第48話 直結

 桃火たちは遼太郎たちと別れ、ガソリンスタンドへ到着していた。


「ガソリン! ガソリンどこ!?」

「あった、これ!」


 雪奈がガソリンの入ったポリタンクを見つけると、二人は踵を返して車の元へと戻ろうとする。

 だが、突如響いた銃声とともに足元に弾丸が撃ち込まれる。

 二人は動きを止め、ゆっくりと振り返ると、そこには装備が整ったでっぷりとしたプレイヤーがアサルトライフルを片手に近づいてきていた。


「ヌフフフフ、誰かと思えば拙僧が最初に声をかけた女子おなごたちではないかドゥヒン」

「あんたは……」

「オゥフ、動くなであるぞ。銃を置いて手を上げドンムーフフフフ」


 桃火と雪奈は所持していたアサルトライフルを地面に置く。


「なんで撃たないのよ」

「オゥフオゥフ、ストレートな質問キタコレですねな。おっと失礼、キタコレなどネット用語が出てしまったドゥフフフフ。拙僧これでも慈悲深いとゲーフレからは有名でして、そちらに抵抗の意思がないのであれば見逃しても良いと思っているのですよドゥフフフフ」


 桃火と雪奈はあまりの気持ちの悪さに、顔が引きつる。


「おっと失礼、拙僧の自己紹介がまだであったな。拙僧真名マナ天空院疾風テンクウインハヤテと申す 」

「見逃してくれるんでしょ、もう行っていい?」

「オゥフオゥフアグレッシヴな女子キタコレ。しかしこのままタダで見逃すと言うのはできかねんですがね。今なら特別サービスで拙僧とフレ、フレンドになるだけで見逃してもいいのですよムフー」

「「えっ……やだ」」


 二人の声が完全にシンクロする。


「おっと、ストレートな拒否キタコレ。拙僧の慈悲深さがわからんとは、人生の全割を損していると言っても過言ではゴザらんだろう。ゴザらんなどと、これでは拙僧オタクみたいでゴザルが、決してオタクではゴザらんよ」


 常に気持ちの悪い笑みを浮かべる天空院に、桃火が我慢の限界をきたす。

 サブウェポンのハンドガンを即座に抜き、その気持ち悪い顔に弾丸を叩きこんでやろうとするが、桃火の方が先に銃を抜いたはずなのに、天空院が持ちかえたハンドガンで彼女の銃を弾き飛ばす。


「甘い甘いキャンディーよりスイーツ。拙僧近距離のハンドガン勝負で負けたことがないと、このDSO界隈では有名ですので。その拙僧に早抜き勝負を挑んでくるというのは身の程知らずというか若さゆえの過ちというか。あっ、これは決してかの有名なシャアアスナブルの名言から引用しているわけではないですのであしからずドゥフフフフフォヌカポー。ちなみにそちらがなぜ負けたかというと、拙僧の使うハンドガンはシングルアクションアーミーであり、そちらのオートマチック型とは初弾の発射スピードが違い、本来実戦であればオートマチック型の方がコンマ数秒早いが、そこはゲーム6連装のリボルバーに多少なりともメリットをつけたというのが開発者の憎い演出でもあり、そのことに気づいている拙僧はやはりこのゲームの玄人と言わざるを――」


 天空院が長々と話していると、桃火は対面のビルに何か光るものを見つける。


「やばっ! 雪奈!」


 桃火は雪奈の手を引き、背中を向けて走る。


「おっと、これはフレキシブルな逃走であるなドゥフフフフ。拙僧女子を背中から撃つ趣味はないが、そちらがそのような強硬な手をとるのであれば――」


 天空院が二人の背中に照準をつけると、その時ターンと長い銃声が響き、直後ガソリンスタンドが大爆発を起こしたのだ。


「ひでぶーーーー!」




 立ち上るキノコ雲を眺めながらビルの上から舌打ちするものの姿があった。


「チッ、外したか。全く姉さんの目と勘の良さは野生を通り越してニュータイプレベルですね」

「普通あの位置じゃ視認できんはずでゴザルしな」


 麒麟はスナイパーライフルのスコープから顔を離して、忌々しいと眉をよせる。


「姫、前にいたあやつは銃を突きつけて何をしてたんでゴザろうな?」

「どうせ直結中ですよ。姉さんと天城さんモテますから」

「ゲーム中によくやるでゴザルな」

「すぐにリアルで会おうとか、女の子とみると気持ち悪いくらい優しくなるけど、なびかないと逆ギレする困った輩でふね」

「それ椎茸殿のことではゴザらんのか?」

「ぼくは直結するけど逆恨みはしないでふよ!」

「直結しないでください。そのうち訴えられますよ。アバター制限のおかげで、リアルの性別を偽れませんからね。前は姉さんたちも声かけられるのにうんざりしてアバターをデブにしたりして誤魔化してたんですけど、遼太郎さんの前でいいカッコしたいからアバターいじくるのやめたんですよ」

「そりゃ姫も負けてられんでゴザルな」

「ほんとですよ、これでも実は胸少し盛って……って何言わせるんですか!」

「もはや秘密ですらないでふ」


 三人で話していると、突如ターンと音が響き椎茸の眉間が撃ち抜かれる。


「椎茸さん!?」

「姫、奴まだ生きてるでゴザル!」

「くっそ、相手も長距離武器持ってましたか!」


 麒麟と天空院のスナイパー合戦が始まり、両者で長距離戦が繰り広げられる。


「クソ、相手狙いが正確だな。岩城さん走りますよ!」

「了解でゴザル!」

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