第47話 モンスター

 その頃、ジンを加えた四人は島の中心地に向けて車を走らせていた。

 舗装された道路を避け、悪路を進んでいると立ち並ぶ煙突と街の一角が見え始めてきた。


「街の中心に工場地帯がありますね」

「街のど真ん中に工場作るとか市長の嫌がらせね」

「公害まき散らして起訴だね」

「わかりませんよ、もしかしたらゼリーとかの工場かもしれませんし」

「どっからゼリーが出てきたのよ。ゼリーだって公害まき散らすかもしれないでしょ」

「この辺りで停めよう。市街地に車で入れば狙撃される危険がある」


 神に言われて全員が車から降り、周辺を警戒しながら市街地へと入って行く。


「雪奈、今何人くらい生き残ってるの?」

「70人くらいだね」

「ファーストコンタクトで結構減りますからね」

「脱落したうちの6人があんたの手にかかってるってわかってるんでしょうね」

「最初の4人はほんとよくわかんないんですよね。多分手榴弾だと思うんですけど」

「実に頼もしきことであるな」


 神が笑みを作った後すぐに真剣な眼差しにかわり、全員を制止させる。


「中にいるよ」


 雪奈が一番近くの家に向かってシックスセンスを使用すると、家の中が透過され4人のプレイヤーが網膜に映しだされる。


「何人?」

「4人、家の中でアイテム漁ってるっぽい」

「まぁ、やっぱ固まって動いてるわよね」

「どうしましょうか、突撃するか、それとも……」

「良い、余一人で十分だ」


 そう言って足音を消しながら、神は玄関へと向かう。


「ちょ、ちょっと! 真正面から行く気!?」


 家の扉を開けた瞬間、当然敵プレイヤー4人と鉢合わせする。

 向こうはこちらのことに気づいていなかったようで、慌てて銃を構えようとするが、その時には既に4人全員が倒れ、カタナブレードを鞘に納めている神しか生き残っているものはいなかった。


「なに、それ」

「あの子、一瞬だけど加速したね」

「ええ、多分スキルを使ったんでしょう」

「なにそれ課金スキル強すぎでしょ」


 ほんの2、3秒で敵プレイヤー4人を斬り伏せてしまい、遼太郎たちはもうあいつ一人でいいんじゃないかという気になる。

 神は刀を鞘におさめると、ふぅと息をつく。


「自身の時間を加速させるスキルを使っている。加速するのが余の体だけだから、銃を撃つより斬った方が速く、近接武器しか効果がないというデメリットがある」

「弾丸より早く動いてるってことね……」

「簡単に言ってますけど、相当操作難しいですよ。このゲーム主観時間を止められませんから、本当にアバターを加速させてますね」

「いきなり時を加速してくる敵が出てきたら普通に皆殺しにされるわよ」

「見えない敵の正体はこれですね」


 4人は倒したプレイヤーの所持品を漁っていくと、手榴弾やハンドガン、アサルトライフルなどの武器を見つける。


「なんで皆裸の大将みたいな格好してんのよ。着れる服がないじゃない」

「多分今から家探しするところだったんでしょう」

「リョウタロー、あんたアサルトライフル使う?」

「僕はいいですから桃火ちゃんと雪奈さん二人で持ってください。僕はハンドガンだけ貰っておきましょう。他に何かありました?」

「おっきいチェーンソーがある」


 桃火の手には巨大なチェーンソーが握られている。あんなもので斬られたら即死は間違いないだろうと思う。


「ギガントチェーンソーの威力はカタナブレードを凌ぐが、何分重量が重いのと攻撃時の音がうるさすぎる為、敵に命中させることが難しいのだ」

「なるほど」

「そう? 結構軽いけど」


 桃火はでかいチェーンソーを軽々と振っている。


「恐らくそなたのスキル、パワーアームの恩恵であろう。そのスキルがあるなら乱戦になった時役立つかもしれん」

「桃火ちゃん持っておいたら?」

「そうね、こういう悪役武器好きだし貰っておくわ」


「服あったよ!」


 家の二階から雪奈は大きめのコートを二着持ってくる。


「よし、でかした! これでこの痴女スタイルともお別れできるわ」


 そう思い桃火と雪奈は丈の長いトレンチコートを水着の上から着る。


「……なんでこれ前しまらないの?」

「さぁ……」

「あの、二人とも言いたくないけど言っていい?」

「「…………」」

「水着にトレンチコートって露出狂みた……」


 パンと軽い音が上がると、遼太郎の腹に風穴があき、HPゲージがギューンと減る。

 雪奈が死んだ魚の目で硝煙のあがる拳銃を握りしめていた。


「いくら遼太郎君でも言っちゃダメなことがあるよ」

「うん、今のはあんたが悪いわ」


 またしても無駄な回復薬を使わされながら治療されるのであった。


「遼太郎君スラックスあったよ。着る?」

「はい、僕もさすがに白いパンツにネクタイというのは絵的にまずいと思いますので」


 遼太郎がズボンをはきおえると、桃火と雪奈だけでなく神まで軽い笑いをかみ殺していた。


「変ですか?」

「まぁ変か変じゃないかっていうと変だけどさ」

「宴会中のサラリーマンが飲み過ぎてシャツ脱いじゃったみたいな感じ」

「しかしそなたそこそこ鍛えてある。アバター用に筋肉をいじっているのか?」

「いえ、そのままですよ」

「へー、じゃあ遼太郎君脱いだらこんな感じなんだ」


 女子三人に囲まれてキャイキャイと胸を触られる。これが反対だったら永久アカバンされて、更に警察に被害届とか出されるんだろうなぁと世知辛い世の中を思う。

 彼がそんなことを思っているなんて露知らぬ女性陣だったが、網膜に残り人数50と大きく表示される。


「半分切ったくらいになりましたね」

「多分どこも第二ラウンドが終わったってところなんでしょうね」

「探索も終わったし次いこっか?」

「そうですね」


 4人が外へと出ると、砂煙を巻き上げて、一台のバギーが目の前を疾走してくる。


「敵だ!」


 全員が銃とフライパンを構えるが、バギーは何かに追い立てられるようにして目の前を通り過ぎていく。


「あれ、行っちゃった」

「あたしたちに気づいてなかったのかしら?」

「いや、これ見よがしにいたからそれはないんじゃないかな?」


 不意に神の動きが完全に止まる。


「どうかした?」

「シッ、静かに」


 全員が黙ると、ズン、ズンと音に聞こえるほどの大きな地響きがする。


「!! 走れ!」


 神が一目散に走ると全員がそれに続く。


「ちょ、なんなのよ!?」

「モンスターだ! さっきのバギーはモンスターに見つかってそれから逃げていたんだ!」

「モンスター!?」


 音のする方を見返すと、背中に六つの電極をさし、バチバチとスパークさせている機械の肉食恐竜が迫ってくるのだ。


「なにあれ、モンスターってティラノサウルスじゃない!?」

「電竜だ!」

「機械っぽいね」

「あんたんとこのゲームにあんな奴いなかった?」

「やめてよ桃火ちゃんダイナソーシリーズはまだ構想中なんだから」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! めっちゃ速い!」


 ズンズンと響く音は次第に大きさと速さを増していく。

 桃火と雪奈が振り返りながらアサルトライフルを連射する。

 だが、チュンチュンと軽い音をたてるだけで、恐竜の頭上に表示された体力ゲージは全く減っていない。


「なによあれ、あんなのインチキじゃない!」

「僕の聖剣エクスカリバーで奴を食い止めるしかないか」

「フライパン握りしめて何バカなこと言ってんのよ!」

「手榴弾投げるよ!」


 雪奈が先ほど拾ったばかりの手榴弾を放り投げる。一瞬遅れて爆風と爆発音が響くが、機械の恐竜はものともせず突き進んでくる。


「なにあれ、ほんとに倒せるの!?」


 雪奈が珍しく声を荒げる。確かに理不尽なくらいの体力と頑強さである。


「やっぱり僕の聖剣デュランダルで」

「うっさいわね、次同じネタやったら殺すわよ!」


 遼太郎がしょぼんとしてると、前に乗り捨てられた車が見つかる。

 

「車まで走れ!」

「ラッキー! これで逃げ切れるわ!」


 桃火が運転席に飛び乗り、後部席に雪奈、神と続く。


「よし、これで!」


 桃火がアクセルを踏み込むが、車はうんともすんとも言わない。


「えっ、なにこれ!? リョウタローこれどうやって運転するの!?」

「ハンドル握ってアクセル踏むだけだよ!」


 遅れて遼太郎が駆け込む。


「来るぞ!」


 機械の恐竜がマンションをぶち破って、その巨躯を現す。

 だが、車は未だ動かない。


「桃火ちゃんアクセルだよ! ブレーキ踏んでない!?」

「ちゃんと踏んでるわよ! コンビニに突っ込む老人と一緒にしないで!」


 桃火は荒々しくアクセルを踏みこむが、やはり車から反応はない。


「あっ、ガソリンないよ!」


 雪奈に言われて燃料ゲージを見ると針はEMPTYを示していた。


「最悪!」

「誰かがガス欠で乗り捨てたものだったか」

「この近くガソリンスタンドあったよね。あそこにガソリン取りに行くのと新しい車見つけるのどっちが早い?」

「恐らくガソリンスタンドだ。新しい車を見つけても、またガス欠では話にならない」

「そうだね。じゃあ誰かがあの機械の恐竜の気を引いて、他でガソリンを取りに行くってことで」

「余が注意を引こう」

「じゃああたしも……」

「僕が行きますよ」

「あんたフライパンしか持ってないでしょうが」

「あんな奴フライパンで倒してやりますよ」


 そう言って遼太郎と神は車を降りる。


「そなたなぜこちらに来た? そなたの装備では確実に死ぬぞ」

「なぜって、そりゃ……」


 遼太郎はわからんと首を傾げる神に笑みを返す。


「こっちの方が面白そうだからですよ」

「そうか……」


 神はクスリと笑みをこぼす。


「そなたとは良い関係が築けそうだ」

「先行きますよ」


 遼太郎が駆けだすと、神はその後ろにぴったりとつき、牙だらけの凶悪な口を開き、背中の電極をスパークさせこちらを威嚇する機械竜へと駆けだす。

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