第58話 グレース・サンダース
トニーからの通信が切れると、今度はアントニオからの通信が開く。
「勝負を始めるぞ。ジャパニーズ、貴様はあくまでサポート以外はするなよ」
「了解です。あっ、バトルフィールドはこっちで選んでいいですか?」
「あっ? なんでテメーが決めるんだ」
「こちら初心者ですよ? フィールドくらい初心者さんに決めさせてあげた方がいいと思うんですが。バトルコングならフィールドを選びませんよね? まさかこれだけレベル差と機体性能差があって負けるわけないと思うのですが」
「……ふん、勝手にしろ」
「ありがとうございまーす」
遼太郎はサクっと挑発して、フィールド選択権を得るとインスタンスフィールドを市街地に設定する。
周囲の景色がテキサスベースから荒廃した遮蔽物の多い市街地へと切り替わる。
「ふん、こちらの長距離兵器を封じたつもりか。だが、それは貴様のランドバイソンも同じこと。むしろ長距離射撃主体のランドバイソンの方が封じ込められる武装は多い。市街地に逃げ込むつもりだろうが、バトルコングに遮蔽物なんて意味はないと教えてやる」
遼太郎とグレースの搭乗する
「それじゃあカウント行くぞ! 勝負は一回きりだ! 延長も引き分けも認めねぇ!」
トニーが両者の通信ウインドウを開き、戦闘のカウントをとる。
「5、4、3、2、1、0!!」
カウント0と共にビースト形態のランドバイソンが先に動き、猛スピードで市街地へと突き進んでいく。
バトルコングは同じくビースト形態で肩に搭載されたミサイルポッドを連射しながら追いかける。
「通常二足のビーストは四足のビーストには追いつけないようになってます。市街地の中心に向かって下さい」
「OK!」
背後から迫るミサイルを無視し、錆びて朽ち果てた市街地をランドバイソンは突進していく。
しかしあまりにも入り組んだ地形は、小回りの利きにくい重装備ビーストにカテゴリーされるランドバイソンではスピードが出にくい。
同じく重装備のはずのバトルコングはカーブを曲がるときに側面に装備されたスラスターを使用し、ありえないほどの直角のカーブを可能にしており、みるみるうちにランドバイソンとの差を縮めてくる。
「ほら、ケツ振って逃げろ逃げろ!」
バトルコングは全ての兵装を一気に解放し、凄まじい火力を見舞ってくる。
ロケットの発射音や、ガドリング砲弾が真横を通過する音はこちらを嫌が応にも焦らせる。
目の前の巨大なセンタービルが流れ弾の着弾により倒壊し、ランドバイソンの頭上に残骸が降りそそぐ。
グレースはそれを迎撃する為、背中に装備されたランチャー砲を操作する。
だが、遼太郎はスロットルを無理やり上げてランドバイソンを加速させた。
「NO! なぜです!?」
「迎撃している隙に追いつかれます! それに迎撃しなければビルが道を塞いでくれます!」
確かに間一髪通り過ぎたセンタービルの残骸は道を塞ぎ、バトルコングを遮っていた。
しかし間髪いれずに残骸は粉々に吹き飛んだ。
バトルコングの重破砕機のようなアイアンナックルが残骸を吹き飛ばしたのだった。
「これだから重火力機は」
「NO、ミーたちもそのカテゴリーです」
「やるのは好きですけど、やられるとたまりませんね。とにかくカーブを多く曲がって下さい!」
ランドバイソンは次から次に市街地を曲がり、機体をこすりながらも無理やりにでも曲がっていく。
対照的にバトルコングは直角カーブで滑るように曲がり、ロスなくこちらとの距離を詰めてくる。
「ふん、どうせスラスターのガス欠狙いだろうが、そうはいかないぜ。さっさと決着をつけてやる」
バトルコングは肩部のミサイルポッドを連射すると、爆煙が視界を遮る。
驚いてランドバイソンが止まるが、遼太郎はグレースのかわりにアクセルペダルを踏みこむ。
間一髪今までいたところにビーム砲が撃ち込まれ肝を冷やす。
「コントロール
「それならなぜもっと機動力の高い機体にしなかったのですか?」
「レベル1の機体で機動力重視の機体だと100発撃っても重装甲のバトルコングは落ちないんです。一番火力の高いランドバイソンでも一斉射撃を当てないと恐らく落とすことはできません」
「クソゲではありませんか!」
「レベルカンストしてる機体にレベル1が勝ってしまう方がバランスとしては問題です!」
リアルな爆発が目の前で起こり、そのあまりに迫力のある爆発にグレースは手で顔を覆ってしまう。
「最新のゲームとてもリアルで、とても怖いデース」
「お願いですからスティックは離さないで下さい!」
遼太郎は叫ぶがグレースはことあるごとにスティックを離してしまう為、その度に機体が大きく揺れ、何度も建物に激突を繰り返してしまう。
コクピットが揺れるたびに二人の体は大きく揺れ、特に隣で立っている遼太郎の揺れは激しくグレースのおっぱいに何度もダイブする。
「あぁ、もうここにいてくだサーイ!」
遼太郎は彼女の股下にしゃがまされ、頭におっぱいを乗っけながらゲームを続ける。
「こんな早くに使うつもりはなかったのですが。R2トリガーを押しながら▽ボタンを押してください!」
グレースが言われた通りにボタンを押すと、ランドバイソンの背面に装備された11門のランチャーから眩い光を放つ照明弾が発射される。
「チィ、子供だましが!」
アントニオはほんの数秒であったが視界がゼロになり敵の姿を見失ってしまう。
「バカな!? あの巨体を見失っただと? チッ、あのメカニックだな……。小手先だけは得意な野郎だぜ」
バトルコングはゆっくりと歩き出す。重装甲重武装にした弊害として、レーダー類は非常に弱く、ほんのわずかなジャミングですら敵を見失ってしまうのだった。
バトルコングはランドバイソンに気づかず、目の前を通りすがっていく。
数秒して何もない場所からランドバイソンの姿が浮かび上がる。
「なぜこちらに気づかず行ったのデスか?」
「
「では、どうするデスか?」
「僕の予定ではバトルコングのスラスターユニットに入っているガスをなくしてしまうはずだったのですが、これでは恐らくガスが切れたとしても追いつかれてしまいます」
「NO、それはなぜデース?」
[お前がすぐ操縦桿から手を離すからだ]
戦闘の様子をモニターしていたグレースの兄、トニーからの通信が入る。
[アントニオはその辺グルグル回ってるが、戻ってくるのは時間の問題だ]
「まずいですね。グレースさんスティックだけは離さず、目をつむらないでください。リアルですが、これはただのゲームのエフェクトです。熱を少し感じるかもしれませんが、それも作りものですから実際に怪我をするなんてことはありません」
と言いつつも、遼太郎はこれがVRゲーム初心者がよく陥るVRショック現象であることは理解していた。
脳が唐突な非現実に驚き、いつも以上に防衛行動を体に命令してしまう行為であり、すぐに慣れるものではあるがVR全くの初心者であるグレースにはその効果が強く表れているとわかっていた。
「し、しかぁし、条件反射で顔を覆ってしまいマース」
[すまねぇジャパニーズ、グレースは子供のころからタレント業をしているから、顔の傷は命とりになる分、半ば反射的に顔を守っちまうんだ]
「そうでしたか、困りましたね」
[グレース、バイクにはノリノリで乗るくせに、なんでゲームになったらダメになるんだ]
「バイクは目の前で爆発なんておこりマセーン!」
「ごもっとも……バイク? バイクに乗られるんですか?」
[ああ、こいつバイクで事故ったときはハンドル離さなかったんだぜ]
「あれは体が固まってただけデース」
「確かにライダーシートの方が手を離しにくい設計になってますね……。パイロットシートをバイク型に変更しましょう」
「そんなことできマスか?」
「本来は高機動型ビーストのシートなんですが、そっちの方がグレースさんにはあってそうだ。確かにあっちの方が姿勢的にスティックを離さない設計になっているし……」
遼太郎は一度コクピットからグレースと一緒に外に出ると、すぐにタブレットを使用してランドバイソンのセッティングをかえていく。
「アクセルハンドルの遊びをかえて、キーコンフィグはマニュアル操作からセミオートに変更して、グリップの設定とギアチェンジペダルに操作を分散させて、ロックオンはシステムアシストと網膜センサーに切り替え、武装の選択はギアチェンジやってしまおう」
凄まじい勢いでセッティングを行う。
その最中ズンズンと音をたてて何かが近づいてきているのがわかる。言わずもがなアントニオのバトルコングである。
「へへ、見つけたぜ。二人仲良く外に出て何やってんだか。なんでもいい、仲良くゲームオーバーだ!」
バトルコングのミサイルポッドが発射される。
「出来ました、中に!」
遼太郎はグレースをコクピットに引きずり込むと、すぐさまコクピットハッチを閉める。
直後、爆発が機体を揺さぶる。
「オーッこれならいけそうデース!」
バイクシートに騎乗すると、グレースは大きなお尻を遼太郎に突き出す。
遼太郎は後ろからグレースの腰に手を回して二ケツ状態でシートに座る。
「アクセルとスロットル、武装の切り替えは僕がやります! グレースさんは操作だけに集中してください!」
「イエッサ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます