第52話 ジャガーノート
「こんなところで会えるとは、助かったでゴザルよ」
神が刀を構えかけたが、遼太郎は「大丈夫、友人です」と遮る。
「ひどい目にあったでゴザル。平山殿がここにいて助かったでゴザルよ」
「生き残ってたんですね」
「そんな簡単にはやられぬでゴザルよ。ただ拙者も姫もほとんど弾が残ってなくて逃げるしかなかったでゴザルが」
「麒麟さんも残ってて良かったですよ」
そう言うと麒麟は涙目で遼太郎に抱き付いてきた。
「うわ~ん遼太郎さん会いたかったですよ!」
「ほんと良かったです」
麒麟はおーいおーいと泣きわめくと、ピタッと止まり桃火と雪奈に指を指す。
「そこの二人、後でフレンド欄見せて下さいね。パーティーわけで不正行為があった容疑がありますから」
「それはキノセイダヨ麒麟ちゃん」
「気のせいよ気のせい」
麒麟と岩城に神の紹介を行う。
「私たちは遼太郎さんたちの同僚です。っていうか上司です」
「拙者は同僚でゴザル」
「うむ、余はZINと呼ばれている」
「ZINさんってネットで見たことあります。その、物凄い課金量だとかでネットニュースで取り上げられてたり。巷では石油王だとか……」
「ははっ、よく言われている。余はゲームを愛しているからな、まずクリエーターにお金を払い敬意をはらうところからゲームを始めることにしている」
「なんていい人なんだ……」
「まさしく神でゴザル」
クリエーターたち全員がグズグズと涙を流す。
「ってかなんで皆水着なんですか。遼太郎さんなんか完全に変態紳士じゃないですか」
麒麟がようやく全員の水着や裸ネクタイのおかしな格好に突っ込む。
「暑いからに決まってんでしょ」
「むむむ、これは眼福でゴザル。このようないやらしい体ポルノ雑誌でしか」
パンっと乾いた音が響き、岩城は腹を撃たれてもんどりうった。
雪奈がハイライトの消えた目で硝煙の上がる拳銃を握りしめていた。
「それは岩城さんが悪いですよ」
「はい、岩城さんはこれ被って下さい」
岩城は麒麟にサーモグラフィーゴーグルを被せられる。
「ひ、姫これでは柔肌が見えぬでゴザル。全部赤と緑の人型にしか見えぬ!」
「見なくていいです」
麒麟はチラリと他の女性陣を見て、ボインと突き出た胸とお尻を見てぐぬぬぬと唸る。
そして何を思ったか装備を脱ぎだしたのだった。
「なんで脱ぐんですか!?」
「あ、あああああ暑いからに決まってるじゃないですか! 他に意味はありませんよ!」
どうやら麒麟も持っていたらしい水着に着替えると、四人の水着女性が並ぶ。
「麒麟、あんた胸盛ってるでしょ」
「盛ってません!」
「えぇ、麒麟ちゃんその胸ちょっと不自然だよ。明らかに重力無視してるもん」
「あ、あなたたちがおかしいだけです!」
麒麟がプンスカと怒っていると、網膜に残り七人と表示される。
「僕たちを除けば後一人ですね」
「じゃあその一人倒したら、あたしたちでやり合いましょうか」
「そうでゴザルな。ちと談合くさいでゴザルが」
「二チームで協力して一チームを倒すことはよくある。談合ではなく戦術だ」
話していると、工場の前に一人のプレイヤーの影が見えた。
全員が物陰に隠れ、隙を伺う。
どうやらあれが最後のプレイヤーらしい。
「残り一人、六人でかかれば余裕でゴザル」
岩城はマグナムをリロードし、不用心に入って来た敵プレイヤーに銃口を向ける。
だが、驚くべきことに最後のプレイヤーは両手をあげていたのだった。
「降伏ですか?」
「罠に決まってるでしょ」
「みなさーん、出てきてくだされー、拙僧真名を天空院疾風と申す! 拙僧は皆さんと楽しくゲームをプレイしたいだけなのですドゥヒン。出てきてくだされば拙僧の命と、この拙僧の愛銃三日月宗近を進呈しても良いと思う所存!」
「そんな銃あるんですか?」
「あるわけなかろう。勝手に名前をつけているだけだ」
「拙僧、真に! 真にわかりあえるゲームの友が欲しいだけであり、決して憎み憎まれることをしたいわけではない! その意図をくみ取ってもらえればと思う候!」
「なんか必死ですね。あの人本当に友達が欲しいだけじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょ。こっちが手を組んでるって気づいてるか知らないけど、からめ手で来てるだけよ」
わかりやすい罠だとは思うが、岩城だけは大きく首を振る。
「いや、拙者にはわかる。あの者は真に友と呼べる存在を探しているだけだと」
「岩城さん?」
「拙者あの者の気持ち痛いほどよくわかるでゴザル。見た目だけで学友たちからは差別を受け、ただ一緒にゲームの話をしたいだけなのに口下手で上手く喋れず、友も作れない。そんな不器用な男なのだと思うでゴザル」
岩城は学生時代の自身の境遇を重ねているのか、目じりに涙までためていた。
「行ってくるでゴザル!」
「あっ、岩城さん!」
岩城は呼び止めを無視して、そのまま天空院の元へと向かう。
「やーやー遠からんものは音に聞け、近くのものは寄ってみよ、我こそは東方にこの人ありと言われた男である!」
岩城との接触を固唾をのんで見守っていると、何言か話した直後、突然二人は熱く抱き合った。
「なにあれ、何してんの?」
「何か通じ合うものがあったんじゃないですか?」
「キモオタ同士のなれ合いだね」
雪奈のグサッと刺さるクリティカルな一言を放つが、聞かなかったことにする一同だった。
「おーい皆の者! こっちに来るでゴザル。この者話してみると意外と面白い人間でゴザルぞ!」
「ウハハハ、照れるな長兄」
「なんか天空院って人、地獄兄弟みたいになってますよ」
「まぁ岩城さんがそう言うなら大丈夫なんじゃない?」
全員が判断に困り、物陰から姿を現す。
「ムホー、これはスンバらしいものですなドゥフフフ」
天空院が水着姿の女性陣に不気味な笑みを浮かべる。
「遼太郎さん気持ち悪いです。助けて下さい。私のSAN値がガリガリ減っていきます」
「後ろにいてください」
神を含め、全員が遼太郎の後ろに入り込み、ドラクエのパーティーかと言いたくなる直列の動きで岩城たちの前にやってくる。
「さぁさ、皆の者も兄弟とフレンド登録してやってほしいでゴザル」
「岩城さん完全に懐柔されてるじゃないですか」
「何を言う、友のいない悲しみ拙者にはよくわかる! 人を見た目と言動だけで差別してはならんでゴザル!」
「見た目と言動ってほぼ全てじゃない」
全員がフレンド登録……する? と凄く嫌そうな雰囲気が漂っている。
でも断るのも気が引けると、なんとも折り合いのつかない空気が流れている。
だが、その中遼太郎だけは天空院の指が銃のトリガーにかかっていることが気になっていた。
「さぁさ女子よ、拙僧とフレンドを、はよ! はよ!」
目が血走っていて怖い、怖すぎる。
確かにこんな態度ではフレンドなんてできないだろうと思う。
麒麟がしょうがないと前に出かけたところを遼太郎が制し、先に彼が前に出る。
「僕がします。それで会った直後ですので天空院さんから女性への取次は僕が行いますよ」
「ぬ、ぬぬぬ拙僧のことを粘着直結中と同じに見ておるのか、失礼であるぞ!」
「すみません、友人がほしいとおっしゃっていましたので、まず僕や岩城さんのような同性から話をする方が良いと思います」
余計なことをと思う天空院だったが、反対に遼太郎がフィルターになってくれると言って女性陣はホッとする。
「さすが肝心なところはぶっ壊れてますけど、遼太郎さんの
「あぁ、もうダメだよ遼太郎君。そんなカッコイイことしちゃ」
雪奈は目の中をハートマークを浮かべて身をよじる。
「率先して女の前に立てる男は優秀であるな」
「当たり前じゃん、あいつどっちかっていうと独占欲強いから他の男と二人きりになんてさせてくれないわよ」
「ボク独占欲強い男の人大好き。もうがんじがらめにしてほしい!」
「まぁ自分のことは完全に棚上げする特大ブーメラン刺さってるけどね」
二人の話をよそにキャッキャと女性陣は色めき立っていた。
「あの、僕の独占欲強いのは間違ってないですけど、それは恋人関係の話だけですからね」
「うわぁ、恋人になったらいっぱい縛られちゃうんだ」
「大丈夫ですよ、私毎日PCやデバイスチェックされても」
「そんなことしませんから!」
雪奈や麒麟たちの妄想は既に別次元へと跳躍していた。
そんな様子を見て天空院は大そうご立腹だった。
だが、彼はあえてそのまま遼太郎とフレンド登録を行う。
その頬に黒い笑みを浮かべながら。
「じゃあ、これが僕のフレンドIDですので、これを登録していただければ。それと一応ゲーム中ですのでコミュニケーションは今度からロビーにいるときにしましょうね」
「ほうほう、なるほどなるほど、これが……」
天空院はID入力をすると見せかけて、伏せていた銃を抜き一瞬で遼太郎の眉間に銃口をあわせる。
ダンと銃声が鳴り響く。
全員が虚をつかれたが、遼太郎だけはなんとなく裏切るだろうなと予測していたので、天空院の腕を掴み上げ、銃口を天井に向かせていたのだった。
「な、なぜ拙僧のトリックショットに気づいた」
「あなた岩城さんと話してる最中もずっとトリガーに指がかかったままだったんで、正直最初から信じる気なかったんですよ。後、僕仲間を裏切る人とはあんまり仲良くできないので」
「この異常な冷静さ、ぐぬぬぬぬ、しからば!」
天空院は素早く銃を持ちかえると両手にサブマシンガンを持ち乱射する。
遼太郎は素手で片方の銃を叩き落とすが、目の前にもう片方のサブマシンガンを突きつけられる。
「ヒ、ヒーローは二人もいらないドゥヒン」
天空院がニヤリと不気味な笑みを浮かべトリガーを引く。
だが、その時割って入って来たものがいた。
銃声が響いたと同時に遼太郎は押し倒されていた。
彼をかばい、撃ち抜かれたのは岩城だった。
「岩城さん!?」
「すまぬでゴザル。拙者はただ友と呼べる存在になってあげたかっただけでゴザル。それがこのようなことになり誠に申し訳ない」
「大丈夫です岩城さん。後始末はしておきます」
「かたじけない」
そう言い残して岩城の体は消えていった。
「せっかく女子と仲良くなれるチャンスであったが、ドゥフフまぁよい、拙僧の超絶PSを見れば考えも改めるであろう。そちは拙僧の引き立て役となってもらう」
「あなたのこと岩城さんと少し似てると思いましたが、後で謝らないといけませんね。あなたと岩城さんは全く違う。俄然負けるわけにはいかなくなりました」
「ほざけ、にわかプレイヤーめが。これを見て同じことを言えるか!」
天空院が取り出したのは何かのリモコンのようだった。それを天高く掲げると、空から何かが降って来た。
工場の屋根を貫通して落ちてきたものは小型のコンテナで、中が開かれるとそこには三メートルを超える人型のロボットが入っていた。
「ロボット? 映画のエイリアンとかに、こんなパワードスーツありましたね」
「無知なものに教えてやろう。これが拙僧の超絶ウルトラアルティメットスキル。25人のプレイヤーを殺すことで呼び出せるジャガーノートだぁぁぁ!」
天空院がジャガーノートに乗り込むと、ガドリング砲になった両腕が火を噴く。
「ドゥフフフフ! 最強! 無敵! ジャガーノートに勝てるものなど存在しない! 拙僧強くてカッコイイ!! 女子どもが尻を振って寄って来る姿が目に浮かぶ」
パレードのように撃ち鳴らされるガドリング砲は次々に工場を破壊し、破裂したパイプから蒸気が上がる。
「しかし、先も言った通り、拙僧に女子を痛めつける趣味はない。従って女子たちは拙僧の勇士をその目に焼き付けるが良い。なに事が終わったら順番に抱いてやヌッフッフッフッフッフ」
「イカレてんのか!」
桃火が全員が言いたいことを代弁して手榴弾を投げつけるが、宙を舞う爆弾を頭部のレーザーが撃墜する。
「そんなものでは強くてカッコイイ拙僧は倒せんぞぉ!! フヒヒヒヒヒ」
ジャガーノートからレーザーが照射され床を円形にくりぬく。すると地面の鉄板が崩れ遼太郎とジャガーノートの立っている場所を残してガラガラと崩れ落ちていく。
女性陣は崩れる足場から離れ、工場の二階へと上がる。
「これでリングは出来上がりだ。いや、そちの処刑場と言った方が良いか!」
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