第45話 プレデター

「囲まれてるよ!」


 雪奈がシックスセンスを使用すると、周囲にアサルトライフルを構えた四人のプレイヤーの影が見えた。


「リョウタロー家に戻って! 隠れ――」


 桃火が叫んだ直後、足元に何かが転がって来た。それがピンの抜けた手榴弾だと気づき、桃火と雪奈は窓を突き破って外へと脱出する。その直後、背後で手榴弾が爆発して、体が大きく吹き飛ばされた。


「はい、残念でした綺麗なお姉さんたち~」


 桃火たちが吹き飛ばされたのは、運悪く敵プレイヤーの目の前で、額にアサルトライフルの銃口が突きつけられる。


「バイバ……嘘、後ろかよ」


 勝ち誇っていた敵プレイヤーは脳天にナイフが突き刺さり、虹色のスプラッシュをまき散らしながら前のめりに倒れた。

 頭にナイフが刺さり、虹色の血だまりの中で倒れている姿はどう控えめに見てもグロかった。


「一体何が?」


 困惑する三人をよそに、一人、また一人と敵が倒れていく。

 まるで見えない暗殺者の手にかかっているようも見える。

 直後網膜にZINさんが4人キルしましたと表示される。


「ジン? 近くにいるのかしら」


 三人はおのおのハンドガンとフライパンを握りしめて、ごくりと生唾を飲み込む。

 まるで見えない狩人に襲われるホラー映画のようにも思えた。


「なんかこんな映画あったわよね。見えない敵に襲われる奴」

「プレデターでしょ」

「そうそれ」


 どうやら取り囲んでいたプレイヤーたちはZINというプレイヤーにやられたようだが、四人をいとも簡単に屠ってしまった姿なきプレイヤーに遼太郎たちは武器を握りしめる。


「あっ、あそこ!」


 雪奈が指さした先に、長い髪をポニーテールにした十代後半くらいの少女が、別段隠れるわけでもなく投げたナイフを回収しにやってきたのだった。

 その無警戒さに驚いたが、雪奈は彼女の頭に13の数字がついていることに気づく。


「あれ、彼女もしかしてボクたちのパーティーじゃない?」

「ほんとね」

「ありがとうございます」


 遼太郎が無遠慮に近づくと、少女は同じチームであることがわかっていたようで、小さな笑みを浮かべた。


「そなたらが余の仲間か」

「よ?」

「余?」

「よよよ?」


 全員がいきなり面食らっていると、少女の装備が充実していることに気づいた。

 こちらは水着や裸ネクタイだと言うのに、彼女は頭に赤のベレー帽、両手には刀身が振動しているナイフを持ち、服装は上下ともにモスグリーンの迷彩服で、どこぞのヤマネコ隊とか特殊部隊で登場してきてもおかしくない風貌であった。


「すまない。余は少し人とは違った生活を送っていてな、若輩ではあるのだがこのような不遜な喋り方が板についてしまい直すことができない。許すがよい」

「なんかお姫様? ぽいね」

「姫というより王様っぽいけどね」

「ジンだ。漢字の神という字を書く。よろしく頼む」


 遼太郎は差し出された手を握り返す。


「よろしくお願いします」

「あの、神さん?」

「この場で余に敬称は不要だ。ゲームの中にいる以上余は一兵士でしかない。見たところ皆余より年上と見受けられる」

「そ、そう?」

「凄い桃火ちゃんが自分より変な人に会って困惑している」

「桃火より酷いって相当だよ」

「うっさいわね。その、神はなんでそんな装備が充実してるの? 背中にアサルトライフルまで背負ってるでしょ?」

「課金だ」

「か、課金……」

「身もふたもない……」


 雪奈たち三人が、そっかー課金かー、課金ならしょうがないなーと金の強さを一番よく知っている為、遠い目をする。


「と言ってもスキル以外は大した装備ではないのだ。撃たれれば普通に死ぬし、ほとんど見た目だけと言ってもいい」

「そうなんですか?」

「そうだ、これを使うがよい。余は根っからの近接狂。さきほど課金して手に入れたものだが、遠距離武器は得意ではない」


 そう言って神は背負っていた強そうなアサルトライフルを渡そうとする。


「ちょ、課金武器なんて受け取れないわよ! あたしたち今あったところなのに」

「そうか? パーティーを組んだものは皆喜んで受け取ってくれたのだが」


 残念だとアサルトライフルを背負いなおす。


「なんか全く嫌味のないスネ〇みたいな子ね」

「しかも美少女」


 最高じゃないかと言いかけたが、桃火の視線が怖いので黙る。

 ふと彼女の視線が遼太郎の持っている刀に気づく。


「なっ!? そ、それは!」

「えっ? どうかしましたか?」

「カタナブレード、本当に実在していたのか!?」

「そんな珍しいんですかこれ?」

「余はそれが欲しくて装備ボックスに課金し続けたのだ!」

「装備ボックスって何ですか?」

「多分ガチャよ」

「あぁ……そういう」


 遼太郎の目が一瞬で死んだ魚の目になる。


「欲しいならあげますよ?」

「なっ!? そなた、このカタナブレードがどれだけの価値があるか知ってて言っているのか!?」

「いや、知らんけど……」

「近接最強兵装で、銃弾すらも切り裂くことができるのだ」

「へーそれは凄いですね。銃弾を切り裂くなんてマンガみたいなこと一度はしてみたかったですよ」

「ほんとにそんなことできんの?」

「桃火ちゃん撃ってみて下さい」


 遼太郎はカタナブレードを抜いて構えると、桃火は間髪入れずパンっと軽い音をたててハンドガンを撃つ。

 すると彼の腹に命中しHPゲージをギューンと減らす。


「痛い! 嘘つき、全然無理じゃないですか!」

「至近距離で撃たれれば切り払うことは無理であると、少し考えればわかるであろう」


 ゲームクリエーター平山遼太郎、年下の少女にゲームの当たり前で呆れられる。

 無駄に回復薬を一つ減らしながら、遼太郎はカタナブレードを神に譲渡する。


「すまない。そなたに最大限の感謝を」


 少女はゆっくりと目を閉じ、頭を下げた。


「なんか武士みたいな女の子ね」

「ネットゲームはいろんな人がいるからね」


 神は三人を一瞥すると、着ていた迷彩服を脱ぎだした。


「ちょ、えっ、何してるの!?」

「そなたたちだけ水着というのもあれであろう。余も水着は持っているからそちらに着替える」

「いや、別にそんなことしなくていいんですよ!?」

「なに、どのみちそなたらと行動を共にしていれば迷彩服などなんの役にも立たないだろう。それよりも余は仲間意識というものを大切にしたい。形から入るというやつだ」

「いや、確かにそうなんだけど」


 少女はあっという間に水着に着替え終わると、遼太郎たちと同じように水着に刀とゲームキャラの主役として通用しそうな格好へとかわる。


「うむ、これで良い」


 神は満足げに頷くと、ようやく四人揃った遼太郎チームは島の中央へと向かう為に、民家の前に止まっていたジープに乗り込み、遼太郎の運転でその場を後にしたのだった。


神 プレイヤーID ZIN

頭 レンジャーベレー

胴 アーミーサマービキニ(炎無効化)

手 レンジャーグローブ

腰 ミリタリーベルト

足 レンジャーブーツ

メイン カタナブレード

サブ 振動ナイフ

アイテム アサルトライフル

スキル クロックアップLv3 (3秒間キャラクターを加速させる)

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