第46話 side麒麟

 その頃、チームが分かれた麒麟と岩城たちは巨大なマンションの連なる団地の探索を行っていた。


「おっ、こんなところにマグナム銃があるでゴザル」

「マグナムはやっぱ男のロマンっすね」

「こっちにはサブマシンガンが二つあったでふ」

「最初に入った施設としては非常に良いアイテムばかりでゴザルな」


 高畑が銃の名称が9ミリハンドガンや、サブマシンガンなどと他のゲームに比べて曖昧な名前になっていることに気づく。


「普通の銃ってちゃんと名前ついてますよね? ベレッタとか、M16とか」

「多分β版だからまだ権利登録してないでふ」

「権利っすか?」

「左様、音楽を使用したら著作権料を支払わなければならないのと同様実在する銃を使用すると権利料金が発生するでゴザル」

「海外の戦争ゲームって最近近未来のSF寄りの世界観が多いでふ。それがなぜかと言うと架空の銃をだせるからでふ」

「架空のものであれば権利料金は発生しないでゴザル。バトルウォーや、コールオブマンディーなんかは売り上げも凄いから目玉飛び出るくらいの権利料金を払うことになってるでゴザル」

「なるほど、そういう裏事情があるんすね」

「でもミリオタはやはりリアルを好む傾向があるでふ」

「めちゃくちゃリアルな戦場を作っても持っているものがスーパーレーザーガンとかいう架空の玩具みたいな武器ならガン萎えでゴザルからな」

「確かに」


 盛り上がる岩城たちを尻目に、麒麟はしゃがみこんで大きくため息をつきながらのの字を書いていた。


「なんで私だけこっちなんですか……」

「あ、あぁ姫、恐らくなんでゴザルが」

「多分あの二人、ゲームが始まる直前に俺たちとのフレンドを切ったと思いますよ」

「ぼくたちとフレンドを切れば、必然平山君と一緒になるでふ」


 麒麟は「なん……だと……?」と唸る。


「私もそうすれば良かったーーー!!」

「シーーッ! 姫、大声をあげてはいけないでゴザル」

「くそぉ、そうですよね、普通そんなうまく別れませんもんね。姉さんも天城さんもさすがゲーム屋、そういうところには一瞬で気づくんですね……。あぁーーー気づかなかった私がどうせマヌケですよーーー!! この日の為にたまった仕事必死で終わらせたのにーーー!!」


 麒麟はガンガンと自分の頭を壁にぶつける。


「姫様たまにぶっ壊れるっすね……」

「ひ、姫、もう一戦するときに今度はシャッフルすればいいでふ」

「いいです。それならそれで、遼太郎さんの敵となったからには徹底的にやってやります。なんならラスボス的存在に……」


 その時ターンと長い銃声が響いて、麒麟はなんだろうと振り返ると目の前の高畑がバタリと倒れた。


「高畑さん!」

「た、高畑氏! 高畑氏がまだ何にもしてないのに死んだでゴザル!」

「対面のマンションにスナイパーでふ! 匍匐で進むでふ!」

「でも高畑さんが!」

「奴はもうダメでふ、捨てていくでふ!」

「諦めるの早くありません!?」


 言われて全員がマンションの中を匍匐で移動する。


「これだから銃って嫌いなんですよ。さっきまで喋ってた人が次の瞬間死んでるとか、マンガやアニメにしたら全然面白くないですよ!」

「しかしこれが現代戦でゴザル」

「ぼくも常々ヘッドショット一撃即死はどうかと思うでふ」

「そこはリアリティをとるか、ゲームをとるかのどっちかでゴザルな」

「豪華なムービーを使ったミリタリーゲームやホラーゲームがリアリティがあって良いとかレビューで見たことありますけど、それは設定に引き込まれてるだけで、普通回復薬一つで人間一瞬で回復しませんから! リアリティなんてありませんから!」


 早口で喋る麒麟の頭上をターンターンと音をたてて大口径ライフル弾が通過していく。


「姫、どこに怒りをぶつけてるでふか」

「銃で撃たれてるのにしゃがんでるだけで回復とかしないからー!」

「椎茸殿早く姫を連れて行くでゴザル! いろいろ鬱憤がたまりすぎて本当にラスボスみたいになるでゴザル!」

「ひとまずこの部屋に入るで……」


 三人が部屋の中に入ろうとした時、下からザッザと足音が聞こえてくる。


「やばいでふ、下から敵が上がってきてるでふ!」

「スナイパーで釘付けにした後、突撃兵の投入は戦術の基本でゴザルな」


 部屋に入って扉をしめてたてこもるが、ここは最上階に近いマンションの一室であり、窓から飛び降りることもできない。

 このまま蜂の巣にされて終わりかと思われたが、麒麟は部屋の中で自己主張する細長い金属塊を見つける。


「これは……」


 ガスマスクを着用した三人組のプレイヤー達は指でサインをとりながら、麒麟たちが立てこもっている部屋を包囲する。

 先頭に立った男がスモークグレネードを部屋の中に放り投げると、部屋中に煙をまき散らす。

 それと同時に三人組は部屋の中に突入する、が


 ターンターンと長く響く音が部屋の中に木霊すると、前を行くガスマスクのプレイヤーが倒れた。


「なっ!?」


 残った一人も驚いたと同時に頭を撃ちぬかれて倒れた。

 スモークグレネードの煙が晴れると、そこには銃身の長い大型スナイパーライフルを構えた麒麟の姿があった。


「こういう普通じゃ絶対持てないライフルを持てるところが、ゲームのいいところですよね」


 彼女の顔はニヤリと歪み、良い得物に出会えたことを喜んでいるようだ。

 麒麟は鼻歌まじりにマンションの窓へ、そのデカい砲身を伸ばす。


「姫、外はスナイパーがいるから顔を出しては危険でゴザル!」

「果たして本当にそうでしょうか? 仲間があっという間に全員やられて何が起きているかわからず内心心臓バクバクしてるんじゃないですか?」

「そ、そうかもしれないでゴザルが!」

「そうなると……」


 響く銃声と共に麒麟の真横をライフル弾が掠めていく。

 更に二度、三度とライフル弾が真横を通るが麒麟に命中しない。

 まるで見えないバリアに守られているようにも思えた。


「このゲーム、プレイヤーの心拍数に応じてターゲットサイトが広がるようになってますから、動揺してる状態で長距離スナイプはまず成功しません。そして無駄撃ちしてくれたおかげで位置はつかめました」


 麒麟がライフルのスコープを覗き込むと、今もターンターンと音を響かせて当たらないライフルを連射しているガスマスクのプレイヤーが見て取れた。


「さようなら」


 麒麟がライフルのトリガーを引くと、薬莢がはじき出されライフルの銃口から硝煙が漏れる。

 それと同時に、対面のマンションから狙撃していた敵プレイヤーは頭を撃ち抜かれ、そのまま落下したのだった。


「一応私もゲーム屋ですから、それなりには自信ありますよ」


 麒麟はスナイパーライフルを肩に抱くとニヤリと笑みを浮かべた。


「今度主人公がライフルで女の子を射抜くと、惚れられてしまうおバカゲーでも作りましょうか」

「姫、それもうあるでふ」

「……先人の考えを追い抜くのは難しいですね」

「新しい、誰もやってないは大体先人が考え付いたけどあえてやらなかったものがほとんどでゴザルからな」

「なぜ王道が面白いかという理由ですね。さて、これで遼太郎さんのハートでも射抜きに行きましょうか。撃ち抜いたら本当に好きになってしまうアドオンでも出ないですかね」

「それ普通に犯罪でゴザルよ」


麒麟 プレイヤーID KIRIN

頭 サーマルスコープ

胴 防弾ベスト

手 レザーグローブ

腰 ミリタリースカート

足 レンジャーブーツ

メイン 大口径スナイパーライフル

スキル ハードバレットLv1 (リロードした弾丸の貫通力上昇)


岩城 プレイヤーID ROCKMAN

頭 バンダナ

胴 防弾ベスト

手 レザーグローブ

腰 ツールベルト

足 レザーブーツ

メイン マグナム

スキル ロングバレルLv1 (射程向上)


椎茸 プレイヤーID DOKUKINOKO

頭 ヘルメット

胴 防弾ベスト

手 レザーグローブ

腰 ツールベルト

足 レザーブーツ

メイン サブマシンガン

スキル ソナーLv1 (周囲の敵の足音、心音が聞こえるようになる)


高畑 死亡

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