第69話 ディアナ

 岩城がディアナの写真をタップすると、彼女が歌を歌っている動画が表示される。


「うわ……歌唱力が凄いですね」

「天才的歌唱力に、この美しいビジュアル。人気が出ないわけないでふ」

「そして少し天然のはいった性格も魅力的でゴザル」

「冷たい雰囲気があるでふが本人は大の寒がりで、自身のFAICEB〇OKには暖めてくれる方募集と書いてるでふ」

「う~む暖めてあげたいでゴザルなぁ! ちなみに彼女日本語ほとんど喋れないし、字は全く書けないらしいでゴザル」

「それ絶対FAICEB〇OKに書きこんだ人と本人別人ですよね!?」

「本人はゲーマーズタレントをやりたかったみたいでふが、動画サイトでよくある歌ってみたの方で有名になっちゃって、ゲーム会社より先にミュージック会社に声をかけられたみたいでふ」

「企業さんも動画サイトには注目してますしね」

「広告料がタダというのは非常に大きい上に、動画サイトはちゃんと数字で何人が見たかというのがわかるでゴザル」

「重複の可能性はありますが、視聴率とほぼかわりませんしね」

「それでは平山殿に問題でゴザル。現在CGを使用した30秒CMの製作っていくらくらいかかるかわかるでゴザルか?」

「有名タレントを起用すると、めちゃくちゃ制作費が上がるとは聞いたことありますけどCGですか? う~ん、それでも1000万くらいかかるんじゃないですか?」

「答えは大体1億くらいかかるでゴザル」

「高いですね……」

「静止画とか、平山君が言った通りタレントを起用しなければもっと安くですむでふが、今時そんなこじんまりとしたCMはないと言うより出しても意味がないでふ」

「昔はゲームのCMって山ほどやってたでゴザルが、今見るのは有名大作VRRPGかスマートデバイスの通称もしもしゲーのCMくらいでゴザろう?」

「確かにそうですね」

「つまり利益を上げてるけど細々とやってるコンシューマーゲーム会社には、もうCMを出せるだけの体力がないでふ」

「大学の企業説明会でゲーム会社さんと何度かお会いしましたけど、PSVINTAのゲームを三人で作ってると聞いて驚いたことを思い出しましたよ」

「ゲーム企業がケチれるところって言うと広告費と人件費でゴザルからな。それはゲーム業界衰退の歴史とも呼ばれてるでゴザル」

「VRで盛り返して良かったですね」

「全くでゴザル。と、話が脱線したが、とにかくそれくらいゲーム会社にとっては広告費を安くあげ、最悪ゲーム誌に取り上げられる程度で他はなくてもいいやと思われるくらいの存在だったでゴザル」

「しかしそれを覆したのが動画サイトでふ」

「それがよくわかんないんですけどゲーム実況って本当にあれ売り上げに繋がるんですか? ゲーム実況で満足して、ゲームは買わなくてもいいやってなっちゃう人もいると思うんですけど」

「確かにそう言ったユーザーもいるでゴザルが、話題になる、人の耳に入るというだけでも広告の効果はあるでゴザル」

「それともう一つ。ゲーム実況者ってほぼ8から9割くらいの人がゲームに対して悪口を言わないでふ」

「叩かれるからですよね」

「左様。ゲーム実況者やムチューバーと呼ばれるゲームをプレイする方々はどれだけゲームが面白くなくても褒めようとする努力をするでゴザル」

「不特定多数が見てますから、そのゲームを好きな人がバカにされると怒りますからね」

「ムチューバーやゲーム実況者はそのゲームで再生数を稼いでるわけでゴザルから、やはり強くはでられないでゴザル。中にはそういったクソゲーを叩いて動画にする例外は存在するでゴザルが、それはあくまで誰が見ても酷いと言わざるをえないゲームを対象にしてるでゴザル」

「それがCMになると」

「まだあるでゴザル。平山殿はムチューバーの一般的な動画を見たことあるでゴザルか?」

「ありますよ? ガチャやってみたとか、コーラ風呂入ってみたとかですよね」

「そう、何か気づかなかったでゴザルか?」

「何かですか?」

「ムチューバーってね。なぜかみんな同じゲームをするんでふ。不思議でふね……」

「それも4年も5年も前のデバイスゲーを……」

「それってモンスターを弾いて遊ぶ……」

「不思議でふね。なぜか有名ムチューバーに限ってそのゲームが大人気なんでふ」

「そ、それはたまたまムチューバーたちが好きなだけじゃ……有名ゲームですし」

「たまたまで同じゲームだらけになったりするでゴザろうか? 新しいもの好きの配信者なら普通もっと新しいゲームを取り上げるのではゴザらんか?」

「有名ムチューバーが所属している事務所ごとにガチャ動画を分けてみたら面白い結果になるでふふふよ」

「それはつまりムチューバーの事務所にゲーム会社がお金を払ってやってもらっていると?」

「そこまでは拙者言ってないでゴザル。しかし真偽はどうかわからぬが、実際そのゲームは今でも人気コンテンツでゴザル。それはつまり人のいるところに人は寄って来る。このゲーム、あの有名実況者もやってたし人気なんだなと無垢な視聴者は思うでゴザル」

「腐った大人たちは、その裏側を読もうとするでふふふふが」

「今では動画サイトは企業広告になりつつあるってことですね」

「そういうことでふ。話を戻すでふが確かディアナちゃんが所属しているのはサンライトミュージックとかいう小さい会社でふね」

「彼女のように視聴者をもっている有名配信者をメタルビースト専属のゲーマーズタレントにすれば、彼女の数字を取り込めるでゴザルよ」

「なんか企業の方が、素人さんのファンをあてにするのってどうかと思うんですが」

「綺麗ごとなんて聞きたくないでゴザル。彼女のお気に入り登録者数は200万を超えてるでゴザルよ! ちなみにメタルビースト公式動画配信の登録者数は55万人、グッドゲームズカンパニー全体の動画配信登録者数は180万人、会社の登録者数全部合わせても彼女一人の登録者数には届かんのでゴザル!」

「ウチの4倍客持ってるでふよ!」

「いや、そこまでいくと、もう彼女仕事選びたい放題でウチを相手にしてもらえないんじゃないですか?」

「言われてみればそうでゴザルな」

「でも、彼女がサンライトミュージック以外、どこかに所属しているという話は聞いたことないでふ。というか最近は音楽の動画ばかりで、もしかしたらゲーム自体に興味がなくなってしまってる可能性も微レ存でふ」

「むぅ、もしやそのミュージック会社が他社とは契約してはいけない独占ライセンスを結んでいる可能性があるでゴザルな」

「サンライトミュージックって確か音楽会社ではめちゃくちゃ評判悪いとこでふ……」

「ダメじゃないですか」

「でも、そんなの聞いてみないとわからんでゴザル」

「そうでふ! やる前から諦めるのはよくないでふ!」


 むぅと遼太郎が唸っていると、彼女の歌が終わり関連した動画が自動再生される。

 すると、突如モンスターに襲われたり、強風にあおられてスカートを必死におさえるなどのVRゲームのプレイシーンが映し出されている。


「なんですか、これ?」


 タイトルを見ると、ディアナちゃんパンチラ集まとめと書かれており、再生数が凄まじいことになっていた。


「彼女、ゲームの配信をやっている時もそうでゴザルが、妙に隙が多いというか、まだこちらの生活に慣れていないというか」

「別ゲーで妙に乳が揺れるから、なんで? って動画コメントで聞かれたとき、ブラしてませんって言いだして、ぼくこの子に一生ついていこうって思ったでふ」

「もう良い歳した大人が、自分より一回り小さい女の子のパンチラで興奮しないでください。悲しくなってきますよ」

「エロに下限も上限もないでふ。年が行けば勝手に下限がふえていくでふ」

「自分で限度は設けて下さい」

「平山殿も見ればわかる。彼女の尻を」


 遼太郎が顔をしかめていると、別のVRゲームをプレイしているディアナのプリーツスカートが風でまくれあがるシーンが映し出されている。

 その時むちっとして、たわわな尻肉にパンツが激しく食い込んでおり、尻の半分ほどがはみ出している。


「たまに海外人女性の方で、ほとんどお尻見えてるよね? って言いたくなるホットパンツはいてたりしますが……これは」

「拙者おっぱい派でゴザルが、彼女を見て初めて寝返りそうになったでゴザル。今ならかの有名な石田三成殿のお気持ちがわかるでゴザル」

「歴史家に助走してからのグーで殴られますよ」

「ちなみにお尻ばっかりに目がいきがちでふが、彼女のセーターを着た時の破壊力は凄まじかったでふ」

「女神……でゴザったな」


 遼太郎は擁護しようがないくらい岩城と椎茸の気持ち悪さに顔を引きつらせる。

 見ていて恥ずかしくなってくるので、次の動画に進むボタンを押すと、今度はまっとうなバンドグループの音楽が流れる。


「それは確かZAKⅡでゴザルな」

「あれ? 確かディアナさんが所属しているのってZAKですよね? 姉妹ブランドとかですか?」

「一応ディアナちゃんの肩書はZAKでふが、彼女以外事務所を脱退してるでふ」

「ディアナちゃんが途中から入ってきて爆発的人気を得たでゴザルが、完全にディアナちゃんのワンマンチームでゴザったからな」

「ディアナちゃんを抜いて別事務所でZAKⅡとして再結成したらしいでふが、これが鳴かず飛ばずで」

「完全にディアナちゃんの人気だったと痛感しているでゴザろう」

「気の毒でふが、彼らだけでは多分やっていけないでふよ」

「……ZAKは残ってるのにZAKⅡができあがってるんですか……なんか変な話ですね」


 遼太郎は引っ掛かりを感じつつも、ディアナの名前だけはしっかりと覚えたのだった。

 しかしそれよりも気になるのが、この少女どこかウチの鬼の副社長と面影が被るのだが、そのことに気づいているのは遼太郎一人だけであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る