第70話 にゃんにゃんバー
岩城たちとディアナの話で盛り上がった翌日
「ふぅ……困りましたね」
遼太郎はボロいアパートで洗濯物を干しながら、天気が良いにも関わらず暗闇を作り上げている高層マンションを見上げる。
しばらく前から何か工事をしているなとは思っていたのだが、まさかこれほど巨大なマンションが出来上がるとは思っておらず、周りにそんな大した施設があるわけでもないのに、なぜこんなところに建てたのか謎でしょうがない。
高層マンションのおかげで、遼太郎の住むオンボロアパートは完全に日照権を失い、昼間も薄暗く、日がささなくなってしまった。
「しかし……家賃月いくらなんでしょうね、ここ」
恐らく自分の想像をはるかに超える恐ろしい額なのだろうと天上人の暮らし想像する。
するとマンションの前に高級車がとまると、そこから強面のサングラスに黒スーツとあからさまな人が下りてくる。
そして、マンションの自動扉が開くとサングラスに帽子を被った少女が姿を現し、高級車に乗り込んでどこかへと出かけて行った。
「なんだろ、芸能人だろうか? オーラのようなものがありますね……」
やはり良いところに住んでる人はタダものじゃないんだなと実感する。
「しかし、本格的に引っ越しを考えた方がいいかもしれませんね……」
多分帰ってきても洗濯物乾いてないんだろうなと諦めて小さく息を吐いた。
朝の洗濯を終えて、満員電車に揺られながら出社すると一息つくまもなく遼太郎は麒麟に呼び出された。
「すみません遼太郎さん、少しお話があるんですが」
「はい、なんですか?」
昨日岩城たちが言っていたゲーマーズタレントの話かな? と当たりをつけて会議室へと入る。
「イベント前でごたごたしている最中にすみません。コミュニティチームから上がって来た案件で少し気になることがありまして」
会議室の中には矢島を始め、岩城、椎茸の姿もあった。
自身の予想が外れ、トラブルの話だとわかり遼太郎は配られた資料に目を通す。
「こ、これは……」
遼太郎に苦笑いがこぼれる。それもそのはず、資料に載せられていたのはどこかのホームページをそのまま印刷したものである。
「にゃんにゃんバー……ですか」
「まったくけしからんでゴザルな」
にゃんにゃんバーへようこそ! と書かれたホームページは、きわどい格好やバニースーツを身にまとった女性プレイヤーが映っており、風俗店のホームページと勘違いしてもおかしくないほどデキが良い。
メタルビースト、イーストサイドベースにて毎晩22時から営業中、来てねとハートマークが書かれている。
「なんですかこれ?」
「キャバクラでふよ。ガールズバーの方がわかりやすいでふか?」
「ガールズバーって……当たり前ですけどゲーム内で飲酒なんかできませんよ?」
「遼太郎さんアルコールタブレットって知ってます?」
麒麟はドンっと机の上に瓶詰の錠剤を置く。
「サプリですか? 結構前から流行ってますよね、摂取するのが早くて楽ですから」
「ええ、このアルコールタブレット凄くてですね、徐々に酔っていく、本当にお酒を飲んでいるような感じで気持ちよくなれるんです。酒税が上がってきてるんで、これとジュースで代用するという方も今時少なくありません」
「凄いですね。時代はVRだけじゃなくて医薬品も進歩していますね」
「問題はそこじゃなくてですね。そのにゃんにゃんバーに行っているお客さんは、それを飲んでほろ酔い気分になりながら、接客してくれる女の子とトークを楽しむそうです」
「はぁ、それでキャバクラと」
「はい、VRゲームに限らず自由度の高いゲームでは結構よくある話なんですよ。そういったお店屋さんごっこをするっていうのは」
「現実じゃできないことができるのがゲームのいいところですしね。
「ただですね、問題はこのにゃんにゃんバーお金をとってるかもしれないという疑惑が上がっていまして」
「お金ってゲーム内マネーですか?」
「いえ、リアルマネーの方です」
遼太郎は麒麟がすぐに会議を開いた理由がわかった。
ゲーム内での実通貨のやりとり、賭博などはゲームの利用規約だけでなく法律の方にも引っかかり、野放しにすると最悪ゲーム事態がサービス停止に追い込まれるケースもあるのだ。
「それは具合悪いですね」
「はい、ゲーム内でユーザー同士が実通貨を使い営業するのは当然ながら利用規約にも違反しています」
「けしからん、実にけしからんでふ!」
「一応
「なるほど」
「平山殿、今回は微力ながら拙者らも協力するでゴザル」
「そうでふ、頼もしい味方だと思ってほしいでふ」
頼もしいに疑問符が浮かんでしまうが、なぜ岩城たちがいつもはいないユーザートラブルの話で顔を出しているのか理由は言わずともわかった。
「わかりました。行って話を聞いて確かめてみます」
「お願いします。とりあえずこの話はこれで終わりです。えっと、ここからは遼太郎さんと矢島さんだけ残って下さい」
岩城と椎茸が退室すると、麒麟は当初予想していた内容を話す。
「平山さん、ゲーマーズタレントって知ってますか?」
「ええ、昨日岩城さんたちから聞きました」
「なら話が早くていいですね。上からメタルビーストのプロモーション用の予算が今更ながらおりてきたんですよ。そこで新しい展開がほしいということで宣伝部と協議した結果、ゲーマーズタレントさんを専属で起用してはどうかという話が出てるんです。勿論まだ決定はしていないんですが、平山さんはどう思いますか?」
「すごく良いと思いますよ。ゲーマーズタレントさんは動画サイトで見ない日はありませんし、大手ゲーム企業では何人も専属で雇用してます。むしろグッドゲームズカンパニーで専属はおろか、タレント事務所等に外注すらしてないとは思ってませんでした」
「はい、私は映像を動画配信するというのはネタバレ的な意味を考えるとあまり賛成な方ではないのですが、メタルビーストはストーリーよりビースト同士の戦闘がメインですのでそれを楽しくプレイして新規の顧客を引き込めるならありだと思っています。一応宣伝部の方から何人かピックアップしてもらってますので、この中で知ってる方はいますか?」
麒麟がタブレットに写真を表示させて遼太郎に見せる。
するとそこには岩城が選んだ人選と大きくかわらないゲーム実況者やムチューバー、お笑いタレントの写真が並んでいた。
「動画配信者のブックマーク登録者が多い方を優先していますが、平山さんがおすすめの方などがいらっしゃいましたら」
「……この方がいいんじゃないかと」
「あら、決めるの早いですね」
遼太郎が表示させたのは昨日見ていたディアナの写真だった。
「あぁ、この方ですか……シャレにならんくらい可愛い人ですね。これだから海外の方は基本スペックが段違いで嫌にな……」
麒麟がなにやら含みのある言い方をすると、気のせいか背中に黒い炎が見える。
「ちなみに何か理由はあるんですか?」
「なんというか純粋そうで、これだけ可愛いのに嫌味がない子だと思いまして。後、彼女の歌が凄いです」
「歌は私も聞きました……確かにこの若さで凄い実力を持ってる人だと思います。……わかりました、彼女に連絡をとってみましょう。一応面接をしてから正式決定ということになりますが、できれば次のイベントに間に合わせたいのでスケジュールを早めに組みます」
「えっ、いいんですか? 僕の意見で簡単に決めてしまっても」
「実は宣伝部からもこの子を使ってみてはどうかと言われてたんです。ただ彼女所属してる音楽事務所がややこしいところらしくて、借り受けるなら足元見られるかもって言われましたけど」
麒麟は親指と人差し指で丸を作り、苦い顔をしている。
どうやら事務所に相当中抜きされるようだった。
「費用分の価値があるとは私も思いますので、この話はこのまま進めます」
「わかりました、よろしくお願いします」
「遼太郎さんは調査の方お願いしますね」
「はい」
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