4thG デスサバイバルオンライン編
第42話 デスサバイバルオンライン
「DSO? デスサバイバルオンラインですか? いや、聞いたことないですね」
メタルビーストのパッチ経過も良好で、順調にユーザー数を回復し安定軌道に乗り始めていた今日この頃。
グッドゲームズカンパニー休憩室にて高畑、岩城、椎茸、遼太郎のズッコケ四人組はタブレットに表示されたデスサバイバルオンラインの公式サイトに目を通していた。
トップページにして既におどろおどろしい髑髏マークとバタ臭いキャラクターが逃げ惑っているイラストが表示されており、洋ゲーテイストな作りが見て取れた。
「見ての通り洋ゲーなんだけど、VR多人数対戦ゲーとして今ネットで話題になってるんだって」
「そうなんですか?」
遼太郎がタブレットをスクロールさせていくと、ゲームの概要が説明されている。
「100人以上のプレイヤーを無人島に放り込んで殺し合いをさせ、最後の一人、もしくは最後のパーティーになったものが優勝と。これまだβテスト中ですよね?」
「そっ、だからまだバグとかいっぱい。製品版のロケテスト」
「裸一貫でゲームの中に放り込まれた後、
「ザッ洋ゲーって感じですね、そのざっくりとしたルール」
「でもそういうシンプルなのが一番盛り上がるでふ。一応スキルっていうエスパーみたいな能力を一つだけつけることができるでふ」
「面白そうですね、でも大丈夫ですかこれ? オンラインゲーはアバター使えませんしユーザー同士の殺し合いは倫理的なもので、なかなか審査通りませんけど」
「まぁ一応Z指定でゴザルし、プレイヤーを攻撃すると血ではなく虹色のスプラッシュが出るでゴザル」
「それはそれでどうなんです……。確か昔格闘ゲームでありましたよね、海外の規制に引っかかったから本来は赤い血が噴出するのをカラーパレットだけ入れ替えて白色にかえたってやつ」
「あぁサムライ魂でふね」
「あれ汗って設定らしいよ」
「斬られたら汗をふきだすって意味わからんでゴザルな」
「正直ドットの血を規制ってのもどうかと思うでふ」
「まぁ昔の格ゲーの話はそこまでにして。皆でこれやってみない? パーティー組めるらしいし」
「すぐできるんですか?」
「PSVRSTOREでダウンロードしてできるでゴザルよ」
「なるほど。じゃあ今度の日曜にでもオンライン繋いでやりましょうか?」
「おっけーでふ」
「了解でゴザル」
次の日曜日
「さて、そろそろ時間か。ゲームはダウンロード終わってるし、後はゲーム起動してと」
遼太郎は自宅のアパートでゲームの準備を終えてPSVRを起動し、ヘッドギアを装着しようとする。
[ピンポーン]
「おっ? このゲームを始めようとすると、いろいろ用事が舞い込んでくるゲームあるあるが……」
玄関のインターホンが鳴り、遼太郎はホイホイと返事をしながら扉を開ける。
するとそこには以前から少しギクシャクして表情の硬い桃火と、反対ににこやかな笑顔を向ける雪奈の姿があった。
「ヤッホー、来ちゃった」
「あれ、天城さんに桃火ちゃん」
「ほら桃火、なに照れてんのよ」
「ちょ、ちょ」
深紅のコートを着た桃火はズイっと押し出され、持っている紙袋をバタバタと振る。
「と、桃火ちゃん……よく来るね……」
「わ、悪い?」
「悪くはないんだけど」
桃火はふんと長い髪を後ろ手に弾きながら、ズカズカと中へと入って来る。
実は桃火はギクシャクしているわりには休みになると足しげく遼太郎のアパートに通っているのだった。
そのくせわりとすることもなく二人でゲームをして過ごしている。
「あの、今日は会社の人たちと一緒にネットゲームをする約束がありまして……」
「知ってる知ってる。だからボクたちも混ぜてもらおうって」
二人は紙袋の中から持参したヘッドギアを遼太郎に見せる。
二人とも派手な見た目なのに持っているのが最新のゲーム機というのが、なんともアンバランスさを感じるのであった。
「一応岩城さんには話通してるから」
「あの、それなら別にウチに来なくてもいいのでは……ネット繋いだらどこでも遊べるのがネトゲのメリットだと」
「ゲームしながらダラダラお菓子食べたり、ご飯食べたりするのがいいんじゃない」
「だよねー、ボクもあれ好き。桃火の家で二人でよくやるんだよ」
確かに学生時代友人の家でお泊りゲーム大会とかよくやったがと思うが、それはむさ苦しい男友達であるから成立することであって、こんなきっちりメイクまでしてきている高級感漂う女の子たちとするものではない。
二人は家主に気にすることなく部屋の中に入り、高そうな深紅のコートと真っ白なフワフワの毛がついたコートをハンガーにかける。
「DSOでしょ、あたしもちょっと気になってたのよね」
「動画見たけど、人間を斬ったり撃ったりしたら凄いカラフルな血が飛び散ってて笑っちゃったよ。あれ逆に気持ち悪いよね」
と言いながら二人はてきぱきとゲームの準備をすませてしまう。
「大の大人が日曜の昼間から男の子の家でゲームって背徳感凄いよね」
「最近SNSでVRデートって言葉が流行ってるし、別にそんなでもないっしょ」
「じゃあダブルデートだ」
「天城さんはダブルデートの意味を調べて下さい」
「ほら、リョウタロー早く行くわよ。岩城さん達待ってるし」
「う、うん」
遼太郎は二人の勢いに負けて、VRゲーム世界へとダイブする。
デスサバイバルオンラインの中に入ると、初めにロビーサーバーへと通される。
ゲームが開始されるまでの待合室のような場所で、ここでフレンドと一緒にゲームを開始したりゲームの設定をいじったりと準備を行う部屋であった。
ロビーサーバーの内装はゲームによって様々であるが、このデスサバイバルオンラインはどうやら大型の船で無人島に向かっているという設定らしく、ロビーサーバーは薄暗い船内だった。
目が覚めた遼太郎は辺りを見渡すと、100人近いタンクトップ姿のプレイヤーが既に待機しており、操作感を確かめるようにジャンプしたり走ったりと各々が動き回っている。
どうやらここでパーティーの勧誘もできるようで、外交的なプレイヤーは一緒にゲームしない? と話を持ち掛けているようだ。
「ここがロビーか」
遼太郎が自身の姿を確かめると、ボロいシャツにトランクス姿でサンダルをはいている。日曜深夜のコンビニにいるおっさんみたいな格好だ。
「初期装備酷いな」
苦笑いがもれる。どうやら、この初期装備は全員共通のようで、ほとんどのプレイヤーはボロボロのタンクトップにパンツ一枚だ。
男だけなら別にそんなでもないのだが、女性も何人かいて、目のやり場に困る人も多い。
「リョウタロー」
呼ばれて振り返ると、そこには自分と同じくタンクトップにパンツ姿なのだが、いきなりゲームの指定を全年齢からZ指定に引き上げる二人がいた。
「この格好やばいよね……」
むちっとした肉付きの良い二人の体を隠すには少なすぎる布面積であり、遼太郎はポルノ雑誌に出てきそうだねと言いかけて、口をつぐむ。
雪奈は恥ずかしそうにタンクトップを引っ張るが、今度は上から胸の谷間がはみ出てきて遼太郎は慌てて視線をそらす。
「あんたちょっと回線遅い?」
「同じ
「じゃあ処理重いんじゃない? あんた来るのに二分くらいかかってたし」
「三人でプレイしてるからね。処理はちょっと重いかも」
「遼太郎君が来る前に変な人に声かけられちゃった」
「ドゥフフフ、拙僧がデスサバイバルオンラインの指南をしてやろう、ありがたく聞くがいいって」
「それ岩城さんじゃないんですか?」
「失礼ね、岩城さんはもうちょっとマシよ」
自分で言っておきながらだが、桃火の返答は酷いと思う。
「いきなりデバイスのリアルアドレス送ってこられてびっくりしたよね」
「いらないって言ったらキレだすし、かなりやばい奴だったわ」
「そうなのか……それ日本人だよね?」
「そっ、ピザ体型で一昔前の気持ち悪いオタクっぽいの」
「女の人に声をかけるタイプって珍しいね。そういう人ってあんまり声かけてくることないのに」
「VRゲーが進歩して、他人をNPCとしか思えなくなった人間が増えたのと、TPSみたいな三人称視点じゃなく基本一人称視点が当たり前になってるから自分の容姿をちゃんと認識できない奴が増えたわ。犬が人ばっかりと接していると自分を人間と勘違いするような感じね」
「犬扱いは酷いんじゃ……」
「例えよ例え。別にブサイクが悪って言ってるわけじゃないし、あんただって顔の評価で言えば10段階で言えば6か7か……8くらいよ」
桃火の遼太郎に対する採点は激甘だった。
そのことは彼自身気づいていることでもあった。
「ろ、6か……」
「あたしは10だと逆に減点だからそれでいいのよ。10点満点のイケメンで性格良くてあたしと波長あう男なんて絶対存在しないってわかってるから。だから6でもあたしからしたら最高点」
「桃火ってね、話してたら大体最終的に遼太郎君の惚気になるんだよ」
「す、すみません……」
「う、うっさいわね!」
カッと怒りか照れかよくわからないが、顔を赤くした桃火を放っておいて遼太郎はもう一度辺りを見渡す。
「見た感じユーザーさんは外人が多い感じだね」
「日本人は全体の二割くらいかしらね。ユーザーのほとんどがイングリッシュマークつけてるし。翻訳機のおかげで異文化コミュニケーションがはかどるわ」
「ゲームきっかけで海外の方と結婚したってユーザーも多いみたいだしね」
「それゲームの中はいいけど、日常生活どうするつもりなのかしら」
遼太郎が桃火たちと合流して話をしていると、ロビーの奥から同じ格好をした岩城、椎茸、高畑がやってくる。
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