第51話 再会

 再び四人揃った遼太郎たちは、後ろから迫る機械竜を振り切る為にアクセル全開で市街地を走り抜ける。


「なによあれ! あの恐竜火も吐けるわけ?」

「あれ二体目なんですよ」

「はっ!? 二体目!? 一体目は?」

「倒しました」

「はっ!?」

「苦労してガソリン手に入れたボクらの立つ瀬がないね」

「そう言うな、こちらも死闘であったからな」

「じゃああんた、あの火を吐くメカザウルスも倒して来なさいよ」

「無茶言わないで」

「さすがに火竜の火炎放射は斬り払うことができぬからな」

「どこかにまた弱点あると思いますけどね」


 桃火のレースゲームでならした腕もあり、どうやら火竜はまいたようで、遠くの方からズシンズシンと足音が響くだけとなった。

 念の為、しばらくそのまま車を走らせる。


「そなた、先ほどのレアイテムは一体なんだったのだ?」

「なにそれ? アイテムとか手に入れたの?」

「はい、モンスターを倒したら手に入る報酬らしくて」


 遼太郎は電竜の破壊報酬で手に入れた、手のひらサイズのボックスを取り出す。


「なんでしょうね、これ?」

「銃やナイフ、防具の類がドロップするとは聞いたことがあるが、このサイズのものは見たことがない。そもそもモンスターの討伐報告が少なすぎて、攻略サイトにも情報が載っていない」

「あけますね」


 遼太郎がボックスを開くと、中からバチバチと稲妻を放つ腕時計が出てくる。


「ただの時計ではなさそうですね」

「説明は?」

「えーっと、パーティーメンバーを除く全プレイヤーの電子機械類を90秒ショートさせる。レーダー、光学サイト、地雷、特殊ゴーグル、その他全ての電子機器は使用不能に。また効果時間中に指定した電子機器をハッキングすることが可能」

「最強のハッキングとジャマーといったところか。敵の装備が強い程有利になるものだな」

「そうね、後半戦は敵の装備も整ってるからタイミングよく使えば凄く有利になるわ」

「そうですね。今残ってる敵の数は」


 遼太郎が中空を撫でると現在の戦況情報が表示される。


「残りプレイヤーは後17人ですね」

「もう終盤戦だな。しかし妙だな、先ほどの電竜戦を見ていたプレイヤーの数を考えるともっと残っていてもおかしくないのだが」

「そうですね、30人くらい見てたと思ったんですが急に数が……あれ?」

「どうした?」

「いえ、残り人数が減って……」

「リアルタイムで更新されているから誰かに殺されているだけだろう」

「いえ、その、減るスピードが半端じゃなくて」


 言われて神と雪奈も戦況情報を表示させると、残り14人から13、12、11と凄まじい勢いで数字が減っていく。


「さっきのモンスターにやられてるのかな?」

「いや、モンスターは一気に三人以上プレイヤーを倒すと、バリアを展開して一定時間止まる。このようなハイスピードでプレイヤーを駆逐したりしない」

「そりゃリミッターくらいかけてるわよね。一瞬でひき殺されたらクソゲーだもの」

「ちょっと待ってくださいね。バトルログ見ますから」


 遼太郎はどのプレイヤーが誰を倒したかを記録しているバトルログを呼び出し、下からずっとなめていく。


「あー……ほとんど同じプレイヤーによるキルですね。凄いなこの人……20人以上倒してるんじゃないかな」

「外人の廃プレイヤー?」

「えっとHAYATEって人ですね」


 その名前を聞いて、桃火と雪奈の顔が露骨に曇る。


「それ天空院ってやつじゃない?」

「上の名前まではわかりませんが……ってこの人椎茸さんキルしてる」

「多分あれだよね……ガソリンスタンドであった」

「ほぼ間違いないでしょうね」

「知りあいですか?」

「ゲーム始める前に言ったでしょ、気持ち悪いのにからまれたって」

「ガソリンスタンドでも会ったんだよ。拙僧とフレンドになったら見逃してやるって」

「うわぁ……生粋の直結ですね。それどうしたんですか?」

「ガソリンスタンド爆発させて逃げたよ」

「……桃火ちゃん、さすがにそれはやりすぎじゃない?」

「あたしじゃないわよ! 他のスナイパーが狙ってたから逃げただけ!」

「このHAYATEって人、ちょいちょいPKしましたって書いてあるんですがPKって何の略ですか? プレイヤーキルじゃないですよね?」

「パーティーキルだ。仲間を殺している」

「えっ、このゲームフレンドリーファイアあるなと思ってましたけど、殺せるんですか?」

「ああ、運営側がゲームをせず放置するプレイヤーを追い出す為に残したらしいのだが、パーティープレイヤーを殺してもキル数にカウントされるから、スキルを発動させる為に意図的にプレイヤーを殺すユーザーがいるとは聞いたことがある」

「ゲームのグレーゾーンね。最後一人倒せば強力なスキルを発揮できるとかで一発逆転させやすくする為にあえて残してたんでしょうけど、ユーザーが仲間を殺して当たり前として認識してるなら規制せざるを得ないでしょうね」

「わりかし遊び心で残してるものって、ほんとにユーザーの良心にゆだねられるものが多いですから、悪用されると悲しいですね」

「システム的にできちゃうから悪用ではないけどね。それに仲間を殺して一発逆転っていうのもどうかと思うよ」


 雪奈の意見に全員が確かにと頷く。

 その直後車のサイドミラーが吹き飛ぶ。


「近くのコンテナの上にスナイパーがいますね。位置的にヘッドショットは狙えないと思いますが」

「腕の良いスナイパーだと当ててくる可能性もある。遮蔽物の多い工場地帯に入ろう」

「オッケ」


 桃火は神の指示通り、車を工場地帯へとつけると全員が素早く下車し、工場の中へと入っていく。

 中はカラフルな溶鉱炉が並んでおり、一体ここが何の工場なのかイマイチよくわからない。

 進む道は全て網目の鉄板になっており、足下を赤熱した溶岩のような鉄が流れている。

 下から吹き上げる熱気が強く、オーブンの中を歩いているような気分に一同はなっていた。


「あっついわね……」

「熱を感じられるってゲームの進歩を感じますよね」

「ほんとあんたゲームバカよね」


 しみじみとしている遼太郎を半眼で見据える桃火と雪奈。


「溶鉱炉に落ちたらどうなるのかな?」

「一度落ちたことがあるが、ぬるいお湯くらいの熱さだった。ただゲーム的には即死したが」

「やっぱり即死ですか。アイルビーバックごっこはできないんですね」


 遼太郎がバカなことを言っている隣で、桃火は自分を手で仰ぎながらもう限界とトレンチコートを脱ぎだす。


「う~、あっつい脱ごう!」

「ボクも脱ぐ」


 二人はせっかく着ていたトレンチコートを脱ぎだし、水着姿になる。


「あぁ、ちょっとマシ」

「あの、二人とも目のやり場に困るからできれば着ててほしいんですけど」

「嫌よ、暑いし。どうせあんたしかいないし」

「ボクも暑いの苦手、溶けちゃうよ」

「普通は脱ぐ方が暑くなるはずなんですけどね……」


 現実で溶鉱炉の隣を水着姿で歩いてたら頭おかしいと思われるのは間違いないだろう。

 神を含めた女性陣の肌に玉のような汗が曲線を描いて落ちていく。


「三人ともあんまり人目は気にしない方ですか?」

「するに決まってんじゃん」

「当たり前じゃない。こんなとこ見られたら死んじゃうよ」

「余もさすがに一端の恥じらいくらいはもっている」


 遼太郎は目の前で揺れる三つのお尻を眺めながら恥じらいとは一体なんなのかと考える。


「少し姑息かもしれないが、数が絞られるまで引きこもらせてもらうとしよう」

「FPSで引きこもりは基本よね」

「そうですか? 僕は突っ込んで派手に散りたいタイプですが」

「あんたは派手にひき殺して最後自爆する最低なタイプよね」


 桃火が呆れていると、全員の耳にキュンキュンと甲高い音が聞こえてくる。


「何、この音?」

「空爆の音だな。一定時間ごとにモンスターがミサイルを発射して爆撃を行う。マップには爆撃範囲が表示されるはずだ」


 神に言われてマップを表示させると、大きな円形の範囲がいくつも表示されている。


「ここ爆撃範囲だよ! 逃げないと!」

「大丈夫だ。空爆は屋根は貫通しないから、どこかの建物に入っていれば範囲の中にいてもやりすごせる」

「なんだ、良かっ……」

「良くないわよ」


 桃火が苦い顔をしてマップを見ている。


「どうかしたの?」

「この辺りで屋根のある建物ってここだけよ」

「ってことは……」

「生き残ったプレイヤーが集まってくると」


 全員が急いで梯子を上り、工場の二階から入り口に銃口を向ける。

 しかし入り口が北、南、東と三つもある為どこからプレイヤーがなだれこんでくるかわからない。

 トリガーに指をかけて待つが、誰も来る様子はない。

 爆撃が始まり、工場の外にドッカンドッカンとミサイルが直撃し爆発が巻き起こっている。


「意外と来ない?」

「近くにプレイヤーがいなかったのかもしれないな」


 遼太郎は再びバトルログを表示させると、爆撃で数名お亡くなりになったらしくプレイヤーの残り数は10人となっていた。


「おっ、あと10人ですよ。トップテンですね」

「やった、勝てるんじゃない?」

「あのHAYATEという人物は生きているのか?」

「…………死亡履歴にはいないですね。多分生き残ってます」

「ならそいつが大ボスってわけね」

「四人いるからきっと大丈夫だよ」


 雪奈は既に勝利が決まったように喜んでいるが、その時外からターンターンと銃声が響き渡る。


「銃声、近い! 東側から来るぞ!」


 全員が銃と弓を東側の入り口に向ける。

 神の言ったとおり二人のプレイヤーが、爆撃の中工場の中へと走り込んできた。

 覗き込んだスコープに人影が見えた瞬間トリガーを引こうとする。


「ちょっと待ってください!」


 遼太郎がストップをかける。


「なんだ!」

「あれ、麒麟さんと岩城さんですよ!」


 言われてスコープを覗き込むと、スナイパーライフルを持って泥だらけになりながら走っているのは麒麟で間違いなかった。その後ろを岩城がヒィヒィ言いながらついて行っている。


「追われてるよ! 後ろに二人ついてきてる!」


 遼太郎はすぐさま矢をつがえ、麒麟を追いかけているプレイヤーに向けて矢を放つ。

 一人は頭に命中したが、もう一人は工場内のパイプに刺さり外れてしまう。


「遮蔽物が多い! これじゃ助けられません!」

「あたしが行くわ!」


 そう言って桃火は銃を捨て、巨大なチェーンソーに火を入れる。

 そして、モーター音を轟かせながらそのまま階下へと飛び降りたのだった。


「ひっ、なんだこの女!?」


 麒麟たちを追っていたプレイヤーの前に突如現れたチェーンソー持ちの桃火は、そのまま振り向きざまにチェーンソーで斬り裂く。


「桃火! 後ろまだいるよ!」


 雪奈のシックスセンスで隠れていた敵を見つけ出し、場所を指示する。

 桃火はそのまま敵に向かって突進する。当然敵はアサルトライフルで迎撃するが、それを全てチェーンソーの刀身で受けると、かすり傷は無視してそのまま斬り裂いたのだった。


「さすがチェーンソー、ホラー物によくでてくるだけあって強いわね」


 ふぅっと桃火が息をつくと、麒麟と岩城を含めた全員が集まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る