第76話 籠の鳥
ディアナが入社した翌日、遼太郎は昼の時点で荷物を片付け退社の準備を行っていた。
「おや、平山殿まだ昼でゴザルが?」
先日の件で彼女が出来たらしい岩城は、締まりのない緩み切った顔で遼太郎に声をかける。
「あっ、すみません。ちょっと別件で外に出なければ行けませんので。今日はそのまま出先から直帰します」
「おや、仕事大好きな平山殿が珍しいでゴザルな」
「すみません。何かあったらデバイスに連絡ください」
慌ただしく遼太郎は外へと出て行く。
「別件とはなんでゴザろうな」
岩城が首を傾げていると、徹夜明けで疲れ切っている麒麟がぐでーっとデスクでのびながら、少し不機嫌そうに答える。
「ディアナさんの新しい住居探しですよ。彼女サンライトミュージックが用意したマンションに住んでたんですけど、退社したのですぐに引っ越さなきゃいけないんです。でも彼女未成年なので賃貸契約ができませんから保護者、もしくは代理人に該当する人がつきそう必要があるんです」
「なるほど、それで現在の雇用主であるウチが代理人として向かったわけでゴザルか。しかし、なぜそれが平山殿なのでゴザルか? 総務などが担当しそうでゴザルが」
「私も総務に頼もうと思ったんですけど、誰かつけて欲しい人の希望があるか聞いたら、捨てられた子犬みたいにずっとリョタローさん、リョタローさんって言ってたので平山さんに行ってもらうことにしました」
「それででゴザルか」
「姫、姫見たでふか! 昨日のディアナちゃんの動画配信!」
「見ましたよ……サンライトミュージック脱退のお知らせと、グッドゲームズカンパニーへの移籍のたかだか5分にもならないお知らせ動画ですよね……」
麒麟は駆け込んできた椎茸が何を言いたいかわかってるようで、デスクの上でぐでっとしたまま缶コーヒーのプルタブを開ける。
「反響が凄いでふよ! 再生数わずか一日で100万越え! まとめニュースにもとりあげられて、お祭りみたいになってるでふ!」
「それも知ってます」
盛り上がっているところに高畑が顔を出す。
「それ、大丈夫なんすか? 問題が起きたのがつい先週っすよね? あの時は太陽TVが叩かれてたけど、片棒を担いだとして彼女も少なからず叩かれてましたし」
「動画はチェックしてOK出しました。特に問題なかったので。ただ私も思ったんですよ、この子人気出るだろうなって」
「どういうことっすか?」
「もうね、一挙手一投速全て可愛い。何この可愛い生き物、私と同じ
「具体的には?」
「声が甘い、甘え声って言うんですか? それでいてあの綺麗系のビジュアルのアンバランスさ。そしてうまく日本語を喋れないけど頑張って話してますって感じ。しかも女の子って大体そういうのって計算や演技でやってたりするんですけど、彼女ほんとに純粋なんですよ。卑怯だと思いましたね、私男だったらあの子持って帰りますよ」
「ま、まぁ彼女は人間って見た目100%だと実感させてくれる存在でゴザルからな」
「まさしく
「トゲはきますね姫様」
「トゲくらい吐かせて下さいよ。あんなのに参戦されたらたまったもんじゃないです。本気で靴に画鋲でも仕掛ける陰キャラに闇落ちしそうです」
「そんなことしたら姫の人気ガタ落ちでゴザルな」
「彼女が自分のビジュアルを鼻にかけるような二面性のある嫌な人だったら良かったんですけど、本気で自分の魅力を理解していない純真無垢なんですよ。そんな綺麗な目で私を見ないでくれって思いましたよ」
麒麟の脳裏にはキラキラとしたディアナの光に当てられて消え去る、悪魔の格好をした自分の姿が浮かんでいた。
麒麟はゴンゴンと額をデスクに打ち付ける。
「はぁ、なるほど。しかし、そんなに動画のびてるんですか? 炎上してのびてるんじゃないっすか?」
「ほとんど祝福と賛辞でふ」
「元よりサンライトミュージックはかなり悪名高い会社でゴザったからな」
「それがまともな会社に引き取られて、ファンたち歓喜でふ」
「元からゲーマーズタレントをやりたいとは何度も動画でこぼしていたようでゴザったからな」
「はい……思いのほか高評価で、ウチの株価うなぎ上りだそうです。時価総額にすると私たちがゲーム作ってるのがバカらしくなるので言いませんが、彼女一人で私たち全員が束になっても敵わないくらい貢献されています。しかもそれをたった一日でやってのけました」
「もう絶対クビにできないでふね」
「はい、社長は喜んでました。それとディアナさんに使うはずの契約金が当初の予定の3分の1以下でおさまったので、更に雇用を拡大してもいいと認可もおりてます」
「もしかして拙者らに今まで足りなかったのはバグ取りなどではなくてプロモーションでゴザったか?」
「言わないで下さい。それを言ってしまうとゲーム屋がゲームを作る意味を見失ってしまいます」
「ぶっちゃけ良いゲーム作るより、人気で可愛いタレントに楽しくゲームさせてた方が売り上げ上がるってことですもんね」
「言わないでーーーーー!!」
麒麟はゴンゴンと激しくデスクに頭を打ちつける。
「でも姫様が心配してることは起きないっしょ。それだけ売れっ子なら男の影があるだろうし、平山ちゃんは平山ちゃんで超鈍感系だし」
「あの人たまに変に鋭い時あるんですよね。後、彼女に男はいません。その辺はサンライトミュージックがしっかりやってたみたいで、言い寄る男は全てシャットアウトしてたのと、しつこいものに関してはマジで法的処置をとって追っ払ってました。イメージ操作ではないですが、あの会社外から守ることに関しては優秀でしたよ」
「金のなる木に虫を寄せ付けたくなかっただけでしょ」
「籠の鳥でゴザったがな」
「そうですね、彼女本当にサンライトミュージックに軟禁状態にされてたみたいで外出もほとんどできず、ずっと歌の練習ばかりさせられていたそうです」
「可哀想に」
「しかもとうの本人は本当に人見知りで、ライブをするときは始まるまでずっと吐き戻しを繰り返していたそうです。ZAKのメンバーは彼女を残して辞めてしまって一人っきりだし、サンライトミュージック社長の泣き落としで辞めるに辞められなかったそうですよ」
「許せんでゴザルな」
「しかしなんで彼女一人でZAKでい続けたんでふかね? もう一人しかいないなら解散でソロとして活動するでふ」
「そうっすね。ミュージシャンが看板下ろさない理由って、ネームバリューがあるからでしょ? でもZAK自体にそんなものはないし」
「サンライトミュージックがメンバーを補充するつもりだったでゴザルか?」
「いえ、違います。辞めて行ったメンバーがもしかしたら帰って来るかもしれないから一人で待ち続けていたようです」
彼女がたった一人になっても元の仲間を待ち続けた光景を想像して、全員は押し黙った。
「だからZAKの名前は残した…………孤独だったでしょうね」
「彼女はメンバーのことを真に仲間だと思っていたのでゴザろう」
「しかしメンバーはそうは思ってなかった」
「ZAKⅡを作った時点で自分たちのことしか考えてないのは丸わかりでゴザル」
「でも、そんなに人見知りじゃ日常生活に支障出るでふ」
「はい、しかも日本語もまだちゃんとマスターできてませんしね」
「やっぱ誰かつけた方がいいんじゃないですか? 平山ちゃんとか」
「拙者もそう思うでゴザル」
「なんならぼくがずっとサポートしてもいいでふよ」
「椎茸殿、彼女にチクるでゴザルよ」
「や、やめでほしいでふ! ぼく今人生の絶頂でふよ」
「よく絶頂でそんなこと言おうとしたっすね」
「でも、ディアナちゃんは超では言いあらわせないほど可愛いでふよ」
「氷の妖精を二次元から連れて来たみたいな女子でゴザルからな」
「私も、遼太郎さんつけるしかないかなーって思ってるんですけど、つけたら関係発展しそうだし、つけないと私が嫌な奴みたいだしで……あーーー誰か助けてくれーーー」
麒麟はゴスゴスとデスクに頭を打ちつける。
「姫も大変でゴザルな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます