9thG サマーエピソード
第80話 オフ会
「眩い太陽、そよぐ海風、真っ白いキャンパスのような砂浜。まさしくはじける夏! って感じでゴザルな!」
「暑すぎて死にそうでふ。はじけるのはむしろぼくたちでふ」
砂浜についた瞬間グロッキーになってる椎茸を見て、遼太郎と岩城は苦笑いする。
三人は会社の休日を利用して、海へと来ていたのだった。
観光客もそこそこ多く、夏のイベントとしてはこの上ないものだが、一日中会社にこもっているひきこもリーマンズにはいささか環境が厳しい。
「あの……僕いりますか?」
「何を言うでゴザルか! 平山殿がいなければ今回の企画、成立しなかったと言っても過言ではないでゴザル!」
「そうでふそうふで!」
「はぁ……」
遼太郎は深いため息をつく。
男三人だけで来たのには訳があり、ゲーム開発者のインドア人がリア充の巣窟である夏の海になんか好き好んで出かけたりしないのだ。
遼太郎が連れて来られた理由は岩城、椎茸の初めてのオフ会の付き合いで、以前にゃんにゃんバーでできた彼女と今日初めてリアルで会うことになっているのだ。
椎茸のスケベ心と、たくみなメール術により女性たちを海に呼び出すことは成功したものの、二人とも彼女いない歴(年齢)の為、ガチガチになって喋れなくなるのは目に見えている。
そこで遼太郎という第三者を緩衝材にする為に彼を呼んだのだ。
「しかも今日泊まりなんですよね?」
「近くのコテージを二つ借りてるでふ」
「男女で別れるんですか?」
「ぼくの彼女と岩城君の彼女のカップルで別れるでふ」
「あれ、僕はどうしたらいいんですか?」
「テントがあるでふ」
そう言って椎茸はレンタカーに積まれたテントを指さす。
「…………」
恐らく夜までいたら、きっと自分は用済みなのだなと遼太郎は察した。
しかしながら先輩をたてるのも後輩の役目かと小さくため息をついて、遼太郎は岩城たちに続いて砂浜へと出る。
ジリジリと焼け焦げるような日差し、その光を反射する青い海。
海の家からただよう焼けたソースの匂い。至る所から聞こえてくる観光客の楽し気な声。
シーズンの為、当然ながら芋の子洗いのごとく人が多くThe夏の海という感じだ。
この白木浜海岸で女の子と直接待ち合わせをしているらしく、岩城と椎茸は鼻息を荒くしながら到着を待っている。
そんな二人をよそに遼太郎は適当な場所にビーチパラソルを刺し、シートを敷いて拠点を完成させると、今日はもうここから動かないでおこうと決めるのだった。
砂浜に到着して約三十分、到着予定の彼女達の姿はまだ見えず二人はずっとそわそわしっぱなしだ。
「何時に待ち合わせだったんですか?」
「10時半に白木浜海岸の予定でゴザル」
遼太郎は玲音から貰った腕時計型の携帯デバイスを見ると、時刻は10時45分を表示していた。
「これ、オフ会にありがちな、リアルを見てうわブッサやっぱ帰るわって、すっぽかされたパターンじゃないですよね?」
「そんなわけないでふ。マミちゃんはそんな心の汚れたクソビッチとは違うでふ!」
「そうでゴザル、拙者のリンディ氏も、そんな不届きな女子ではゴザらん!」
「リンディって岩城さんの彼女って外国人なんですか?」
「いや、日本人でゴザル。リンディはキャラクターネームで、実は本名を知らないでゴザル」
遼太郎は、うわ、まだ彼女との距離凄いあると白目むきそうになった。
と言っても、ゲーム内で岩城たちはリアルの顔を出しているので、ぶっさコミュ抜けるわということにはならないはずなのだが。
「ちなみにどんな方なんですか?」
「えぇ、見たい~? 見たいでふか~?」
「いえ、別にいいです」
「後輩なら先輩の彼女見たいって言えやでふ!」
椎茸は見せたかったようで、突如ブチギレた。
「はいはい、見せて下さいよ」
「しょうがないでふね、これでふ」
椎茸から写真を見せてもらうと確かに可愛い。椎茸には勿体ないくらいで、歳は恐らく20そこそこと言ったところか。ギャルが大学入って落ち着いた感じの女性だ。
同じ角度からの写真が多いのが気になるが、恐らく写真写りを気にしている事だろう。
同じく岩城にも写真を見せてもらったが、写真は完全にヘルメットをかぶっており、男か女かすらわからない。
「あの、岩城さん、顔は……」
「見たことないでゴザル」
「……よくこれでオフ会しようと思いましたね」
「しかし声はめちゃめちゃ可愛いでゴザルよ」
「あの、声質は簡単にいじれますよ」
「うるさいでゴザール! 拙者だってちょっと怪しいかなと思ってるでゴザル!」
どうやら第三者より当事者が一番気にしていたようだ。
それからしばらくして岩城のデバイスに一時間程到着が遅れると
遅刻してからの遅れるメールなのだが、二人は全く怒っている様子はなく、逆にメールが入ってデレっとだらしない顔をしていた。
「いきなり一時間遅刻ですか? 時間は大切ですから、ここは初めにビシッと言ってみてはどうでしょう?」
「うるさいでゴザール! 女の子はいろいろ支度に時間がかかるでゴザル!」
「そうでふそうでふ、これだから童貞は!」
遅刻の矛先が段々こちらに向き始めて来た気づき、このまままでは八つ当たりされそうなので遼太郎は断ってから海を探索することにしたのだった。
「海……寄せてはかえす。なにかゲームの良いアイディアになりそうなものが落ちてないですかね」
波の音で音ゲーとかできないかな、などと考えていると不意に後ろから声をかけられた。
「あれ、平山じゃない?」
「えっ?」
振り返ると、そこには浅黒く日焼けした水着姿の青年の姿があった。
サングラスに金のネックレスとウェーイ系男子に見えるが、どこかあか抜けない顔は遼太郎の知りあいであった。
「滝下先輩じゃないですか」
彼は遼太郎の高校時代の
元は完全にただのオタクだったのだが、大学に入ってから運動系サークルなどに積極的に入り、脱オタしたらしい。
「久しぶりだな! お前大学全然来てないらしいけど、単位大丈夫か?」
「んー、もしかしたら大学辞めるかもしれません。やりたいことが決まってますから」
「お前まだゲーム制作とか夢見てんの? いいかげん子供がケーキ好きだからケーキ屋さんになりたいみたいな夢捨てろよ」
あくまで冗談とわかっているし、本人に悪気はないのだがそれでもむっとしてしまうのは事実である。
「好きが昇華してプロになるものですから、ケーキが好きだからケーキ屋さんになってもいいじゃないですか。きっと美味しいケーキを作ってくれますよ」
「そういうところは感心するよ。でも、そんなオタク系突っ走ってると、彼女もできないぞ?」
「先輩彼女できたんですか?」
「ああ、しかもとびっきりの」
鼻息を荒くする滝下は高校時代泳げなかったはずなのに、海に来ているというのはそういう裏があったようだ。
岩城たちのことを含め、男ってほんと単純だなと思わずにはいられなかった。
男の子をおだてればおだてるほど木に登っていくミニゲームでも作ろうかなと思うが、ユーザーからのクレームが来るだろうと容易に想像がついたのでやめた。
滝下と話していると、海辺からビキニ姿の女性が姿を現す。
「加奈子、こっちだ」
呼ばれてやってきた女性は確かにすらっとしたショートカット美人だ。
脚が長くスレンダーなモデル体型とも言える。
少し日焼けした茶髪の女性はセクシーな分厚い唇をして――ってか唇でかすぎない? と遼太郎は二度見してしまう。
彼女はパーティーグッズみたいな星型のサングラスを外すと、気の強そうな釣り目がこちらを睨む。
「三島加奈子。こいつ俺の後輩のゲームオタクの平山」
「どうも、平山と申します」
遼太郎は会釈するが、女性は完全無視して海の家で売っているアイスを見やる。
「アイス食べたい」
「はい、ただいま! じゃあ平山、また今度飯でも行こうぜ」
「は、はい」
そう言い残して滝下は大急ぎでアイスを買いに走って行った。
それだけで上下関係がわかってしまい、どや顔で俺の彼女はとびきりだぜと言っていた滝下が気の毒になるのだった。
「なんか昔、貧乏なのにスポーツカーを買ってしまった人のことを思い出しましたね」
スポーツカーに乗っているだけで羨望の眼差しで見られるが、維持費は高いし、運転が下手だと笑われるしで結局車に生活全てを引っ張られてしまう本末転倒になったという話だ。
車で例えるのはいささか失礼にあたるが、それでも遼太郎の目にはスポーツカーに滝下が引きずられているようにしか見えない。
「先輩、苦労してるんだろうな……」
でもしょうがない。自分でスポーツカーを選んでしまったのだから。
遼太郎は滝下と別れて岩城たちの元へと戻る。
すると岩城たちの前に小柄でパーカーを着た女性と、少し派手めなメイクをした水着姿の女性二人が話をしている。
片方は写真で見せてもらったマミさんで間違いなさそうで、そうなるとパーカーの女性はリンディさんかなと予想はついた。
遼太郎は近づいてあることに気づいた。明らかにマミさんの顔が写真と違う。
雰囲気は似ているのだが、ボリュームが写真より大幅増している。
遠目で見た時遠近法がちょっと狂ってるのかなと思っていたが、予想通りガタイが良い。
良い言い方をすればふくよか。悪く言えばピザだった。
水着姿の女性は、女性だけで喋っており岩城たちは話題に入っていない。
なぜだろうと思うと、岩城たちはビーチパラソルの下で遠い目をしていた。
遼太郎はこそこそと二人に近づく。
「どうしたんですか?」
「あぁ平山殿、空が青いでゴザルなぁ」
「あの雲、わたあめみたいでふね」
ダメだ完全に自我が崩壊しかかっている。
「なにがあったんですか?」
「見たらわかるでふ。マミさんだと思ったらクリーチャーだったでふ」
「言いすぎでしょ。人の事言えないですよ」
「わかってるでふ、わかってるでふけど写真詐欺でふ。実はあの写真全部斜め上から撮ってて、その角度は凄く細く見えるでふ」
「あ、あぁ……なんか動画で見たことあります。写真を綺麗に見せる方法って」
「詐欺でふ詐欺でふ! マミさんを返してくれでふ! ゲーム内でもアバター少しいじくってて細く見せてたでふ!」
「それで岩城さんはどうしたんですか? あっちの小柄な女性がリンディさんですよね? いいじゃないですか、僕もっと凄いのが来ると思ってました」
「あぁ……女でゴザったらな」
「?」
「彼女……いや、彼は男でゴザル」
「えぇっ!?」
「母親似らしくて、とても女性顔でゴザル」
ハハハと乾いた笑いをもらす岩城。
「岩城さーん、椎茸さーん」
「一緒に遊びましょう!」
岩城と椎茸は白い顔で手を振っている。
「彼女達が、ぼくたちのことを好きなのは本当らしいでふ」
「拙者、彼に本気でお付き合いを申し込まれて困ってるでゴザル。ちなみに本名は
「かっこいい名前ですね」
そりゃ本名出せないわけだと頷く。
「もう、いいんじゃないですか?」
「何がいいでゴザルか! 男でゴザルぞ男! ちんこついてるでゴザルぞ!」
「もう、ついてるとかついてないとか、些末なことでしょう」
「大事でゴザル! 拙者初めての彼女が彼氏とか嫌でゴザル!」
「でも可愛いじゃないですか」
「可愛くても男でゴザル! 拙者初めてのベッドインで優しくしてねと言われるのが夢でゴザったが、拙者が優しくしてねと言うのは嫌でゴザル!」
「まぁ彼女も脇差を挿した侍だったんですよ」
「ちっともうまくないでゴザル!」
「えっ、じゃあどうするんですか? 宿も予約してるんですよね?」
「男女でわけるでゴザル」
「男女で分けると健司さんこっち来ますよ?」
「うがああああああああっ、もう帰りたいでゴザル!」
男って本当悲しい生き物だなぁと思わずにはいられない遼太郎だった。
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