースおごれよ!


 懐かしい声が聞こえる。

 確か、道場からの帰り道でのことだ。

 あの時期、まだ中学にも上がっていなかった頃、俺は最高に馬鹿だった。本当は一回だってやっちゃいけなかったのに、同じ道場のよしみで、ヤバイ奴にお金を貸してしまっていたのだ。


「嫌だよ、自分で買えよ!」

「お前んち、金持ちだろ! ケチくせぇ!」

「俺の家と俺は関係無い! あっち行けよ!」

「意味わかんねぇこと言ってねぇで、早く出せよ! オラ!!」


 鞄に掴みかかられるのが嫌で身を捻ったら、横っ面を思い切り殴られた。アイツはそのまま、野良犬のように鞄に取りついてきた。俺は地面に這いつくばって、意地になって鞄を抱えて守った。柔道など一切関係無い、単なる暴力だけの応酬が始まった。

 …………応酬と呼ぶには、あまりに一方的だったけれど。


「ふざけんな、チビ! 俺に逆らうとどうなるか、わかってんだろ!?」

「知るか! 嫌だっつったら嫌だ! いい加減にしろ!」


 アイツは平気で人の顔をスパイクで蹴ってくるクソ野郎だったが、幸い、あの時は普通のズックで執拗に蹴られただけだった。


「放せ! 放せよ! 生意気なんだよ! 弱いくせに、雑魚のくせに!」

「うるさい! とっとと帰れ、貧乏人!」

「何だとぉ…………ッ!?」


 腕を首に巻かれ、いよいよヤバくなってきた時だった。急に、俺達の頭上が陰ったかと思った途端、俺を絞めていたクソ野郎が豪快に蹴り飛ばされた。そのあまりの容赦の無さに、助けられた俺の方が肝を潰した。


 死んだんじゃないかと思っておずおずアイツの方を見やると、蹲って元気に呻いているのが見えた。俺は一応は安堵したが、ヤツを蹴った本人はと言えば、そんなことは1ミリも気にかけていなかった。


「道の真ん中で、鬱陶しいことしてんじゃねぇよ。目障りだ」


 どこからともなくフラリと現れたそいつ、ヤガミは、俺にともヤツにともつかず吐き捨てた。俺が鞄を抱えて起き上がると、ヤガミはなぜか俺にまで拳を振るった。


「――――痛ってぇっ!! 何すんだよ!?」


 俺が怒鳴ると、ヤガミは俺の胸ぐらを掴み、人殺しのような目つきで凄んだ。


「コウ。金のことで人を罵るな」

「…………わかった、悪かったよ」


 解放された俺がリュックについた埃を払っている間に、蹴られたクソ野郎がよろよろと立ち上がった。腹を押さえている。彼は半泣き状態で、精一杯に声を張ってヤガミを罵った。


「汚ぇんだよクソが!! テメェん家の菌が伝染んだよ!!」


 それを聞いたヤガミの、血も凍るような顔は今でも忘れられない。中学の時にも何度か同じ表情を見たが、ついに最後まで慣れなかった。

 やや灰色がかった、青みの差したアイツの瞳が、途端に鮫のように無慈悲になる。顔色が青白く、幽鬼のごとく陰鬱になり、そうなったヤガミはもう完全にまともじゃなかった。


 俺はヤガミを止めねばならなかった。「ムカつくんだよ!」と、結構な勢いで振り払われたり殴られたりしたが、それでも組みついていないと、マジで取り返しがつかなくなりそうだった。

 ヤガミはあの日も、しがみつく俺を突き飛ばして怒りを滾らせていた。


「コウ、お前は何がしたいんだ!? 俺を止めてどうする!? お前には関係無いだろう!!


 ――――――――テメェの喧嘩をしやがれ!!!」



 …………と、生々しい夢から醒めた時だった。

 冷たい風が頬を滑って行った後に、窓の閉まる微かな音がした。物静かな、ゆったりとした話し声が聞こえてくる。


「――――姫。勇者は姫の寝台の上で何をしている?」

「あら、タリスカ。案外早かったのね。…………コウ君は、ザゼンをしているそうです」

「寝ているように見えるが」

「たくさん考えるとお話していましたから、時にはそうなるのではないかしら」

「…………フム」


 足音が近づいてくる。俺はいたたまれず、何とか目を瞑ったままやり過ごそうとしたが、呆気なく見抜かれて肩を叩かれた。


「目覚めよ、勇者よ。…………もう覚醒しているのだろう」


 俺は観念し、挨拶した。


「…………お邪魔してます」


 タリスカは俺を見下げ、白々とした長い指で下顎骨を撫でた。


「それが、ザゼンか?」

「…………いえ、その、いつの間にか寝てしまいました」

「タカシもか?」

「え?」


 彼に指差された方を見ると、そこにはリズの枕を使って爆睡しているタカシがいた。こともあろうに、なみなみとよだれを垂れ流している。


「うわぁ、戻ってない!!」


 俺が怯え慄くと、天蓋の支柱に張り付いていたトカゲ(これも消えてない!)が待ってましたとばかりに勢いよく叫んだ。


「――――ヨクネル、ゲンキ!」


 俺は愕然として、肩を落とした。


「えぇ、マジ? こいつら、どうしたら消えるんだ…………?」


 タリスカはトカゲとタカシに目をやり、それからまた俺に目を落とした。


「肉体と霊体の融合は、双方向からの高度な集中を要する。…………精神的緊張がその契機となる故、あくまでも覚醒状態を維持せねばならぬ」

「はぁ…………。どっちが先に寝ちゃったんだろう?」

「知らぬ。タカシを起こせ」


 俺はタカシの肩を揺すり、呼びかけた。


「オイ、起きろ。半目が開いてるし、よだれが出てる」


 我ながら何と屈辱的な寝顔か。タカシはムニャムニャと何か幸せそうに呟き、目を擦って身を起こした。


「ん? ああ…………なんだ、夢か。せっかく美味しそうに焼けてたのになぁ…………。って、あれ? コウ、いつの間に起きたの?」

「ついさっき」


 タカシはベッドの傍に立つタリスカに気付くと、パッと明るい顔になって話した。


「あっ、おはようございます、師匠! こんなところで、どうしたんですか?」

「それは俺達の話だろうに…………。っていうか、「師匠」って何だよ?」

「フレイアの真似! 格好良くない?」


 俺は溜息を吐き、萎れてタリスカを見た。

 いくらリズ本人が許したとはいえ、一国のお姫様のベッドの上で寝ているなんて、護衛の騎士が俺を問い詰めるには十分すぎる理由だった。あまつさえ、あんなによだれを垂らして…………。

 だが、タリスカは特に何を咎めることもなく淡々と話し継いだ。


「勇者よ。融合の修行をつけてやろう。だが、その前に姫との用事を済ませよ。気が散っては妨げになる」

「用事…………? あっ、竜の相談か」


 俺がリーザロットの方を振り向くと、彼女はにっこりと笑って答えた。


「それでしたら、実はもう案を用意しておきました。コウ君がザゼンしている間に、倉庫の方を周って、何か交渉に使えそうなものがないか調べてみたの。手ぶらで行くよりも、手土産があった方が色々と話が捗るでしょう?」


 言いつつリーザロットが、軽やかに音を立てて両手を合わせる。すると部屋の外から、人形たちが3体、ぞろぞろ並んでやってきた。その手にはそれぞれ、俺にも見覚えのある物品が抱えられていた。


「えっ…………それ、刀!?」


 俺は先頭の人形が抱えている、布で刃をぐるぐる巻きにされた打刀を指差した。そう言えば、初めて俺が案内された部屋にも飾ってあったけど、まさか本物だったとは。


 それから俺は次の人形が持っている、木製のケースに入った、たくさんの瓶に目を留めた。

 あの形はまさか…………コーラか?

 埃被って古びた様子だが、飲めるのだろうか。俺は思わず感じた喉の渇きに、唾を飲み込んだ。


 そして極めつけに俺の度肝を抜いたのは、最後の人形ががっちりと両腕に抱えている武器だった。


「それは…………」


 俺も生で見るのは初めてだが、それは紛れもなく本物の小銃だった。

 木製の銃把が静かに艶めく、ずっしりとした銃。

 眉を顰める俺に、リーザロットが言った。


「こちらは、オースタンの武器と聞いています。どこから、どのような経緯で迷い込んだものなのかはわかりませんが、私がこの館に越してきた時にはすでに倉庫に捨て置かれていました。…………もしかしたら、コウ君なら使い方をご存知かと思って、一応持ってきたのです」


 俺はベッドから立ち上がり、おそるおそる人形から銃を受け取った。思っていたよりも重く、冷たい。銃にはちっとも詳しくないので、種類だの型式だのといったことはよくわからなかったが、どうやら俺の時代のものよりかなり古い銃のようだった。見た目はお祭りの射的で使うコルク鉄砲とよく似ている。だが、黒光りする鉄から漂う、煙るような迫力は明らかに玩具とは一線を画していた。

 俺はよくわからないなりに仕掛けをいじり、中に弾が入っていないのを確認してから、リズに尋ねた。


「あのさ、これの傍に小ぶりな金属の塊…………ちょうどこの筒に収まるぐらいのやつが置かれてなかった? それをこれに詰めて、遠くへ飛ばすんだけど」


 俺が適当に構えてみせる。タカシが興味深そうに見ていたので、彼にも渡してやった。これがあれば、タカシだって戦力になり得る。銃の手入れの仕方なんて全く知らないが、弾さえあれば何とか役に立つのではないか。

 奥の手として期待が膨らんだだけに、返ってきた答えにはガックリときた。


「いいえ。それだけが転がっていました。その塊がないといけないのですか?」


 俺は首を捻り、腕を組んだ。


「火薬…………とかが詰まっているんだ。その塊の中に。火が点くと爆発する粉で、その爆発の勢いで弾丸を飛ばすんだよ」

「そうなの。そのカヤクを作ることは、できませんか?」

「作り方、わかんないしなぁ…………」


 漫画や映画で見た気がするけれど、詳しいことは全く覚えていなかった。糞尿を使うだの何だのと衝撃的なことだけは印象に残っているものの、具体的な処理の仕方は一切知らない。そもそも、弾丸の構造自体、ロクに考えたことも無い。

 ああ、こんな時にインターネットか、類稀なるオタク知識があれば一発なのに。しがないニートなのが悔やまれる。


 とはいえ、無いものねだり程空しいことはない。この魅力的な武器のことは潔く諦め、次に移ることにした。

 俺は銃を人形に返し、再度リーザットを振り返った。


「次は、そっちの刀…………剣も、見せてもらっていいかな?」

「ええ、もちろん」


 俺は打刀の布を解いてもらい、刀の柄を握った。

 こちらもずっしりと重い。刃の上を霧のような波紋が美しく踊っている。毅然とした気位が漂う、反りの浅い真っ直ぐな刀だった。迂闊に触れれば、指ごと切り落とされそうだ。


「これは、誰かが手入れしているの?」


 訪ねながら鏡の前で、中段に構えてみる。銃よりかはいくらか様になっている、ような。俺の隣でまじまじと姿勢を眺めていたタリスカが、問いに答えてくれた。


「趣深き剣ゆえ、私が磨いた。魅入る程に、特殊な造りの刃だ。さぞ優れた刀工の手によるものであろう。…………勇者のその構えは、誰ぞから教わったものか?」

「いや、教わったというか…………見よう見まねです」

「鍛錬場が近くにあったのか?」

「いや、テレビです」


 とは、答え難い。俺は刀を降ろして、肩をすくめた。


「いえ、演劇とか、そういうのです。オースタンでは、あまり日常的には剣を使わないんです」

「代わりに、こっちを使うのね?」


 リーザロットがフラフラと、俺の真似をして銃を構える。俺は細い腕で危なっかしく銃口を揺らめかす彼女を見、頷いた。


「そう、だね。マジで戦うような場所では、そっちのが主流。もっと新しくて凄いヤツを使うけどね」


 タリスカはリーザロットからヒョイと銃を取り上げると、担いで構造を観察し始めた。彼の体格なら、悠々と構えることができる。むしろ銃の方がちゃっちく見えるぐらいだった。


「…………遠距離武器、か」

「最近のは、それよりもずっと遠くへ、速く、正確に、大量の弾を飛ばせます。刀じゃ、とてもやり合えないですよ」

「…………フッ」


 鼻で笑われたが(鼻なんか無いくせに)、俺はどういう顔をしたらいいのかわからなかった。

 例えどんな剣の達人でも、大魔導師でも、最新の兵器を駆使した軍隊には敵わないに違いない。まず兵士の数が圧倒的に違うし、オースタンの兵器の威力は、きっと彼らの想像を遥かに凌ぐ。

 サン・ツイードなんて、たかが一つか二つの爆弾で、あっという間に消し飛んでしまうだろう。


 そして俺は最後に、瓶コーラについて聞いた。


「そっちのコーラ…………いや、大量の瓶は?」

「これも倉庫に眠っていました。表面にオースタンの文字が記されているので、持ってきました」

「飲んでみたことはある?」

「ああ、やっぱり飲み物だったのね! そうかもとは予想していたのですが…………万が一危険な薬物だといけないので、まだ試したことはないの」


 危険な香りがするのは確かだが、見た感じ、これは案外イケるかもしれなかった。俺は埃を払って賞味期限を探し、呟いた。


「2018年、10月8日…………」


 俺がオースタンを発ったのは、2016年の10月である。となるとこれは、ごく最近誰かが持ち込んだものか、あるいは、俄かには信じがたいことだが、未来から持ち込まれたものということになる。

 俺は瓶を眺めまわし、リーザロットを振り返った。


「リズ。これは、いつ、誰から貰ったものなのか、わかる?」

「いいえ。それの存在に気付いたのは、本当に最近のこと…………コウ君がサンラインに来る直前のことだったんです。厨房に出入りした誰かが忘れて行ったのかもしれませんし、館の前の住人が何かのために仕入れて、それきりにしたままだったのかもしれません」

「…………手がかりは無しかぁ」


 俺は独り、可能性を巡らせた。

 俺ではない、別の誰かがオースタンから持ち込んだものであることは確かだろう。しかし、「いつ」持ち込まれたのかが大きな問題だった。


 オースタンの時空とサンラインの時空がどんな風に絡んでいるのか、俺には計り知れない。むしろ、誰にも把握しきれていないのが実情だろう。

 具体的な危惧としては、このコーラが最近のオースタンから、超昔のサンラインに運ばれたなんて場合がある。この場合、賞味期限は一切信用できない。

 だが一方で、この館の倉庫が汚かったに過ぎず、俺と同じように最近来て、最近発見された可能性も捨てきれない。

 俺はひとしきり悩んだ後、流線形の瓶を握り締め、腹をくくった。


「よし。開けて飲んでみよう。…………最悪でも、腹が痛くなる程度のはずだ」


 リーザロットは聞くなりキラリと瞳を輝かせ、うっとりとした。


「まぁ、素敵! ぜひ私にも飲ませてください」

「ならぬ、姫。毒味は勇者に任せよ」


 タリスカが諫めるも、リーザロットは慣れた様子で肩をすくめるだけだった。


「もう、貴方は心配し過ぎです。滅多に無い機会なのですから、ぜひ挑戦しなくては。…………何でしたら、貴方も一緒にいかがですか? 必要が無いとはいえ、飲食が出来ないわけではないのでしょう?」

「えっ、そうなの?」


 俺達の問いかけに、タリスカは何も言わずに腕を組んだ。

 うんざりしたような、どこかしみじみとしたような、何とも趣深い表情をしていた。



 …………で、これらの品物を誰に、どんな風に紹介するか。あるいはこれらの物とセットで、どんなことが提供できるかってことなんだけども。

 俺とタカシは小一時間程知恵を合わせた結果、大真面目に結論付けた。


「よし、その場のノリで決めよう!」

「わかりました」


 リーザロットのあまりの物分かりの良さに、俺達はかえって心配になった。


「ああ、いや、つまり、まずは世間話がてらに話を振ってみて、それから方向付けしていこうと思うんだ。当然、事前にある程度はアイデアを出しておくけれど、それに囚われ過ぎない感じで、進めたいってことで…………」

「はい。今回は私も着いていきますし、それで良いと思います」


 こうまるっと信頼されると、たじろいでしまう。俺は照れ隠しに首を掻き、話を続けた。


「それで、コーラのことは、融合の修行が終わってからにしようと思うんだ。夕飯の後にでも、毒味してみようかと思って」


 うまくいけば最高のデザートになる。悪くすればまたドクター・ウィラック行きだが、ここは賭けてみる他ない。

 リーザロットはコーラの瓶を胸の前にキュッと抱いて(谷間が)、頷いた。


「わかりました。それでは、融合の修行、頑張ってきてくださいね。コウ君、タカシ君」

「うん、頑張るねー」

「ガンバル!」


 タカシが馬鹿面を下げて陽気に手を振る。

 リーザロットは次いで、タリスカを仰いだ。


「いつもありがとうございます、タリスカ。でも…………あんまりコウ君達をイジめないであげてくださいね?」

「私は適度な加減を心得ている」


タリスカは発言の後、俺達の方を見た。


「では、行くか。勇者よ。…………案ずるな。道を選びし今のお前に、容赦はせぬ」


 言うや否や、タリスカは俺とタカシの額を大きく開かれた掌で鷲掴みにした。見覚えのある深い闇が、俺の意識をぐんと染め上げていく。悲鳴ごと吸い込まれていくような漆黒が、一瞬だけ眼前に「見えた」。

 俺達は恐怖や後悔を覚えるより先に、たちまち闇に飲まれた。



 ――――…………再び我に返った俺は暗い館の中に跪いていた。景色や、魔力の鬱々としたほろ苦い味からして、サンラインに到着した晩に薬屋と戦った、あの妙な空間にまた連れて来られたようだった。


 俺の隣には口を開けているタカシが立っていた。その頭の上にはなぜか、俺のトカゲが同じように口を大きく開けて張り付いていた。


「――――シュギョウ!!」


 トカゲの元気な発言に、目の前で仁王立ちしている骸骨騎士が満足気に答えた。


「良い意気だ」


 俺はかつて、道場で同じ緊張を味わったことがあるのをふと思い出した。

 逃れようのない猛稽古がすぐそこに迫ってきている時の、絶望、忘我、悲壮が、神経の隅々に至るまで、鮮やかに蘇ってくる。


 俺はいつも稽古の途中でへばって、惨めな思いをしていた。図体の大きなヤツに敵わなくって、そのうち、いよいよ本当に負け癖がついて、本当にどうしようもなくなってしまった。


 …………だが、俺はもう子供ではない。


 助けてくれる親友だってもういないし、なにより、今の俺は曲がりなりにも守る側の立場なのだ。

 スパイクなんかよりももっと凄まじく、無慈悲な暴力がこの世界には満ちている。弱かろうと馬鹿だろうと、俺は立ち向かわなくてはいけない。「どうしようもない」なんて、二度とは言いたくない。


 俺はざわめく不安をぎゅうと胸の内に抑え込み、力強く立ち上がった。


「お願いします!!」


 俺とタカシの声が重なって、響いた。

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