第55話 指輪

 こうして次のイベントは決まり、開発室はテストやバグ取りにおわれるのだった。

 公式サイトでは既にイベント内容が告知されており、ネット掲示板では誰と組むかや、商品の話などで大いに盛り上がっていた。

 そんな中第三開発残留が決定している高畑がタブレット片手に、最終調整を行っている遼太郎の元に来る。


「平山ちゃん平山ちゃん」

「どうかしましたか?」

「イベントのこと、もうネットで話題になってるよ」

「いいことですね。フォーラムでも既に募集が始まってたりします。しかしバトリングより前に予定されてるシーズンイベントが完全にスルーされているのが少し悲しいですが」

「シーズンイベントなんて大体お使いやって、アイテム貰って終わりってのがほとんどだからね。今年何するの?」

「さぁ? 真田さんがなんとかするみたいなこと言ってたので。フォーラムの方何か書かれてましたか?」

「それがさ、気になることがあって」

「トラブルですか?」

「そうじゃないんだけど、これ見て。まとめサイトの情報なんだけど、デルタサーバー最大ギルドホワイトナイツ、イベント告知を受け日本アルファサーバーへと大移動開始だって」

「えっ? 嘘でしょ、そんなことしたらサーバー間のバランスが」

「他にも、北米ガンマサーバー、ギルドテキサスファイア、中東ラムダサーバー、ギルドオベリスクが続々と日本サーバーへと集結だって」

「えぇ!? なんで!?」

「なんかさネット掲示板で日本アルファサーバーに、平山ちゃんのメタルウイングが参戦するって話になってるのよ」

「しませんよ!」

「そうなんだけど、これがもう各海外フォーラムに拡散されちゃって、次から次に大規模サーバーが移動してきてるのよ」

「いや、正直僕が参戦したってだからなんなんだって話なんですけど……僕個人は商品とか渡せませんよ。というか僕ってバレたら間違いなく袋叩きにされるじゃないですか」

「ほんでこれ」


 高畑は有名SNSを表示させる。

 そこにはギルドホワイトナイツのリーダーや、オベリスクのリーダーたちからメッセージが発信されている。


「僕が読めるのは日本語だけですよ?」

「どれもフランス語やアラビア語で、今会いに行きますって書かれてるんだって」

「なんですか、首を洗って待ってろよってことですか……」

「逆だよ、ジュテームとかアイニードユーとか書いてるだろ」

「愛してるですか? もう正直意味がわからない……」

「各ギルドリーダーが平山ちゃんと組む為にはるばる海外サーバーからやってきてるんだよ」

「いや、確かに僕もでますけどBリーグだから関係ないですよ。それにサーバーとの中継距離が遠くなるとどうしてもラグが発生しやすくなるので、トップ層にとっては死活問題だと思うんですけどね」

「それとはまた別に日本の神威は海外サーバーに逃げ出してるんだとよ」

「一気にトップ争いが苦しくなりましたからね日本サーバー。商品がほしいだけなら賢いとは思いますよ」

「そりゃそうなんだが、なんかこう日本のギルドは応援してやりたいところなんだよね」

「気持ちはわかりますけどね」


 二人が話をしているとコミュニティチームの斎藤が遼太郎の元へとやって来る。


「平山君」

「どうかしましたか?」

「その、君にこんなものが送られてきてるんだが」

「はぁ、なんですかこれ?」


 遼太郎に手渡されたのは示し合わせたかのように同じサイズの小箱だった。


「一応ファンの方から贈られてきたものだよ。送り主はフランスとエジプトとアメリカだ」

「嫌な予感がします。爆弾とかじゃないですよね」

「まぁ危険物ではないと思うよ。だってそれどう見てもリングケースでしょ?」

「リングケース……」

「まぁ……指輪だわな」


 遼太郎は苦い顔をいながら小箱を開く。すると三つの箱全てに大きな宝石がはまった指輪が入っていた。


「まずいですって。返却してください。これ絶対高いやつですよ!」

「それが相手の住所は書いてないんだよ」

「確信犯じゃないですか。てかなんで指輪なんですか」

「手紙ついてるじゃん」

「だから僕は日本語以外読めませんよ」

「なになに、こんなときはエキサイト先生に登場願おう。え~結婚システム……うれしい、ちがう楽しみか? 早く結婚できる、あなた、リングは前の証……予約か?」

「直訳すると、結婚システムが実装されて嬉しい、早くあなたと結婚したいです。このリングは前渡しであなたを予約しますってことじゃない?」


 斎藤が完璧すぎる訳をして、高畑が「それな」と指さし。遼太郎は白目をむいていた。


「てか平山ちゃん結婚システムなんて入るの?」

「はい、一応ネットゲームなんでそういうシステムも欲しいと言う方たちのご要望にお応えして結婚指輪と夫婦という称号を用意しました。でも別に夫婦になってもステータス上がるとかは何もありませんよ」

「じゃあ純粋に夫婦になりたいんだな」


 遼太郎は頭を抱えて唸る。


「どうしてこうなった」

「ジゴロだねぇ」

「ちなみにホワイトナイツからは100個近く送られてきてるから、後でコミュニティチームの方にとりに来てね」


 遼太郎は泡を吹いて倒れた。


「そんなにはめる指ありませんよ」

「平山ちゃん一個くらい俺や岩城さんにちょうだいよ」

「後で返却しますのでダメです」

「てかさ、このアメリカのって平山ちゃんがテキサスファイアに忍び込んだ時のものなんでしょ?」

「恐らくはそうだと思いますよ」

「テキサスファイアって確か全員野郎じゃなかったっけ? 元軍人チームっしょ?」

「あそこのリーダー、トニー・サンダースさんに妹がいらっしゃるんですよ。多分それじゃないかと」

「どういう縁なんだよ……」

「ちょっと長くなりますけどいいですか?」

「いいよ」

「拙者も聞くでゴザル」


 面白い話をかぎつけたのか、手の空いた岩城も現れる。


「あれは……」

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