第43話 ランダムパック

「平山殿~」

「あっ、岩城さん」

「全員合流しているでゴザルな」

「ぐふふ、皆さん凄い格好でふね」


 合流した椎茸が桃火、雪奈の格好を見て不気味な笑みを浮かべる。

 恥ずかしそうにする雪奈と反対に、桃火の方は胸をそって腰に手を当てている。

 別に見られても恥ずかしいものは何もないと言いたげだ。


「姫様来てないっすか?」

「あれ、麒麟さん来るんですか?」

「今日第二の方々を交えてゲームすると話をしたら血相をかえて入れてくれと」

「でも、もうゲーム始まりそうですけど。もう少し待ちます?」

「まぁ拙者らでまず一戦してからでもいいのではないでゴザろうか」

「ただ、このゲーム一戦一戦長いでふが」


 と話をしている最中、不意に遼太郎の目の前に麒麟の姿が転送されてくる。


「おっ、来たでゴザルな」

「あっ、間に合いました?」

「丁度今から始まるところでゴザル」


 麒麟は目の前の遼太郎に気づくと、クスリと噴き出す。


「遼太郎さん凄い格好してますね」

「初期装備下着ですからね」

「真っ白なパンツとシャツは反則ですよ」


 と言った後、麒麟は自身の姿を見て固まる。

 当然同じ格好をしていたからだ。


「キャアッ!」


 麒麟は遼太郎に目つぶしを入れた後、雪奈と同じように自身の体を隠そうとするが、先ほどと同じく胸の谷間が露わになる。


「なんですかこのゲーム。こういう意味で18禁だったんですか!?」


 麒麟は遼太郎の後ろに密着して姿を隠す。


「裸一貫で監獄島プリズンに入ったあと、民家や施設内に入って装備を整えていくのがこのゲームの醍醐味でゴザルよ」

「そうそう、この前優勝したのってバニーガールのおっさんだったでふよ」

「バニーガール、見た目に反して性能高いっすからね」

「とりあえずこれってサーチアンドデストロイでいいわけ?」

「他のプレイヤーは見かけ次第攻撃でふ。参戦者はたくさんいるから、それが一人になればいいでふ」

「しかし今回はチーム戦であるから4人くらいのパーティーになるはずでゴザル。したがって最後まで生き残ったパーティーになれば勝ちでゴザルな」

「でも人数割れてますよ?」


 遼太郎、岩城、高畑、椎茸、麒麟、桃火、雪奈の7人で2パーティー組もうと思うと1人足りないのだ。


「そこはもう野良の方を一人入れるしかないでゴザろう」

「一応この7人でフレンドを組むでふ。そうするとフレンド同士で優先的に組んでくれるでふ」

「なるほど」


全員でフレンドを組み終わると、船のスピーカーからゲームの案内が流れる。


[これより監獄島プリズンに到着します。ルールは簡単、島にいる自身のチーム以外を全滅させれば勝利となります。また島には巨大なモンスターが徘徊しています。倒すと強力な装備を入手することができるので、腕に自身のある方はお試しください]


「へー、巨大モンスターですか面白いですね」

「無理でゴザル。拙者ら前に椎茸殿と一緒に倒そうと試みたでゴザルが、モンスターは引きこもりを追い立てる為のオシオキマシーンでゴザル」

「ほぼ一撃即死でふ。防具が整ってれば一発耐えれるかなレベルでふ」

「しかも倒しても次のがすぐに落ちてくるからモンスターは無視推奨でゴザル」

「モンスターって皆殺しにしてくるんですか?」

「生き残りチームが二つになったら消えるでふ」

「なるほど考えてある」


[皆様にはゲーム開始時にランダムパックを一つお渡しします。そのパックの中に装備や回復薬が入っていますので有効に活用して下さい。それでは皆様の健闘をお祈りしています]


 ブツリとアナウンスが切れると共に全員の背中に布製のリュックサックが現れる。


「ランダムガチャでふ。ゲームが始まったらすぐ中を確認するでふよ。たまにこの中に最強装備とか入ってたりするでふふふふよ」

「それはバランスとしてどうなんです?」

「その雑な調整含めてβテストでゴザルよ」

「なるほど」

「最強装備入ってても弾がないとかザラっすからね」

「あっ、みんな今のうちにスキルをセットするでゴザル。設定の項目から好きなスキルを選択することができるでゴザル」


 言われて全員が中空を撫でるとゲームの設定画面が表示される。


「スキルは一個だけしかつけられないからよく考えるでふ」

「結構種類多いですね。何がいいとかあるんですか?」

「遠距離射撃が強くなるロングバレルや、近くの敵の位置がわかるようになるシックスセンスなんかは人気でゴザルな」

「重火器を使うならパワーアームがおすすめでふ。最強武器のミニガンや、ライトマシンガン両手持ちができるからロマンあるでふよ」

「平山ちゃん、FPSとかで何使ってるとかある?」

「そうですね……」

「こいつ凸スナよ」


 遼太郎のかわりに桃火が答える。


「凸スナ? って何?」

「突撃してくるスナイパーよ。本来定点待ちが基本のスナイパーライフルを拳銃みたいに使ってくる頭おかしい奴」

「あぁ、あのFPSで一番理解に苦しむ戦法をしてくる人種っすね……」

「いくつか灰色になって選択できないスキルがありますね」

「それは課金だったり実績だったりで、強いやつはいきなり使えないでゴザル」

「このジャガーノートってなんですか? 説明見てもジャガーノートを呼び出すしか書いてないんですけど」

「チート兵器でゴザル。25人連続キルすると使用することができる機械兵器でゴザルが、25人連続なんて談合するか角で待ち続ける以外ありえないから、初心者は忘れていいでゴザル」

「それよりもう始まるでふよ」


[監獄島へと到着。ゲーム開始まで残り10秒]


 アナウンスが響き、遼太郎は慌てて適当なスキルをセットする。


「それでは皆の者、敵になったとしても手加減は抜きでゴザルよ」

「ええ、楽しみましょう」



 全員の視界が暗転して、ロビーサーバーからゲームサーバーへと移されると、そこは青空の広がる孤島であった。

 丘の上に立った遼太郎の視界には、緑豊かな自然と民家がポツポツ、更に奥には白い煙を吐く煙突が数多くのびた工業地区と都市が合体した市街地が見える。

 後ろは海で、どうやら島の一番端に転送されたようだった。

 周りを見渡してみるが岩城たち知りあいの姿はない。

 中空を撫でてマップを表示させると、そこには青いマーカーが自分を含め四つ示されており、どうやら仲間の居場所を知らせるビーコンが表示されているようだった。


「一人少し離れてるな。残りの二人は近そうだけど……。あっ、そういや椎茸さんが最初にリュックを確認しろって言ってたな」


 リュックを下ろし、中を確認していく。

 武器は勿論のことだが、このタンクトップにパンツ姿を早くやめたい。

 そう思うが、中から出てきたものは


・シルクハット

・ネクタイ

・レザーグローブ

・包丁

・革靴

・手榴弾×1


「うん、はずれだなこのリュック」


 銃すら入ってない時点ですでにお察しだろう。

 それに服は入ってないくせにネクタイと帽子だけ入っている。一応ステータスがあがるようなので遼太郎は装備できるものは全て装備することにした。


「…………なんでネクタイ装備したらシャツ消えるんだろ。バグかな」


 なぜかネクタイを装備すると着ていたシャツが消えてしまい、裸ネクタイにシルクハットといかがわしさマックスの姿になってしまった。

 これなら初期装備の方がマシではないだろうかと思う。


「完全に変態紳士姿じゃないですか……白パンツがまずいですよね。皆こんなものなのかな?」


 遼太郎は首を傾げながらリュックをひっくり返すと、黒い野球ボールサイズの手榴弾がでてきた。


「まともなのが手榴弾だけって、それどうなんです……。あれ、ピンどこだろ?」


 通常手榴弾には遅延発火装置を起動させる為の安全ピンが存在するのだが、それがない。

 これではいざというときどうやって起爆させるかわからない。


「ん~ピンのないタイプの爆弾なのかな?」


 と思っているとリュックの一番底に銀色に光るピンが見えた。


「あ~これこれ、これが抜けちゃったら爆発し……」


 既に手榴弾のピンが外れていることに気づき遼太郎は青ざめる。


「うわああああああ!」


 驚いて放り投げると、ピンの抜けた手榴弾は丘の上をコロコロと転がり落ち、民家の前に停められていた車の真下に入り込む。

 そこを運悪く別のチームが車で移動しようと乗り込んだところであった。

 直後、車の真下に潜り込んだ手榴弾は車ごと大爆発を巻き起こした。

 チュドーンとマンガみたいな爆発音と共に車が吹き飛び、遼太郎は遠目から「うわー、凄いことになってんな……」と他人事のように呟いた。

 プレイヤーの網膜にRYOUTAROさんが4人キルしましたと表示される。

 それを見た全プレイヤーはいきなり4人同時キルだと……、と戦慄する。


 丘を下りると、爆発して黒焦げになった車の周りにバックが散乱していることに気づく。


「あっ、こんなところにバックが」


 彼はそれが今しがた自分の爆弾で吹き飛ばしたプレイヤーの遺留品だと気づいていなかった。

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