8thG ゲーマーズタレント編

第68話 ゲーマーズタレント

 いつも通り昼食後の休憩時間を会社の談話室で過ごす遼太郎、岩城、椎茸の三人は岩城の所持していたタブレットで大手動画配信サイトMUTUBE《ムチューブ》を閲覧していた。

 そこには様々な動画が並んでおり、ジャンルは多岐に渡っていて、配信者の数だけ種類があると言っても過言ではなかった。今や動画配信は老若男女問わず、手軽に楽しめる娯楽文化の一つとして広く浸透していた。


「平山殿、ゲーマーズタレントって知ってるでゴザルか?」

「今話題になってますよね。確か昔はゲーム実況者って言われてましたよね」

「そうでゴザル。ゲーマーズタレントの歴史は古く、一昔前のストリーミング配信時代に遡るでゴザル。昔は顔出しが少なかったが、近年のVRオンラインゲームに関しては顔出しは当たり前でゴザル」

「海外ではゲームをしながら自撮りするのは普通でしたが、日本にその文化が浸透するまではかなりかかりましたね」

「左様、VRオンラインゲームでは顔を隠せないと言うのがそもそもの原因にあるでゴザルが、動画実況がVRに対応するにつれて、企業達はその配信者に目をつけたでゴザル」

「素人さんでもトークがうまい人は本当にうまいですし、プレイがうまい人は見ていて引き込まれますしね」

「ゲームの面白さを直に伝えてくれるものとしてゲーム企業がその配信者をタレントとして起用し、後にゲームばかりに出演する人間をゲーマーズタレントと呼んだのが始まりでゴザル」

「平山君、そこで気づいたことはないでふか?」

「気づいたことですか? ゲームがうまいとかじゃなくてですよね?」

「もっと視覚的なものでゴザル」

「視覚的?……すみません、ちょっと出てこないですね」

「ぶっちゃけ美少女やイケメン多くねって話でふ」

「はぁ……まぁ、そうですね。確かに企業が使われているゲーマーズタレントに関しては容姿のよいかたが多いですね。でも、別に容姿とゲームは関係……」

「シャラップ! 綺麗ごとはいいでふ!」

「綺麗ごとって……」

「平山殿は会社の受付窓口の仕事、こう言っちゃなんでゴザルが愛想が良ければ誰でもできそうと思わんでゴザルか?」

「受付も大変ですよ、終始見られてますし、いつ誰が来るかもわかりませんし。来客者によって対応をかえたりする必要もありますから」

「そういう形式ばったフォローはいらないでゴザル。ぶっちゃけ専門的なスキルを必要としないでゴザろう。別にVR言語覚えてなくても、特殊な資格がなくてもできるでゴザル」

「それはそうですが」

「ならば、そこにむさいおっさんを配置してもいいわけでゴザる」

「それは、そうですね」

「しかし大体どこも綺麗なお姉さんがやってるでゴザル」

「会社の顔になるからって言いたいんですよね?」

「その通りでゴザル。会社の中に入って、まず目につくのは受付でゴザル。そこにむさいおっさんを配置してても業務には支障ないでゴザるが、支障ないなら綺麗なお姉ちゃん据えてる方が来客者の気分はいいでゴザル」

「それは、そうですが」

「つまり適性の話でふ。ぶっちゃけスポーツキャスターやお天気お姉さんだっておっさんでいいわけでふ。それをあえて可愛い女の子にしているのは、どっちでもいいなら綺麗なお姉さんの方が見た目いいじゃんってことでふ」

「はぁ、そう考えると受付職の難易度がめちゃくちゃ上がりましたね」

「少し回り道したでゴザルが、それはCMにも同じことが言えるでゴザル。平山殿、暑い夏にビールを運んでくるのが綺麗なビアガールの方がいいでゴザろう」

「あっ、ボクお酒飲めないんで」

「そんなこと聞いとらんでゴザル! 本題はこのゲーマーズタレント、うちでも起用したらどうかと案が上がっていてだな。近く姫からその議題が上がるはずなのでゴザル」

「はぁ、つまりPR戦略を兼ねた企画ってことですか」

「その通り、企画と言えば平山殿! 姫は平山殿の言うことなら大体なんでも聞くでゴザル! そこで拙者らの願いを聞き届けてほしいでゴザル!」


 岩城はタブレットを取り出すと女性の画像をずらりと表示させる。


「これは……」

「現在世界各国でゲーマーズタレントとして登録している綺麗どころで、拙者らがえりすぐった精鋭タレントでゴザル」

「…………あの、これホワイトナイツのヴェルティナさんや、テキサスファイアのグレースさんの写真が入ってるんですが」

「彼女達もゲーマーズタレントとして登録してるでゴザルよ。ちなみにそのお二方は既にメタルビーストを非公式で配信してるでゴザル」

「動画の再生数も凄いことになってるでふ」


 椎茸がページを表示させると、確かにヴェルティナとグレースの動画再生数は他者のタレントと桁一つ二つ離している。


「そうそう、それを公式に引き上げてはどうかと思ったでふ」

「はぁ……でも、メタルビーストは女性人気の方が低いですから、起用するならイケメン男性を使って女性人気を確立した方が……」

「イケメンにつられてホイホイやってきた女がこのゲームを長く続けるわけがないでゴザろう!」

「そうでふ! 今日の装備はAZX-120ミリランチャーにしようか、それともRSN-22ハンドカノンどっちにしようかしら? なんてスイーツ女子がいうわけないでふ!」

「それ完全にブーメランなんですけど……」

「とにかくここに映っている女性達は全て拙者ら一押しで、どの子も良い子たちばかりでゴザル。平山殿の判断材料にしてみてはどうかと」

「それは確かにありがたいですね」


 ザッとタブレットに表示された画像を見ていくと、遼太郎はむっと唸る。


「あの、この子パンツ見えてるんですけど。っていうか見せてるんですけど」

「エロで男を釣るのは常識でゴザろう! ちょっとエッチなサムネイルにするだけで視聴者数がドカンと増えるなら誰だってやるでゴザル!」

「タレントは視聴者が増えて嬉しい、視聴者はエッチなのが見れて嬉しいWIN、WINのこの関係のどこに問題があるでふか!」

「倫理機構ですかね……」

「あんなしょうもないCEROAだのBだの適性年齢を決める邪悪な機関など滅びてしまうでゴザル!」

「ゲーム関係者がそれを言いますか……」


 呆れながらもタブレットをスワイプしていくと、一人の少女の写真で遼太郎の手が止まる。

 透き通るように白い肌の少女で、美しい光沢を放つ銀色の髪に、エメラルドのような碧色の瞳、切れ長く少しだけ目じりが上がっているが、気の強さは感じず、その白さからまるで氷の妖精のような雰囲気がある。

 振り向きざまに撮られた写真なのかキョトンとしていて小動物的表情が印象的だ。

 桜色の唇が小さく開き、上品な顔立ちはどこか世間を知らぬ純真無垢さが感じられる。

 男装すれば線の細いイケメン。女装すれば氷細工のような美少女と、美しい顔立ちは中性的にも見える。


「ディアナちゃんでふね。平山君いいところで止めるね」

「あまり深くは考えてなかったんですが、つい止まりました。綺麗な子ですね」

「ロシア人で、ゲーマーズタレントからゲームミュージックなど幅広く活躍するユニットZAK《ザク》のボーカルでゴザル。確か現在は親元を離れて日本のミュージック会社に所属してるとか」

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